第24話 これからは三人で
「あれ?もう戻ってきたの?」
「その。セシリーちゃん、ごめんね。さっきは急にへそ曲げちゃって……」
「私達も悪かったし、別にいいわよ。私こそごめんなさい。でも……」
そこまで言って、なんだか舞の様子をじーっと窺っている。
(ねえ。ひょっとして、舞から告白されたりした?)
(え、えーと。うん)
まさか舞の様子を見ただけでそこまで分かるとは鋭い。
(それで、まさか……浮気、してないわよね?)
(そりゃもちろんだよ)
(わかってる。冗談よ)
「で、さっきの作業の続きをしようと思うんだけど。その前に、舞もこれからRamen Walkersに一緒に参加してもらってもいいかな?」
「そうなの?舞」
「うん。ずっと、羨ましいなーって思ってたから」
少し恥ずかしそうにしながら、そう正直に告白する舞。
「でも、二人っきりの時間邪魔しちゃわないかなって……」
「それくらい大丈夫よ。二人っきりの時間はいくらでもあるもの。ね?」
「うん。正直、十分過ぎるくらいあるから、気にしないで」
ましてや、他の人が見ていてもバカップルな事をし始めた僕たちだ。
「じゃあ、よろしくお願いするね」
折り目正しくお辞儀をする舞。
その様子に、ようやく僕も一安心する。
「よし。じゃあ、動画編集作業に戻ろうか。舞も作業見ててね?」
途中だった作業を再開する。とはいえ、後は細々とした作業が残るばかりだ。
「そういえばさ。舞はどういうポジションで出たい?」
主に録画担当の僕とは違い、舞にも積極的に映ってもらうことになるだろう。
「どういうポジションって……。一緒にやりたいとしか思ってなかったよ」
と困惑した様子の舞。
「たとえば、セシリーと一緒にレポートするとか。セシリーにツッコミを入れるのでもいいよ?」
「なにそれ。そんなに私はボケてないわよ」
ぷんぷん、という擬音でも出そうな顔で文句を言う。
「よく、撮影中なこと忘れてボケーッとしてるよね。あと、先週だと謎の明太子ご飯推しとか」
「ぼけーっとしてたのは、確かに不注意だったと思うけど……。明太子ご飯推しでも別にいいじゃない?」
「悪いわけじゃなくてね。そういう所に、舞が「なんで明太子ご飯推し?」とかツッコミ入れるとちょうどいいと思うんだよ。他にもセシリーがちょっと変なこと言ったらツッコミ入れる感じで。どう?」
視線を舞に向けて尋ねてみる。
「わかった。じゃあ、私はツッコミ役ね。あと、撮影中にハグしてもいい?」
なんとも舞らしいお願いに僕は苦笑いだ。
まあ、女子同士仲良くしてる姿は絵的にも悪くないだろう。
「じゃあ、ラーメンの事忘れないように、ほどほどにね」
「ちょっと。勝手にハグする許可出さないでよぅ」
「じゃあ、ダメ?結構絵になると思うんだけど」
「別にダメじゃないけど……わかったわ」
「よし。これで、役割は決まったね。あとは……」
「質問、質問!」
舞が手を挙げた。
「なに?」
「撮影中にキョウ君に話しかけてもいいの?」
なるほど。どうしたものかなあ……
「これまでだと、僕がセシリーにレビューを聞いたり、話を振られたりする役割だったからね。基本的には、舞はセシリーと絡む方向が嬉しいかな。視聴者も、いきなり舞が親しげに僕に話しかけてると、何?ってなりそうだし。それに、女性関係で勘ぐられる要素は……減らしたい」
「どういうこと?キョウ君とセシリーちゃんの関係って伏せてあるの?」
「そこが微妙なところでね。明確に恋人とは言ってないけど、毎回見てる人なら、そうだろうなーって想像はつくと思う。以前、アシスタントの「彼」は恋人ですか?なんて問い合わせが来たからね。普通の人が好奇心で問い合わせてくるのはいいんだけど……」
「私の熱烈なファンの人が、「その男は誰だよ!このクソビッチ!」なんてコメントをしたことがあったのよね」
その時の事を思い出したのか、ため息をつくセシリー。
「うわあ。アイドルの追っかけで聞いたことがあるけど、やだねー」
その様子を想像したのか、露骨にげんなりした様子の舞。
「というわけで、ただでさえそういう面倒くさい人がいるわけだから、舞と僕が親しげに話してたら、浮気か?とか三角関係か?とか変な誤解……というか、面白がる人も出てきそうだし」
