3章12話 - 復活祭
「――僕、は、ははっ、あァああァアアあぁァッ」
まさしく運命が心変わりした。
なんの気配も
その
「シャロン!」
「……――ぅ、あッ……」
「……ビ、…………チェ、」
数秒なのか、何十秒か、はたまた数分か。爪を割り、
「……い、いやよ、ビーチェ、しっかりして……死なないで……!」
腸がこぼれるのも
そうして何度目かの強打とくちづけを送ったときだった。幼女のくちびるに、かぼそい空気の流れがうまれる。
「ビーチェ……! よかった、ああっ、ビーチェ……!」
だがベアトリーチェであるはずの彼女は
目覚めたばかりが原因ではない。
なによりも、明らかな意図でシャロンの涙を優しく
「初めまして、シャロン。泣き虫なのは聞いていたけれど、本当みたいね」
地獄の門という表現を
騎士アベルとはまるで真逆。装置という無機物のなかに、有機的な魔が
「そりゃァ奪うか犯すか殺せっつったけどよォ、いくらなんでも
「立ったまま
ナオの呼びかけに、
「
死が
「ならば冥界にくだり、地上に死という地獄が訪れたように。女神イシュタルは冥界より
冬に枯れ落ちようと、
イシュタル本人に薔薇との繋がりはない。だが動植物の豊穣神たるイシュタルの加護により、
「……ああ、そうだな。よく知ってるぜ。今日が復活祭なんだってことを。なにせ今日のために〝俺たち〟は準備してきたんだからな」
「さあシスター、頼んだぜ!」
カインが
domine, probasti me, et cognovisti me:
(主よ、あなたは私を探り 知っておられる)
tu cognovisti sessionem meam,
(あなたは知っておられる 私が座すことも)
et resurrectionem meam.
(ふたたび起きあがることも)
加齢によって
カインは知らなかった。いや、ナオだけが知っていた。
そして彼女もまた知っていた。かつて主人のもとに訪れた半吸血鬼が、日高直紀を名乗っていることも。義弟を救うための
「あの
主人の勝利を願い、祝う、
「アベル――いや、今はヒロとか名乗ってんのかァ、このクソ
策も、体力も、道理も、なにもない。なにひとつ必要ない。
「てめえの人生はてめえだけのモノだろうがよッ! むざむざ
場はたちまち殺しあいの
だがこの事態までを完全に想定していた半吸血鬼はまだ動かない。
「よう、待ちくたびれたぜ。――あいつの……人間としての母親」
長い髪は根元までもが
「
「それが今日はどうしても自己紹介したい連中であふれててな。名乗りたいなら好きにしろよ。……都合よくカインも戻ってきたところだしな」
言葉通り、
「ならお言葉にあまえて名乗りましょう。――私はパンドラ。かつてパンドラと呼ばれた者たち全員の魂が
集合した一同を、イシュタルの
だがパンドラが手をかざす、ただそれだけで結界がうまれ、一撃をはじく。
「この〈
なぜ
彼女はシャロンの知るベアトリーチェそのひとではない。
けれどシャロンの知るベアトリーチェでもある。
「……策はあるの?」
涙ぐみそうになりながら、それでも未来を
「あるわ。そのために、どうか
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