第28話 クラスメイトの事情と僕たち(2)

 その翌日。当初の予定に従って、遊里ゆうりの友達に話を聞くことになった僕たち。幸い、遊里とよくつるんでいる女子の一人である、東条五月とうじょうさつきさんは、二人の昔からの知り合いらしい。


「遊里と耕平こうへいのことねえ。私も小学校の途中からだし、そんなに詳しくはないんだけど。ていうか、なんでそんなこと知りたいワケ?」

「考えてみると、二年生になってからしばらく経つのに、あいつらのこと、あんまり知らないなって思ったんだ」

「そうそう。ついでに二人の間にラブな話でもあれば聞きたいわね」


「あんたら、いっつも二人でイチャイチャイチャイチャイチャイチャしてたからねえ」

「さすがにやり過ぎと思ってたりする?」

「別に私はどうもしないけどね。最近、学校一のバカップルなんて言われてるわね」

「別にバカップルじゃないのだけど。愛し合ってるだけよ!」


 ちょっと前まで人前で恥ずかしがってたと思えない口ぶりだ。セシリーもだいぶ毒されてきたなあ、なんて思う。


「そーいうのをバカップルっていうんだけど。ま、いいか。耕平と遊里が子どもの頃から一緒だったってのは知ってる?」

「うん。五木から聞いたよ。よく連れまわされてたって」

「ま、そんなところ。で、中学までは、耕平もぼやきつつもなんだかんだ楽しそうにしてたし、遊里も仲良くしてたのよね。休み時間は二人でよくしゃべってるのも見たし」

「へえー。そんな時期もあったのね」


 なんだかやけにセシリーが感心している。


「で、中学になってからも、なんだかんだでよく二人で話したり、遊んだりしてたんだけどさ。中学生ってこう、色恋に目覚める時期じゃん?」

「ふーん。そんなものなのね。私は小学校の頃からキョウヤのこと好きだったわよ?」


 セシリーがなにげにさらっと凄い事言ってるけど、僕は初耳だ。後で詳細をじっくり聞きたい。


「あー、はいはい。バカップルバカップル。それはおいといて。で、惚れたなんだの話してる中で二人で楽しそうにしてたら周りはどう思うかわかる?」

「付き合ってるんじゃないか、て疑うだろうね。僕らもさんざん経験したことだし」

「キョウヤは、「一番仲がよい女の子と一緒にいるのに何か理由が必要?」なんて言ってたわよね。堂々として、かっこよかったわ」

「かっこいいって程だったかな?」


 中学生の頃を思い出したのだろうか。どこかうっとりした様子だ。


「あんたら、話の腰を折るのが好きねえ」


 あー、このバカップルめ、という視線を感じる気がする。


「いや、ごめん。悪かった。続けて」

「で、耕平たちも付き合ってるのか?なんて言われてたわけよ」

「今はちょっと距離取ってる感じだけど、意外だね」

「耕平の方は別に気にした様子もなくて、「言わせときゃいいんじゃねえ?」てカンジだったけどね」

「それは目に浮かぶようだね」


 昨日、話を聞いた時も、泰然自若という感じだったのを思い出す。


「ということは、遊里はそうじゃなかったってことよね?」


 セシリーもそこを疑問に思ったらしい。


「まあね。最初は「そんな仲じゃないから」って言ってたんだけど、それだけだと勘ぐる奴らも居てさ。遊里の方から少しずつ距離置くようになっちゃったのよ」

「まあ、気があろうとなかろうと、その手の話は当事者にしてみればめんどくさいものだね」


 うんうんと頷く。


「ところでさ、遊里って金髪にピアスとか、なんかいかにもチャラそうな格好してるでしょ。あれ、実は高校からなの」

「高校デビューなんじゃないかって思ってたけど、本当だったんだ」

「高校デビューってね。ま、あの子格好だけで全然チャラい感じ出てないけど」


 と、苦笑しつつ、


「遊里としては、ストイックにスポーツやってる耕平とは違う人種なんだって主張したいのかもね」


 そう付け加えたのだった。


「遊里は単なる友達の耕平との仲を勘ぐられて迷惑だったのかしら」


 下校途中、少し沈んだ声で話すセシリー。普段より物憂げだ。


「どうなんだろうね。当事者じゃないからなんとも」

「興味本位で嗅ぎ回ることじゃなかったわね。反省だわ」


 そう言って、大きな溜め息をつく。


「迷惑かける前に気づけて良かったんじゃない?」

「それもそうなんだけど。仲がいいのを噂されるって、私たちもあったじゃない?今は付き合ってるからいいんだけど、正直、ほっといて欲しいって思ってたのよね。同じことしてしまいそうだったって思うと……」


 少し神妙な顔つきでそう続ける彼女。こういうときにきちんと振りかえって、悪かったところを整理できるのは彼女の美徳だと思う。


「セシリーはいい子だね」


 普段より少し優しく抱きしめる。こういう真っ直ぐなところはやっぱり大好きだ。


「うん……別にいい子だとは思わないけど。ありがとう」


 セシリーも僕を抱きしめ返してくる。見上げてくる、少ししょぼんとした顔も愛しくて、キスをする。


「ん……」


 彼女の吐息が漏れる。そして、今度は彼女からのキス。そんな事を何度か繰り返していたその時。


 ふと、視線を感じて周囲を見渡すと、何やら興味深げに僕らを見つめる女子生徒が一人。と思ったら、その女子生徒は先ほどまで話の種にしていた八坂遊里やさかゆうりその人だった。僕らに気付かれるや否や疾風のごとく去って行ったけど。


「キ、キスしてたの、見られたかしら」


 少し恥ずかしげに尋ねてくるセシリーだけど、今朝方、公衆の面前で割と平気でキスに応じようとしていたとは思えない恥じらいっぷりだ。


「見られた、かもね」


 僕は僕で、見せつけて喜ぶ程の趣味はないので、多少の気恥ずかしさはあったりする。


「でも、遊里って、私たちとは通学路反対よね?どうしたのかしら」

「どっかの店に用があったとか?」

「そうなのかしら……」


 首を傾げる僕らだった。まあいいや。明日にでもちょっと聞いてみよう。 






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