第23話 僕のきっかけと彼女のけじめ
幸い、遠くに行ってなかったらしく、すぐに彼女を捕まえることができた。
「キョ、キョウ君!?」
「さっきはほんとにごめん、舞。僕が色々無神経だったせいで」
「ちょ、ちょっと。そんなに頭下げないで!?私が勝手に羨ましがって、勝手に八つ当たりしただけなのに……」
「だって、舞が僕たちと一緒に何かをしたいっていうのは薄々わかってたのに。勝手に盛り上がって、君を除け者にするみたいなことになったのは事実だし」
「だから、それは私が悪いの!」
「だから、僕が悪いんだって!」
「ううん、私が悪いの!」
私が悪い、僕が悪い、の言い合い。
「なんだか、不毛な気がしてきた」
「私も」
舞の顔に少しだけ笑みが戻る。
「じゃあさ、謝り合いはこれくらいにしてさ。ちょっと色々話せない?」
「それじゃ、私の部屋でいいかな?」
「いいよ。でも、舞の部屋か。ちょっと久しぶりだね」
「でしょ?ずっと、キョウ君かセシリーちゃんの部屋だったし」
それから、舞の部屋まで歩いて行った僕たち。舞のお母さんに軽く挨拶をしてから、部屋に入る。ぬいぐるみや観葉植物などが置かれている、ごく普通の部屋。でも、本棚にやたらある、英語の学習本が目についた。
「それで、話したいことって?」
「何から話そうかな……まず、仲良くなった時の事かな」
◆◆◆◆
小学校3年生の頃。まだ、セシリー、当時はセシリア、と会ったばかりの僕は彼女と仲良くなろうと熱を上げていた。
日本語はろくに通じない、でも、僕には英語の知識もない。そんな中でどうやって彼女と話そうかと小学校でもうんうんと悩んでいた。
「
当時、同じクラスだった舞は毎日のように悩んでいる僕を見かねて声をかけて来てくれたのだった。
「
どうすれば仲良くなれるのかわからなかったので、誰かの意見を聞きたかった。
「外国人?その子、英語しゃべるの?」
「うん。でも、その子はひらがなもカタカナも漢字も全然わからない。どうすれば仲良くなれるのかさっぱりわからなくって」
「難しいね。でも、雨次君はどうしてその子と仲良くなりたいの?」
「その子はちっちゃくて妖精みたいに綺麗で。なんだか気になるんだ」
今思えば、こんなことをよく素面で言えたものだ。
「雨次君、ひょっとしてその子のことが、好き……なの?」
「好き、なのかな。よくわからないや。でも、仲良くなりたいのは本当」
「それなら、
「和英辞典?なにそれ?」
「国語の辞書ってあるよね?和英辞典は日本語と同じ意味の英語がわかる、みたい」
「なんで自信なさそうなの?」
「私も和英辞典なんて使ったこともないし」
そのアドバイスをきっかけに、まず、「こんにちは」を意味する、「Hello」という英単語を引いて意思疎通を試みたのだった。そして、少しずつ彼女と仲良くなっていくことが出来たのだった。
◇◇◇◇
「あはは。そんなこともあったね。でも、そこから、英語をちゃんと勉強して、ほんとに仲良くなっちゃって、今は熱々な恋人だもん。キョウ君は本当に凄いよ」
真剣な瞳でそう断言する舞。
「僕が凄いかはわからないけど。でも、あの時のアドバイスがなかったら、セシリーとの今の関係はなかったと思うんだ。それに、その後も何度も相談に乗ってもらったし。本当に舞には感謝してるんだ」
今まで、照れくさくて言えなかったけど、ずっと言いたかったこと。
「そっか。ありがと。私も少しは力になれてたんだね。それで、続きは?」
「僕は、舞の事を本当に大切な友達だと思ってるんだ。だから、勝手に遠慮したりしないで欲しい。あ、今日のことは僕が悪かったけどね」
「勝手に遠慮って……」
「三人で部屋に集まると、すぐ、僕らを二人きりにさせようと遠慮してたでしょ?僕らが付き合い始めてから、ずっと。僕もセシリーもそんな気の遣い方はしてほしくないんだ」
「でも、セシリーちゃんだって二人っきりになりたいはずだよ」
