3章13話 - 最終決戦
「Che io non preghi per essere al riparo dai pericoli,
(危険より守りたまえと祈るのではなく、)
ma per avere il coraggio di affrontarli.
(危険に立ち向かう勇敢な人間であらんことを)
Che io non preghi perche venga lenito il mio dolore,
(痛みよ
ma per riuscire a superarlo.
(痛みに
Che io non mi affidi agli alleati sul campo di battaglia della vita,
(人生という
ma piuttosto alla mia propria resistenza.
(
Che io non brami mai, angosciato di paura, d'essere salvato,
(不安と
ma speri piuttosto nella pazienza necessaria a conquistare la mia liberta.
(自由を勝ち取るために
初めに
彼のはなつ
黄金の戦士は嫌でも気付かされた。
流出量は、完全回復などという
「ナオ! あなた、まさか自分の命を
「そう驚くことか? この魔力は努力して
まさしく先の詩だ。ただ与えられることになんの意味がある。一度失ってしまったら二度と取り返せないし、同等の価値を用意することもできない。そんなもの、最初から自分の持ち物ではなかったということだ。
真に大切ならば。絶対に失いたくないのであれば。完全に壊れ、消えてしまうまえに、みずから手放さなくてはならない。
そう、手放すのだ。
使わない鉄は
〈暴食〉を
「それにゲームだろうがリアルだろうが、勝つためにやることはみんな一緒だ。――最も相手の
黄金の傷を
すかさず心身が防衛本能を働かせる。――すなわち奪え、
ゆえに、その凶暴な衝動の
カインやシャロンではなく、
「結界を
カウントダウンが終わると同時、結界が消失した。たちまちイシュタルの連撃がおぞましい
「なあ、本当にお前こそが母親だってんなら――あいつがあいつとして生きることを否定してんじゃねえよ!」
わずかの魔力すら
「……誰かを守るなんざ
かつてのように復讐を誓うのではない、勝利を誓うのだ。
過去を
「勝つのはオレ様たちだ! ――さァ、
ふたたび無数の銃火器が満ちた。
命を
「少々女を知っただけの青二才ごときが生意気な! その
バベルの魔力を
だが彼にとっての
「おおおおおッ! 〈
反射という性質上、敵を
たとえバベルに
「勝てよ、負けたら
ずたぼろの手で、腕で、全身で――カインはシャロンの背を押した。
シャロンも
パンドラを抱きかかえながら、
「……君は……」
「また
「どうして、ここに?」
声はバベルの……否、皆守紘のものだった。イシュタルが沈黙したからこそ、本来の
「何千年もまえの始まりのように。私の命で、
そしてこの声は、言葉は、……
ギリシャ神話における人類
シャロンに抱きしめられながら、ベアトリーチェが言う。
「シャロン、あなたがわたしの
地獄の門を抱きしめながら、初代パンドラが言う。
「ヒロ、
初代、当代、……今まで
「もう
それは人の死だった。
それ以上に、人の生そのものだった。
「生まれてきてくれて、ありがとう」
春の日に、桜が舞い散るように。
夏の日に、
秋の日に、
冬の日に、
パンドラと呼ばれた少女が、
「……ぼくは、」
誰かのために命を
彼女は、バベルに〝人とはかくあるもの〟を伝えた人間なのだ。
「ぼくは……僕は……!」
緑。自然。……生命。
地獄をうみ、地獄だけをつぶさに見てきた存在が、なぜ生命を
絶望と
「でも僕は……たくさんの命を見殺しにしてきたのに……!」
バベルとしても、アベルとしても、多くの命を奪ってきた。今とて皆守紘となるために、またパンドラを犠牲にした。
過去にはもどれない。
――そんな気持ちが
「う、あッ……!?」
「愛しい我が子バベル。そうです、この世は
ヒロのくちで、ヒロの声で、あまく、優しく、
「母にすべてを
「……ぅ、あ、ああっ……」
自分を
「しっかりしなさいよ!」
殴られた。
「パンドラが死んで、あなただけがつらいんじゃない! 悲しいんじゃないんだからっ!」
胸ぐらをつかまれ、さらに殴られた。
けれど、ああ、どうして殴りつけた彼女のほうがつらそうなのだろう。
いや、違う。そうだ、……そうだった。つらいのは彼女だ。苦しいのも、悲しいのも、痛いのも、きっと彼女のほうだ。誰かを傷付けて楽しい人なんていない。本当はみんな、誰かを悲しませたくない。
「あの子の死を〝悲しいだけのもの〟にしないで! ただ〝あなたを悲しませるだけのもの〟にしてしまわないでよっ! あの子はちゃんと生きたの!
シャロンの双眸から
いまや
でもそれが、ただどうしようもなく――……
「……シャロン、君は、泣いて……」
「あの子が死んだのよ。悲しいし、苦しいわ。泣くに決まってるじゃない!」
でも、と
金の少女は〝皆守紘〟にむけて叫ぶ。ただ叫ぶ。
「でも、たとえどんなにやり直せても、私はここに
騎士としてのシャロン・アシュレイが、パンドラの死を
少女としてのシャロン・アシュレイが、ベアトリーチェの死を乗り越えようとしている。
ならば自分にはなにができるだろう。神々の門。犠牲の子。そんな過去を
胸の奥からあふれる、熱い衝動の正体は。
「僕は……僕だって……」
過去を思いだした。罪であふれかえっていた。
けれど、そのうえで願う。
どんな
これから先、どう生きていきたいのか。どういう
――いけません、バベル!
――
母親の声が響く。愛という建前、心配という言葉で飾られた支配欲が、否定に否定をつらねていく。
「……僕だって、君とおなじだ……。あの人が死んで悲しい。苦しい。つらくてたまらない」
――……!
――ええ、そうでしょう。そうでしょうとも!
――ならば……!
「……でも!」
本当はずっと昔からわかっていた。自分のなかに答えがあった。
この地獄を変えたいと願ったのは、自分自身なのだから。
皆守紘として、シャロンの気持ちに寄り添いたい。ナオやカインたちとも向き合いたい。悲しみや苦しみを、そのままで終わらせたくない。
「この心はアベルでも、バベルでも、――
だから言葉を放つ。宣言、いや、
あるがままの想いをこめ、ありったけの願いに変えて、解き放つ。
さあ、悪夢から
「僕は――
世界が
まさしく言葉によって世界が
in principio erat Verbum
(はじめに言葉ありき)
et Verbum erat apud Deum et Deus erat Verbum
(言葉は神と共にあり、言葉は神であった)
Hoc erat in principio apud Deum
(言葉ははじめ神と共にあった)
Omnia per ipsum facta sunt,
(万物は言葉によって成り、)
et sine ipso factum est nihil, quod factum est;
(言葉によらず成ったものはひとつもなかった)
それはなにもキリスト教だけの
〈
ヒロを中心に、世界はひろがる。
皆守紘としての世界がはじまる。
古きものは
そう、たとえば花のように。春のように。
花が咲けば、
実がなるには、花は
けれどいつの日も、次の未来に繋がっている。
こしかたゆくすえ、かくあるように。
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