第30話 尾行の事情
翌日の朝。昨日、僕たち二人をどうも尾行していたっぽい
「で、二人とも、朝からいきなりどうしたの?」
「それはこっちの台詞よ。昨日の放課後、尾行してたわよね」
「そ、それは偶然あっちの方に用事があって……」
「前後考えると無理があるよ。別に怒ってないから、事情を言ってよ」
キスシーンを見られかけたのは少し恥ずかしかったけど、別にそれほど大した事じゃない。
「わかったわよ。言えばいいんでしょ。でも、どうでもいい理由だからね」
幾分やさぐれた声で言う八坂。
「前に彼氏欲しいって言ってたでしょ、私」
「言ってたね。それで?」
「でも、彼氏なんか居たことないから、ちっともイメージが沸かないのよ。恋愛ドラマも漫画も小説も所詮フィクションだし」
「まあ、現実とは違うよね」
「そのリア充目線がなんだかムカつくんだけどね。まあとにかく、実際、恋人同士って二人きりだとどんな感じなのかなってのが興味あったのよ。ただ、それだけ」
幾分憂鬱そうにそうため息をつく八坂。確かに、そういうのを白状させられるのは微妙な気持ちになりそうだ。
「なるほどね。それで尾行までされるのは予想外だったけど」
「だから言いたくなかったんだけど。でも、ちょっと羨ましいのが本音ね」
「やっぱり、彼氏作るしかないんじゃ?」
「だから、それが出来たら苦労しないって言ったと思うんだけど」
鋭い視線で睨まれる。
「好きな相手が居ない、だっけ。いっそのこと、試しに付き合ってみるとか?」
「そういうの、
「八坂は僕をどういう目で見てたのさ」
「お互いに告白をしてから、お付き合い。それから……みたいな恋愛観」
その言葉に、うぐっとなる。そう。本質的な問題ではないものの、僕たちのお付き合いと告白の順番というのは微妙にちぐはぐで、しかも、セシリーが「付き合い始めた」と思っている日とずれがあるのだ。
「そう?キョウヤは付き合ってから、告白してきたわよ?」
その事を根に持っているのか、セシリーがチクッと刺してくる。まだ思い出せていないのは悪いと思うけど、勘弁して欲しい。
「なんていうか、意外ね。セシリアが昔から雨次の事好きだったのは聞いてたけど。それじゃ、雨次の方からはなんとなく、ていう感じだったの?」
少し驚いた様子で聞いてくる八坂。
「ふふ。そこはもうちょっと複雑なのだけど……」
含み笑いをするセシリー。ほんとに楽しそうだけど、一体あの頃の僕たちに何があったのやら。
「セシリー、その辺は本題から関係ないでしょ?」
未だにセシリーからの宿題は解けていないけど、ここで持ち出してややこしい話にしないで欲しい。
「まー、お二人さんの経緯がフツーじゃないのはわかったけど。お試しでっていうのは、相手に失礼な気がするのよね。正直」
「それ聞くと、八坂の方が古風っていうか、お堅い感じだよね」
確かに、試しに付き合ってみて、というのは相手が真剣に想ってくれているケースだと失礼だという話はある。
「お堅くでわるうござんした」
「それはともかく。もうちょっと男子と交流してみるとか?真面目な話」
そう。前から少し気になっていたのだけど、基本的に八坂は女子グループで固まっている印象で、あまり男子と交流している場面を見ないのだ。
「正論だけどね。こう、男子ていうと性欲の固まりみたいな印象があって……」
と微妙に嫌そうな表情をする八坂。しかし、性欲の固まりって……彼氏が欲しいという割に、男性に対する警戒心が強いタイプらしい。
「そういうノリがあるのは否定しないよ。でも、その割には僕には平気ぽいけど?」
「雨次は彼女持ちだからね」
「そういう判定なんだ……」
微妙によくわからないけど。
「とにかく。そういうことなら、首は突っ込まないよ」
「そうしてくれると助かるわ」
そうして、八坂との話し合いは終わったわけだけど。
「ねえねえ。さっきの話で気になったところがあるのだけれど」
八坂が去っていった後でセシリーが言う。
「どうしたの?」
「遊里は男子を警戒してる割に、
「確かにね。よく知ってるから警戒対象から外れてるのかもだけど」
「反省したから、差し出がましい事は止めるけど……」
「誰かというなら、五木と一番うまく行く気がするよね」
などと、外野目線で話していたのだった。
「ところで、今回の件で実感したんだけどさ」
「どうしたの?」
「
なにせ、男子の中で比較的話す五木ですらよく知らなかったのだ。
「別に、そんな事気にしないでいいと思うわよ?」
「そうなんだけどね」
ただ、セシリーと二人きりで過ごす時間や、舞を含めた三人の時間も好きだけど、バカップルしているだけでなくて、交流の輪を広げてもいいのかもしれないと思ったのだった。
✰✰✰✰あとがき✰✰✰✰
クラスメートの内2人に少しだけスポットを当ててみた章でした。この二人の関係が発展するのか、あるいはそもそも恋愛しないままなのかは今のところ未定ですが、今後もちょくちょく出番があるかもしれません。
次の章では、再びラーメンにフォーカスを当てた話にするか、
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