第七章

記憶①

「俺からも一つ訊いていいですか?」


「はい、もちろんですとも」


「実際はドラゴニュートの卵だったわけですが、混沌龍の卵はいつからこの奥にあったんですか?」


「この前はわしが生まれるよりも前からあると言いましたが、実のところそうではありません。正確には、わしがここへ初めて立ち入った5年よりも前からとなるでしょう」


「自分の目で確認したのが5年前ということですか?」


「はい。この祠には混沌龍が封印されているというのは、先祖代々言い伝えられてきました。そして、決して立ち入ってはならぬと。しかし、忘れもしない5年前の日、雷鳴轟く悪天でした。一筋の雷がこの祠に落ちたのです」


「それで祠の封印が解けたのかしら」


「ニアーナよ、人の話は最後まで聞きなさい」


「ごめんなさいかしら」


 ニアーナは謝り慣れていた。


 恐らく、幾度となくこのやり取りをしているのだろう。


「ごほん。何ともいえない不安を覚えたので、わしは祠の方へ向かいました。すると、祠の前に生えていた大木が激しく燃えておりました。あとはお察しの通りです。炎にびっくりしたわしは、祠の中へと飛び込み、そこで卵を見付けたのです」


(全然お察しできなかったんですけど)


 俺は口にこそ出さなかったが、内心でツッコミを入れた。


「つまり、混沌龍が封印されていると伝承されていた場所には、なぜかドラゴニュートの卵があったわけか」


 興味深い話だが、現時点の材料では核心に至れなかった。


「ちなみに、この付近でドラゴニュートの姿を見たことはありますか?」


「残念ながら一度も見たことはありません」


 長老は首を振った。


 この祠がドラゴニュートの巣として利用されていたとして、シルフたちに一度も目撃されなかったというのはあり得るのだろうか。


 やはり、ウーの卵を産みっぱなしにして、どこかへ立ち去ったと考えるべきだろうか。


 ダメだ、考えても埒が明かない。


 伝えるべきことを伝え、聞きたいことを聞いたので、俺とニアーナはリリカたちの待つ場所へと戻った。


「ウー、いい子にしてたか?」


「うーうー!」


「どうだった? ウーのこと、何かわかった?」


「何もわからないことがわかった」


「どういう意味? なぞなぞ?」


「そうだな。なぞなぞだ」


 答えを教えるのは簡単だが、少しは自分で考える癖を養わせよう。


「剣星さん、ウーちゃんの御両親を見付ける方法は、他にあるのでしょうか」


「ウーの卵の殻は祠の中へ置いてきた。もし両親がここへ戻ってきたなら、ウーが孵化したことはわかるだろうし、万が一長老に接触してきたら、俺たちのことを話してもらうようにお願いしておいた。俺たちにできることは、色んな町を巡って、ドラゴニュートの里の情報を集めることくらいだな」


「それが次の冒険の目標ってわけね!」


「ニアーナは始まりの火山までの道案内ということで俺たちの旅に同行していたわけだが、これからどうするつもりだ?」


 この瞬間まで、このことについては触れてこなかった。


 聞きそびれていたというよりは、もし別れることになったら、とても寂しい旅になってしまうと思って口に出さなかったのだ。


 けれども、そんな杞憂きゆうは無駄だったようだ。


「ウーちゃんがドラゴニュートの里に無事帰られるまで、見届けないとかしら。このまま放り出すのは無責任というやつかしら」


 ニアーナは腰に手を当てて言い放った。


「それなら、これからもよろしくな、ニアーナ」


「こちらこそ、末永くよろしくお願いしますかしら」


 今更、照れ臭くなるような挨拶を交わすと、それを誤魔化すように話題を変えた。


「誰か、どこか行ってみたいところはあるか?」


「はい、はい!」


 リリカが元気よく挙手した。


「リリカ、行きたいところがあるのか?」


「剣星の生まれ育った要塞都市に行ってみたい!」

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