第29話 お泊りの夜
「「「「いただきます」」」」
我が家の食卓に、四人の声が響き渡る。言うまでもなく、その内三人は僕、父さん、母さんの三人。ちなみに、父さんの名前は
そして、もう一人はというと-僕の最愛の彼女であるセシリーその人だ。
「んー。やっぱり、結子お母様の料理はさいっこう!」
やけにテンションが高い声で、母さんの料理を絶賛するセシリー。今日は、ご飯に肉じゃが、お味噌汁にほうれん草のおひたしといった和食の献立だ。
「セシリーちゃんに喜んでもらえて、嬉しい限りね」
そして、暖かい目で彼女を見る我が母。母さんはセシリーに料理を教えたりと色々仲がいい。
「うちもセシリーちゃんみたいな娘が欲しかったなあ」
そして、ぼやくのは僕の父さん。まあ、うちは一人っ子だったし、父さんの気持ちもわかる。
「セシリーちゃんに嫁いで来てもらえれば解決よ」
悪ノリする母さん。
「私も、キョウヤのお嫁さんになりたいわ。どう?」
「僕もだよ。そういえば、僕が18歳になれば結婚できるよね」
「学生結婚ならぬ高校生結婚、いいわね!」
名案とばかりに、セシリーが乗ってくる。
「そこはさすがに、セシリーちゃんの親御さんに意見を聞かないと」
一家揃って、既に彼女が嫁に来ることが決定事項みたいな事を言っているけど、単なる悪ノリではないところが、他の人が聞くと頭を抱えそうなところだろう。
「パパもママも全然オーケーよ!」
そう胸を張って宣言するセシリーだけど、まさか。
「ねえ、セシリー。実際に聞いてみたことあるの?」
「もちろんよ。将来のパートナーの事だもの!何か問題あった?」
「いや、ないけどね」
僕も今更彼女以外と、なんて考えられない。しかし、
「ただ、高校生結婚は、クラスの目が痛いんじゃないかなあ」
と、真面目に答えてしまう。人目をはばからずクラスでもいちゃついている僕らだけど、それもあくまで、恋人という枠の中だからこそ。高校生で結婚、なんて事になったら、さすがに呆れられるでは済まないだろう。
「そうなのよねえ。白い目で見られることが想像できちゃうわ」
日本にすっかり染まったセシリーとしては、さすがに高校生結婚というのが非常識に見られるという事は自覚している。
「ま、大学生になれば、そこまで言われないからさ」
「そうね。早く、大学生になりたいわ」
今度は、割と本気で言うセシリー。
「でも、結婚となると指輪とか色々お金がかかりそう」
「私は別に指輪とかこだわらないわよ?愛さえあれば大丈夫!」
「まあ。その辺はおいおいね」
しかし、我が家も
そして、食事を終えた僕らは交代でお風呂に。さすがに、一緒にお風呂とか言い出したら、いくら自由な我が家でも止められるだろう。実はちょっとやってみたいけど。
「ふにゃー」
猫のような声を出して、僕のベッドでごろごろするセシリー。お風呂上がりに、ピンク色の薄いパジャマがなんとも
凄くそそられるものを感じて、ベッドの上から覆いかぶさって、彼女の瑞々しい唇を奪う。
「んっうう……ちゅ」
しばらくの間、お互いにキスを交わし合う。そうしている内に、徐々に興奮してくる。
「はぁ」
唇を放すと、セシリーはとろんとした表情をしている。
「このまま、しちゃう?」
彼女からのお誘いの言葉。
「まだ早いし、もうちょっといちゃいちゃしない?」
「んー。それもそうね。それじゃ」
今度は、僕の胸板に頭をこすりつけてくる。
「セシリー、これ好きだよね」
彼女は、とりわけ、胸に頭をこすりつけるような仕草を好む。
「なんでかしらね。マーキングしてる気分かもしれないわ」
「マーキングってね……」
その表現にちょっと笑いが溢れる。
「だって、キョウヤは私のもの!って印をつけて置かないと、盗られちゃうわ」
「別に誰にも盗られないって。セシリー一筋だって」
「キョウヤがそうでも、強引にキョウヤを押し倒す女の子だっているかも」
「僕はどれだけひ弱なの?」
学校にいる女子に押し倒される光景は思い浮かばないので苦笑するばかり。
「わからないわよ?運動部で鍛えた女の子だったら……」
セシリーの言葉に、鍛えた女の子に強い力で押し倒される様を想像する。が、そもそも僕を慕う中で、そんな相手に心当たりがない。
「体育会系の子ならできるかもだけど。僕を好いてる子なんて思い浮かばないよ」
「でも、キョウヤ、意外と女子人気あるのよ?」
少し真剣な声色でそんな事を言われる。
「ええ?クラスでも、いっつも呆れられてるだけだと思うけど」
興味津々という子はいたけど、それはまた別だろう。
「ストレートに愛を囁いてくれる所がいいらしいわよ?彼氏が、もっとキョウヤみたいに愛情表現してくれたら……なんてよく聞くもの」
「そんな噂をされてたとはね。でも、ある意味僕らってクラス公認バカップルだし、手を出してくる子なんて居ないとおもうよ」
「むー。キョウヤまでバカップルなんていうの?」
「僕は君が好きなだけだけど、クラスから見えると、バカップルなのは事実だし」
それに、と続けて、
「君もつい最近まで、人前で愛情表現するの恥ずかしがってたよね」
「そ、それを言われると……。でも、私はもう吹っ切ったの!」
「ちょっと前の恥ずかしがりな君も可愛かったんだけどな」
「じゃあ、今の私は嫌?戻った方がいい?」
心配そうに聞いてくるセシリー。少し意地悪をしてしまった。
「もちろん、今の方が好きだよ」
言いながら、全身を抱きしめて、キスをする。お風呂上がりの身体は暖かくて、ずっとこうして居たくなる。
「なんだか、このままキョウヤの家の子になっちゃいたい……」
「前にも言ってたけど、ジョゼフさんたちが可哀想だって」
「パパもママもきっと笑って送り出してくれるわよ」
少し、冗談めいた口調でそんな事を言う。こんな一時が、たまらなく幸せだ。
「放課後に
「あれ、考えてたんだけど、なんだか僕らを尾行してた気がするんだよ」
「反対の方向なのに、鉢合うのも都合良すぎるものね」
セシリーもうなずく。
「でも、じゃあ、なんで尾行してたのかしら」
「そこがわからないんだよね。やっぱり聞いてみるしかないか」
「キスシーンを見たかったのかも?」
「さすがにそれは無いって」
僕らのキスシーンなど見ても一文の得にもならないだろう。
「……その、そろそろ、いいかしら?」
気がつくと、再びぎゅっと抱きしめられていた。
「うん。それじゃあ、そろそろ……」
こうして、いちゃいちゃしながらの夜は更けていったのだった。
ちなみに、そういう時の声を以前母さんや父さんに聞かれた事があったけど、「声はもうちょっと控えなさいね」と言われただけだった。自由過ぎる。
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