3章2話 - 裏切りの騎士2
意味をただしく理解するより早く、シャロンの両足は距離をとっていた。爆発しそうなほどはねあがる
「あなたが王城を……騎士アベル様を裏切った、十三番目の騎士……!?」
かの
「……アベル?」
――アベル・ファタール。〈バベルの塔
ミルディンは日高直紀を害したあと、ヒロにむかってなんと言っていた。ミルディンを殺害したとき、ローズたちはどんな言葉を発した。なにより日高直紀がアリアスならば。ヒロの境遇は。……彼の正体は。
「…………ヒロが、アベル?」
声にだすつもりはなかったにもかかわらず、気付けば
「そんな、まさか……だって彼は次のパンドラで……」
「あ? もしかしてお前、あいつがパンドラ候補だって勘違いしてるのか」
「だって当時、彼は赤ん坊だったのよ! 〈
そこまで言いかけて、気付きたくなかった可能性にたどりつく。
皆守紘をアベルとみなすことは難しくとも、日高直紀がアリアスだとあっさり納得できた理由。それは――……
「まさかアベル様は……ヒロは、人間じゃない……?」
かつてシャロンはこう考えた。戦意の
彼に、歴代最高の騎士アベルを殺害するちからはなかった。もしくはなんらかの理由で殺したくなかった。だからアベルから記憶を奪い、赤ん坊の身体に封じ込め、記憶がもどらぬよう
裏切り者がどちらの意図を持っていたにせよ、十五年前、〝入れ替わり〟があったのならば。
「――彼も神魔……!?」
「さあ、どうだかな……と言いたいところだが、人類の守護者という
ナオは
「お前らはそういう適性の人間がいるって
「……う、そ」
「嘘じゃないぜ。グレンデルはお前に神魔を
「でたらめを言わないで! どうしてそんな面倒をしてまで、私の祖を確認する必要があったっていうのよ!」
「お前からバビロンの気配がした。だから大淫婦に
「……さっきから一体なにを……」
聞きたくない。聞いてはいけない。けれど耳を
「ミルディンは神魔アベルを捕まえ、様々な実験をおこなってきた。不老不死。人間の魔人化。そして人工的な人魔……〝騎士〟の製造」
びくりと指先が
それに気付かないわけでもないだろうに、彼はシャロンの
「アベルの肉を切り落とし、契約の術式をかけ、低級神魔を
おぞましい言葉だった。
騎士の適性を見込まれた者は、霊液の消毒によって、今まで生きてきた世界から存在を忘れ去られる。本人の希望により、自主的に霊液を飲んで過去を手放すこともある。だから騎士同士、むやみやたらに過去を
けれど今になって本当の意図がわかる。もし彼の言葉を信じるならば、みずから望んで霊液を
「……もしそれが本当だとして、あなたの目的は一体なんなの?」
彼が語れば語るほど、
十五年前になにが起きたのかはおおよそ
では、なぜ神魔たる彼が
「日高直紀を名乗る半吸血鬼! 十五年の時を
「……ユダがイエスを裏切らなければ、イエスは
人のいい笑顔の裏側で、じわりと闇が
それが裏切りの
「さて、イエスは
「――か、はッ」
無詠唱にもかかわらず、カインのどんな一撃よりも
「
誰かの悲鳴が聞こえる。誰かの
けれど起きあがれない。助けに
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