記憶②

「要塞都市か」


 俺は渋った。


 要塞都市には、新玉剣星としていい思い出が何一つとしてなかったからだ。


「要塞都市にある塔の書物庫であれば、ドラゴニュートに関する書物も保管されているのではないでしょうか」


「それは確かに、そうかもな」


 ドラゴニュートに関する本だけではなく、風城剣星に関する本も保管されているはずだ。


 自分が伝説の冒険者だと知ってしまったからだろうか、生前の自分を知るのが怖くなっていた。


「剣星、行きたくないの?」


「いや、行こう」


 逃げ回っていても、俺が伝説の冒険者のスケルトンであるという事実は永遠に付いてくる。


 いつかは向き合わなければならないことだ。


「要塞都市までとなると、結構な長旅になるかしら」


「要塞都市から霊峰ミツルギまでは、馬を走らせても三日はかかるといわれていたな」


「それだけみんなと一緒に旅を楽しめるってことね」


「うーうー!」


「カロ様から頂いた羽根で、スキル『ゲート』は会得できましたか?」


「いや、『ゲート』でひとっ飛びできれば楽だったんだけど、今のところ会得したのはスキル『最下級使い魔召喚』とスキル『影り』だけだな」


『最下級使い魔召喚』によって呼び出すことができるのは、マナが尽きたら消えてしまう羽の生えた人魂である。自分が通れないような狭い穴の中を偵察したり、メッセージを吹き込んでその場に漂わせておくような使い方ができる。派手ではないが、扱いやすいスキルである。


『影繰り』は自身の影の形を思い通りに変えることのできるスキルである。使い道は今のところ思い付いていない。


「すごい、もう二つもスキルを会得したのね!」


「剣星様が強くなると、私も嬉しいかしら~」


「ニアーナもそろそろ新しいスキルを会得できそうか?」


「気付いていたかしら!?」


「そりゃ、毎朝早起きして何かやっていたら気になるだろ?」


「恥ずかしいかしら。見られていたなら、白状するかしら。私が会得したスキルは剣星様も会得できる可能性があるかしら。だから、少しでもお役に立ちたくてスキルを会得しようとしていたかしら」


 ニアーナはもじもじしながらいった。


「気ままに生きているだけだと思っていたけど、色々と考えていたんだな」


 俺は感無量にいった。


「当たり前かしら!」


「ははは、冗談だよ冗談」


「そっか。あたしがスキルを覚えれば、剣星も覚えて一石二鳥なんだね」


「別に俺のために苦労してスキルを習得しなくてもいいんだぞ。スキルは何か目的があって習得する分には辛くないけど、習得を目的に習得するとしんどいだろ?」


 俺は教師に、お前ほど絶望的にセンスが感じられない生徒は初めてだといわせるほど、スキルの習得に関しては不器用だった。


 生涯で、自力で習得したスキルは『精製』だけである。


 そんな俺からのありがたいお言葉だ。


「いいことを閃きました。私のマナで生成した物を、剣星さんが『収蔵』すれば、私のスキルも覚えることができますよね?」


「ユメミ、人の話を聞いていたか?」


 俺の高説が台無しだ。


「剣星さんの力になりたいというのは、立派な目標にはなりませんか?」


「まー、それなら目標になるんじゃないか?」


 最近は慣れてきたと思っていたが、他者からの真っ直ぐな好意が眩しすぎて、思わず目を瞑るような反応になってしまった。


「よし、ぼちぼち要塞都市へ向けて出発するぞ。みんな、忘れ物はないか?」


「準備万端かしら」


「うー!」


「あたし、忘れ物をしたことがないのが自慢よ」


「忘れ物をしたことに気付かないという落ちじゃないだろうな」


「くすくす」


 要塞都市はシルフの森から西の方角へ進めば辿り着くことができるそうだ。


 途中に町があるが、古い風習が残っているとかで、魔族に寛容ではないらしいので、そこを迂回した行路をとることになる。

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