Stage.2-5 突然、ドームコンサート?!

ゲームセンターの奥にある仕切りから出て、通路を進んで行く。

無機質な壁に突き当たると、エディは右手首のバンドをそこへかざした。

すると、ピーッと音が鳴って同時に鍵が解除され、厚く重たい扉を手のひらで押して開ける。


「サァ、入ってくれ」

「はぁ……?」


未来はポカンと口を開けたままで、反対に青空の口は重たく閉じたままだ。

二人が通された空間は、学校の教室よりもやや狭いくらいの広さだ。弱い明かりは点いているが窓はなく、四方は暗い壁に囲まれている。


「何にも、ないけど……」


青空は天井と周りを見回した。

ただ部屋の端に幅1.5メートルくらいの小型カウンターが置かれているだけだ。


するとエディはそのカウンターに近付き、下へ手を入れるとスライドして棚が現れた。

そこから取り出した物を、青空と未来にそれぞれ手渡す。


「これがデバイスだ」


それは、手のひらに乗るほどのサイズで、シリコンで出来たアクセサリーのように見える。


「耳にこう引っ掛けてくれ」


エディはデバイスの1つを摘んで、青空の右耳に付けた。


「あの、メガネ掛けたままでもいいの?」

「ああ、問題ない。これは2つで1組、ヘッドホンの要領だ」


青空はペアになっているもう一つのデバイスを摘むと、左耳の縁に被せるようにして付けた。


「こうか?」

未来も青空を見ながら、同じようにデバイスを装着した。

2人は顔を見合わせ、その見た目に軽く吹き出す。


「へぇ~、おもしれぇ」


両耳に装着したデバイスから、半透明のプレートが斜め後ろに跳ね出している。

まるで、耳の後ろから生えた羽のようなビジュアルだ。


そのまま二人は、部屋の中央付近まで移動されられる。


「よし、準備はOKだ。レッツゴゥ!」


パチン。

エディが指を鳴らした。

途端にフッ、と視界が暗くなった。


「えっ、え……」

「ショウの開幕だ!」


次の瞬間、光が現れた。

青空と未来は、明るい方向に目を向けた。

天からスポットライト。1つ、3つ、8、10、次々と増える。

同時に白い煙がシュワシュワと空間に充満してきて、スポットライトの光に照らされ光線のようになる。


「――!」


青空は胸の辺りを掴んだ。心拍数が上がるのを意識した。

煙を見て、つい先日あったばかりの恐怖を思い起こされたのだ。

身体が震え、堪らず目を瞑る。


――ドドッ!


大きな低音にビクッとなって、目を開けた。

その目の前に見えたものは。


「オーーラーーイ! トキォーーー!!!」


学校の体育館よりも何倍も広いステージ。

そのセンターに立つ男が、スポットライトを浴び、マイクで大声を張り上げていた。


(えっ? なっなっなに)


青空はステージ向かって数メートル先の正面、段差の下から見上げている。


ワァァーーーー!


すぐに大歓声と拍手が起こる。

見回すと、左右に、後ろに、観客が大勢立っている。腕を上げたり手を叩いて騒いでいた。

それは、ステージ周りを取り囲むように丸いドーム状のコンサートホールだった。


隣に立つ未来も同様に反応して、驚きの表情で青空の肩をポンポン叩いて口を開いた。


「スゲェー!」


二人が振り返ってみると、後ろにエディが笑顔で立っていた。指を前に出して、前を見ろ!というジェスチャーをする。


大音量で楽器が鳴り出した。

地響きするようなドラムのリズム、ギターの弦を掻き鳴らす音は衝撃波のように空気を揺らす。

青空は腹の底から胸にかけて、ビリビリと震えるのが分かった。


  Everybody~ Rock 'n' roll!

  Hey!


ヴォーカルの男が、ギターを弾きながらスタンドマイクに向かって歌い出した。


(――! これって……!?)


