第16話 ラーメン好きなお父さんっ子との出会い(2)

『セシリア、ちょっと聞いてもいいですか?』

『なんでもどうぞ』

『セシリアは、なんでRamen Walkersを始めたんですか?』


 きっかけか。


『その辺りは僕が説明した方が早いかな』

『キョウヤ?』

『実は、高校1年生のときの話なんですけど……』


 僕とセシリーがまだ付き合っていなかったときの事を語る。


◇◆◇◆


 当時、僕たちはまだ高校に入ったばっかりだった。

 運良くセシリーとは同じクラスになったけど、舞とは別。

 そして、僕たちが何をやっていたかと言えば-食べ歩きだ。


「はー。幸せ」


 豚骨スープを飲み干して、極楽浄土にでもいるかのような表情のセシリー。


「はしたないよ。スープが口元についてる」


 口元についていたスープの汚れを、ティッシュで拭いてあげる。


「ちょ、ちょっと、恥ずかしいんだけど」

「別にいつものことでしょ?」

「それでも、人目があるもの……」


 その頃からやっぱり恥ずかしがりやだったセシリー。

 僕はそんな彼女と一緒にいる日々がとても幸せだった。


 そして、僕の家に来てなんとなく遊ぶのもよくあることだった。

 そのときに彼女が見ていたのは、食レポをするユーチューバーの動画だった。


「なんだか、羨ましいわ」


 動画を見ながら、ため息をこぼすセシリー。


「羨ましいって何が?」


 美味しそうだなとは思うけど。


「だって、この番組100万再生行ってるのよ?」

「それが?」

「多くの人が見てくれてるってこと」

「アイドルみたいになりたいってこと?」


 もしや、再生数をかせいでアイドルとして活動したいのだろうか。

 そんなことを思ったのだけど。


「私はどうでもいいの。ラーメンの良さをもっと伝えられるのに、って思っただけ」

「日本だと、ラーメンは皆知ってると思うけど」

「そうじゃなくて、世界中に発信したいの。ラーメンって美味しいってことを」

「世界とは大きく出たね」


 少し苦笑いしてしまう。


「私は本気よ?」

「ということは、ユーチューバーでもやりたいの?」

「うん。でも、どうすれば始められるのかわからなくて……」


 なるほど。まあ、たしかに始めるのは難しそうだ。

 しかし、せっかくやる気を出しているのだからなんとかしてあげたい。


「じゃあさ、ラーメン店のレビューをするユーチューバーはどうかな?」

「でも、似たようなのは他にあるわよ」

「セシリーはバイリンガルだろ?それを活かせば独自性を出せると思うんだ」

「……そうかしら?」


 自信がなさげな彼女。


「とりあえず、1回やってみようよ。駄目だったら、そこで止めればいいし」

「そうね。やらずに諦めるのはもったいないわね。キョウヤ、よろしく頼むわよ」

「了解」


 そうして、僕たちは、まず手始めにジョゼフさんのラーメン屋のレビューをしてみたのだった。その結果はというと、まあまあ好評で、これなら続けられそうということになったのだった。


◇◆◇◆


『というわけ』

『なるほど。キョウヤのおかげだったんですね!』

『もちろん、セシリーが言い始めなければなかったけどね』


 正直な気持ちだ。


『二人は長い付き合いなんですか?』

『まあね。小学校の頃からだから、7年くらいかな』

『運命的な感じで羨ましいです』


 感動といった顔で僕らを見つめてくる。


『いやいや、そんな大したものじゃないですから』

『そうよ。なんとなく一緒に居ただけよ』


 二人して、むず痒い気持ちになる。


『ところで、チェルシーさんは今日はどこから?』


 見るからに、大きいスーツケースとかはないけど。


『今日はIchigaya市ヶ谷のマンションから来ました』


 市ヶ谷いちがやはJR総武線沿いにある都内の駅だ。


『じゃあ、もうお引越しは?』

『もう終わりました。パパのお仕事が終わるまでは、そこに住むつもりです』

『それまでは、市ヶ谷から高校に?』

『ええ。都内のインターナショナルスクールになんとか』


 なるほどね。やっぱり、普通の高校だと転入は厳しいか。


「ね、ね。それよりグッグルのこと聞いてみてよ。お仕事内容とか」


 舞からのリクエスト。


『マイがグッグルのお仕事を聞きたいそうよ』


 セシリーが通訳する。


『私も、詳しくは知らないんですが……』


 と前置きした上で、チェルシーさんは話してくれた。


『パパはグッグル内では、音声認識のお仕事をしているんですよ』

『音声認識?グッグルホームのようなのかしら?』


 グッグルホームは、最近流行りのスマートスピーカーだ。

 スマホや専用機器に搭載されている。

 『ねえ、グッグル』で、いろいろな作業を命令できるのが特徴だ。


『ええ。その中でも、プロジェクトリーダーをやっていて。いつも、とっても楽しそうです。家でもプログラミングで何でも作ってしまいますし。私の自慢のパパですよ!』


 誇らしげに胸を張るチェルシーさん。


『そういえば、チェルシーさんのお母さんは?』


 ふと気になったことを聞いてみる。すると、


『ちょっとキョウヤ。いきなりプライベートなことを聞くのは失礼よ』

『あ、ごめんごめん。つい』


 確かに、初対面で聞くことじゃなかった。


『ママはパパと小さい頃に離婚してます。時々二人で会ってますけど』


 そうあっけらかんとチェルシーさんが言ったのが意外だった。


『離婚、したのに、ですか?』


 離婚したのに、二人で会うということがちょっと想像できない。

 仲が悪かったわけじゃないのだろうか?


『ええ。なんでも、ママは一度離婚してみたかった、とか』


 苦笑いしながらそう付け加えた。

 離婚してみたかったって、何を考えているのだろうか。


『とにかく、離婚してますけど、今は楽しくやってますね』


 あくまで明るくそう言ったのが印象的だった。


「……ということみたいよ」


 チェルシーさんの言葉を通訳するセシリー。


「離婚したのに、仲良くしてるって凄いね……」


 なんとも言い難い表情の舞。


「僕も同感。愛の形も色々ってことかな」

「私は、離婚はしたくないわね」


 なんて言いつつ、僕の事を見つめてくるセシリー。


「ひょっとして、僕と結婚すること意識した?」

「もう。そういうのは思っててもいわないで!」


 頬を赤らめてしまうセシリー。

 

「あ、そろそろ見えてきたよ」


 今日のRamen Walkersの撮影場所である『水竜』に到着した僕たち。


「それじゃ、これからカメラ回すから。撮られてるていうの意識してね」

『あ、チェルシーさんも。これから撮影始めるのでよろしくおねがいします』

『私はどうすれば……?』

『適当でいいです。セシリーとしゃべりつつ、ラーメンの感想を言ってもらえれば』

『わかりました。よろしくお願いしますね』


 そうして、Ramen Walker特別編の撮影が始まったのだった。

 

  • Twitterで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る