相手にしなければいいんだけど、めんどくさい手合いなことには変わりない。
「じゃあ、キョウ君に話しかける時は、ちょっと距離を置けばいいかな?」
「そうしてくれると助かるよ。あとは……そうそう。舞にもラーメンの知識をつけてもらえるといいかな。別に少しずつでいいんだけど」
「別にいいんだけど……そういうのはセシリーちゃんでいいんじゃないの?」
「たとえば、舞がラーメンに詳しくなれば、セシリーのラーメントークに入っていけるでしょ?今回みたいなのもアリだけど、「私は博多とんこつよりも……」とか言えれば、面白いかなって。あくまで例だけど」
「うーん。すぐには無理だけど、頑張ってみる。でも、それだけ食べ歩きするとお小遣い……と、体重が心配だよ」
ああ、そうか。お金の問題をすっかり忘れてた。
「Ramen Walkersの広告収入があるから、食べ歩きの分はそこから出すよ。ある意味勉強だから、経費とも言えるし」
「え、それはちょっと悪いよ」
「舞もこれから出演する以上はしっかりさせて?一応、個人事業主として、その辺のお金のやり取りはきっちりしなきゃだし」
「個人事業主って……フリーランスって奴?」
「実質おなじようなものだね。税務署にも申告してるし、経費で落ちるから」
「キョウ君、そんなこともやってたんだね。ちょっと尊敬だよ」
キラキラした眼差しで見られてしまう。
「そうそう。キョウヤには会計とか任せっきりだもの。ほんと、感謝してるわ♪」
「地味な仕事は僕がやった方がいいしね」
「もう一つ。英語はもっと出来なくても大丈夫かな?こないだみたいに置いてけぼりにならないようにしたいんだけど」
そこも気にしていたっけ。
「まずは、普通に日本語でセシリーと絡んでもらえればOKだよ。時々、舞が英語で質問してみても面白いけど、少しずつ、かな」
「わかった。頑張るね!」
「ほんとに、無理しないでね」
舞の部屋を訪れたときにも、英語学習本が色々あった。
かなり頑張っているみたいだから、あんまり無理はして欲しくない。
「もう18:00だわ」
腕時計を見ていたセシリーがふと気づいたように言う。
「じゃあ、そろそろ解散かな」
「せっかくだから、うちに寄ってかない?ラーメンご馳走するわよ」
「それもいいね。ちょっと聞いてくるよ」
「私も」
僕は、家にいる母さんに直接。
舞は自宅に電話をかけて夕ご飯を食べてくる旨を告げた。
「こっちはOK」
「私もOKだよ。もっと早くいいなさい!って言われちゃったけど」
「それじゃ、行きましょ」
三人で、連れ立って部屋を出る僕たち。
「こうやって、仲良く夕ご飯なんてちょっと幸せかも」
しみじみと言う舞。
「何?急にそんなことを言って」
「そ、その。本気で思ったんだもん」
少し恥じらいながら言う様子は、なんとも健気で。
「舞はいい子だね」
そう、なんとなく言ってしまった。
「その子ども扱い止めて欲しいな?」
「やっぱり浮気?」
女性陣から責められて。
でも、ようやく歪だった関係がもとに戻った気がして。
晴れ晴れとした気分で家を出たのだった。
「あ、ラーメンばかり食べてると、太っちゃう問題は解決してないよ!」
「運動してれば大丈夫よ。私もキョウヤも週に3回はジョギングしてるわよ?」
「道理でふたりとも体型変わらないと思った」
「さすがに、太らない体質なんて都合のいいことはそうそうないからね」
体型を維持するには、普段の食生活と運動が大切。
僕もセシリーもその基本を守っている。ただ、それだけなのだけど。
「そういうのきちんと出来るところ、尊敬するよ」
舞には尊敬されてしまった。
☆☆☆☆あとがき☆☆☆☆
第4章はこれで終了です。
次は、今度こそ、主人公たちの家族絡みの話を……書けたらいいなあ。
あるいは、主人公のクラスメイトにスポットライトを当てるかも。
乞うご期待。
コメントやレビューなどいただければ、励みになります。m(__)m
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