青空はハッとして、ヴォーカルの姿に注目する。胸がワクワクするのを感じた。


――火事の中で見た、幻のバンドが演奏していたシーンに似ている。

だが、その姿は全く違っていた。


ステージに立つバンドメンバーは、見るからに体の大きい外国人だ。頭はモジャモジャの金髪ロング、いかついツノの生えたショルダーパット、黒いマントを羽織り、前は大きくはだけ胸毛を出した皮のトップスに黒の皮パン、底の分厚いロングブーツ、顔は赤や青でペイントされた怪人のような出で立ち。

そもそも曲が全然違う……でも。

“同じ”だ。


  We Love Rock 'n' roll!

  All-night Long?!


英語で歌っているが、中学生になったばかりの青空達にも聴きとれるくらいの単純な歌詞だ。


『ロックンロール!』


――青空が探している音楽、幻のバンドも同じ言葉を歌っていた。

通じている、きっと近いものに違いない。青空はそう感じて拳を握った。


隣に立つ未来も、ステージを見上げ演奏を聴いている。その表情には微笑みが溢れていた。


ステージに光が集中して輝いている。

スポットライトがセンターに立つメンバーを照らし、その後ろにはドラムセットが要塞のようにドッシリと構えている。

ステージ背面に電飾がピカピカと派手に点滅し続けている。

それはアルファベットを型取り、

『A-C-E』の3文字が流れるように光っていた。


ホールには歓声と拍手が溢れ、高い声を上げたり、ピューッ! と指笛を吹く人もいる。

歌が終わっても、ギターの音はロングトーンで鳴らしたままだ。

ヴォーカルがマイクに向かい呼びかける。


『ハローー! コンニチワートキオーー!』


ヴォーカルが右腕を挙げて指を立てた瞬間、ドゥン! とドラムが大きな音を立て、ギターとベースは同じ音を鳴らした。

すると観客は一斉に腕を挙げ、歓声は一層大きくなった。


続けて、次の曲が始まる。

ヴォーカルは低く重みのある声から、高く伸びる音まで張り上げて歌う。

左右に立つギタリストとベーシストがコーラスを歌えば、観客が揃って歌い出す。


  Thunder~! Thunder~!

  Powerーーー! Woooーー!


空間は歌声で満ち、観客の挙がる腕は波のように1つの大きな流れとなる。

そして、曲の流れに合わせて自然と手拍子が巻き起こった。


パン、パパン、パン、パパン。


青空と未来も、ステージを見つめながら揃って手を叩く。

そのままドラムがビートを刻み、観客の手拍子はリズムに乗って速くなる。


右側のギタリスト、左側のベーシストが中央へ移動してきて、ヴォーカルと3人横並びになり揃って左右に体と楽器を揺らす。


バーーン!


歌い出しと共に、破裂音が鳴った。

何本もの火柱がステージの背面に上がる。

青空はその衝撃にビクッとして体を縮めた。暖かい風圧が身体に掛かる。


ウオオオオオーー!


オーディエンスが興奮する叫びは、地鳴りのようにホールを揺らす。

それを上回るかのように、強いドラムの響きとギターのメロディが震わせる。


ヴォーカルは声を張り上げ、観客の動きはまるで一体化した生き物のようになっていた。


Whooo~、oh yeah~!

Don’t stop rockin’!

Don’t stop rockin’!


同じメロディを繰り返して、曲は終わりへと進む。

次の瞬間、ボーカルの身体がフワッと宙に浮いた。

両腕を広げ、ポーズを取ったままぐんぐんと上へ飛翔する。

合わせてドラムは連続で強く打ち加速した。

掻き鳴らすギターとベースの音が鳴り続ける。


青空と未来は圧倒されて口を開いたまま、すっかりステージに引き込まれていた。


その時、突然音が止まった。

無音になり、目にしている全ての動きがストップして凍ったように静止していた。


「――えっ」


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