3章8話 - 薔薇園
「カイン様、どうかなされましたか?」
ひかえめに肩を揺すられて、カインの意識は
「……あァ? てめえ、なんでここに……ッ!?」
シスターの顔を
「いけません、急に立ち上がられては。お身体に
「……いるのか、ここに。オレ様の
「……? ええ、私はいついかなるときもカイン様のお傍に」
なんだノロケかよ。遠くから半吸血鬼の
状況がわからない。カインは
黄金色の館。美しく
「……夢、か」
これは夢だ。願い、もとめ、
だがシスターはそう
「あら、
「……いや、」
こちらこそが現実なのだと暗に告げられ、それもそうかと考えなおす。
ならば先に見たものこそ、夢は夢でも悪夢のたぐいだ。従僕たちを見殺しにした。恋人を守りきれる自信がなく、人の世に帰した。復讐を誓い、ようやくバビロンに
もし彼女にそう告げたところで、見た目はもとより頭すら出来損なった女のことだ。失望はされないだろう。
だがカインは雄。彼らの主人であり所有者である。従僕たちを見捨てるしかなかった、あまつさえ敵に寝取られたなど。所有印を刻まれたせいで何度生まれ変わろうとカインのものでありつづける彼女を、何百年もひとり
否。相手が従僕だろうが義弟だろうが同じことだ。
「カイン様? まだご気分が
「……うるせェ。ちったァ黙ってオレ様に抱かれてろ」
顔色を確かめようと近付いたシスターを抱き寄せる。まったく色気のかけらもない悲鳴をあげながら、恋人は腕のなかに収まった。
やはり懐かしい。そんなはずがないのに、ただただ懐かしい。百歩どころか千歩
生きていること、すぐ傍にいることを実感したくて、ほっそりした首筋に
「……ッ、あぅ、」
「黙れよ、
急所を
所有物だと公言して
どうせこの場の処女童貞は恋人と義弟のみ。こちらがなにをしているかなど、義弟よりも先に従僕や雑種が気付くだろう。ならば勝手に対応するはずだ。
そんな命令不要の信頼関係があるのをいいことに、カインの
「……?」
目線だけを動かせば、義弟と
「いいのかよ、カイン」
「あァ? なにがだ、下等雑種」
「それでいいのかって聞いてんだよ」
「逃げてばっかりじゃ事態は好転しない。――偉そうな態度でシャロンに言ったのはお前だろ?」
「……てめえ、なぜそれを知って……」
なぜ夢のなかで刃をまじえた少女の名前を知っているのか。カインですら早くも頭の
「知ってるに決まってるだろ。誰が台本を書いたと思ってるんだ?」
「…………」
カインはシスターの手をとり、握りしめた。
彼女がすぐ傍にいると確認するために。決して離さないために。
「お前は知っている。お前だけは痛感してる。ヒバリみたく注意を買ってアベルを逃がしたときも、部下連中が
「今度は逃げんなよ。お前に
一撃のうちに
「カイン様っ……私、怖いです」
「……ああ、そうだな」
カインは彼女の胸元に手を置いて。
「そりゃ怖ェだろうなァ、予想外すぎてよォ!」
――素手で胸をつきやぶり、つかみとった心臓ごと、
「があッ、あッ――……な、なぜッ、カイ、ンッ!」
「あいつらの所有印をみて勘違いしたんだろォが……〈主従の契約〉と〈恋人の契約〉は薔薇紋の形状が違うんだよ、
「ぐっ……!」
「
カインのはてしなき怒りは燃える氷となり。
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