「二人っきりの時間はいくらでもあるから。それより、三人で遊べる時間も大切にしたいんだ。わかってくれないかな?」
どうだろう。伝わるだろうか。
「ね。私が遠慮してた理由。それだけだと思う?」
「……」
ああ、やっぱりかという気持ちが湧いてくる。
「私はね。キョウ君が好きなの!セシリーちゃんに一生懸命なキョウ君を見てから、ずっと。でも、キョウ君はセシリーちゃん一筋だし。それに、私はセシリーちゃんも好きだから、割って入りたいわけじゃないの。だから、距離を置こうと思って……!」
薄々、舞の気持ちには感づいていた。だけど、僕が勝手に舞の気持ちを問いただすことはできずに、そのままだったけど。まさかこんな所でわかるなんて。
「一つ聞いていいかな?」
「……うん」
「舞は、僕やセシリーと一緒に居るのがつらいの?」
舞と僕らが三人で仲良くしていられるかを知るためには重要な問いだった。
「そんなことない!キョウ君のことは諦めてるし、それでもただ側に居たいだけなの。でも、セシリーちゃんを嫉妬させちゃうかもだし」
「ならさ、きっと大丈夫だよ。セシリーはあれでヤキモチ焼きだけど、気持ちを疑ったりはしないし。もちろん、舞が一緒にいるのが辛いなら、何も言えないけど。それで、どう?」
結局の所、僕たちが舞と一緒に居たいと思っても、舞が辛いなら歪なままだ。だから、そこは彼女に任せるしかない。
「一緒に居て、いいのかな?」
「もちろん」
「これからも、Ramen Walkersに参加していい?」
「もちろん。舞みたいな可愛い子が増えるのは大歓迎」
「調子がいいんだから。それと……お客さんじゃなくて、ちゃんと二人と一緒にやりたい。英語はまだまだだし、動画編集もわからないけど、頑張って勉強するから」
「わかった。じゃあ、ソフトの使い方とかもちゃんと教えるから。英語も一緒に勉強しよう?」
「うん。ほんとにありがとね。勝手に拗ねてたのに」
舞の目から少し涙が溢れる。
「だから、あれはどっちも悪いってことになったでしょ?」
「そうだね。それと……一つだけいいかな?私なりのケジメ」
「うん。言ってみて?」
その言葉から、何を言いたいのかは予測がつくけど。
「キョウ君。私は、あなたの事が好きでした。いつからかはわからないけど、きっと、セシリーちゃんと仲良くなるために一生懸命なあなたの姿を見ている内に」
「うん。ありがとう」
「だから、恋人として付き合ってもらえませんか?」
答えがわかりきった告白。でも、踏ん切りを付けるためには重要なんだろう。
「ごめん。僕にとっての一番はセシリーだから付き合えない。でも、舞は昔からの大事な親友だから、これからも仲良くして欲しい。ってちょっとひどいかな」
「ううん。それでいいよ。だって、キョウ君とセシリーちゃんはやっぱりずっと仲良くして欲しいし、私も二人と仲良くしていたいもの」
ひょっとしたら泣いているかなと思っていたけど、舞は意外にも嬉しそうだった。
「なんだか、嬉しそうだね?」
「だって、私に勝ち目が無いなんてとっくに分かりきってたことだもん。だから、親友って言ってくれてとっても嬉しかったの」
そう言う舞は、とても自然な笑みで、思わずドキっとしてしまいそうだった。
「どうしたの?」
「いや、なんでもない」
少しだけど、ときめいたなんて言ったら、セシリーにどんな嫉妬をされるやら。
「それじゃ、セシリーちゃんのところに戻ろっか」
「いいの?気まずいんじゃない?」
「セシリーちゃんの方がきっと気まずいよ。だから、ちゃんと謝って、これからも仲良くしたい」
「そっか。ありがと」
自分を振った男と、その相手と。
そんなのと一緒に居たいと言ってくれる相手はそうそう居ないだろう。
だから、そんな幼馴染で親友な子が居てくれて良かったと、そう思ったのだった。
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