うーうー(愛情表現)⑦

 視界が暗転したかと思いきや、次の瞬間には星空の下に居た。


 籠もった埃っぽい臭いから、緑の開放感溢れる匂いが全身を吹き抜けた。


 振り返ると、既に『ゲート』は閉じていた。


「すごいすごい、本当にシルフの森かしら!」


「今日はもう遅いし、この辺りにテントを張るか。三人とも、やり方は覚えているよな?」


 俺は『収蔵』からテントを取り出した。


「もっちろん!」


「剣星さんの説明はわかりやすかったです」


「頼もしい返事だな。俺は見ているから、三人で組み立ててみてくれ」


「了解かしら」


 その頼もしい返事とは裏腹に、リリカたちのテント敷設はぐちゃぐちゃだった。


 途中からは俺も手伝いに入って、どうにかテントの形にはなった。


 うん、今回も斜めになっているような気がするが、気にしてはいけない。


 夕食は既に済ませてあったので、焚火も作らず床に就いた。


 前回、野営地で使った時もぎゅうぎゅうだったので、テントも新調した方がいいなと思っていたが、タウンハンエイで買い物している時にはすっかり忘れていた。


 みんなでおしくらまんじゅうのようになって一晩を過ごした。




 木漏れ日の差し込む、爽やかな朝の森を俺たちは進んだ。


「ここはもうシルフの森の中なのか?」


「その通りかしら。道案内は任せるかしら」


 ニアーナはひゅーんと先行して飛んでいった。


「とても綺麗な森ですね。隅々まで手入れが行き届いています」


「へー、俺にはそういう違いがわからないな」


「冗談です」


 ユメミは茶目っ気のある笑みを見せた。


「わかりにくい冗談で反応に困るぞ」


 相も変わらず山菜、野草、木の実などを採取しながら歩くこと数時間、見覚えのある空間に到着した。


「あ、ここって、初めてニアーナと会った場所か?」


「怪我を負っていたところを、初めて剣星様に助けてもらったかしら」


「思い入れのある場所なのですね」


「間違ってはいないけど、記憶が美化されすぎていないか?」


「そうだったかしら? とりあえず、長老様に報告してくるかしら」


「俺も一緒に行こう」


 ニアーナ一人だけに行かせるのは何だか不安だ。


「ユメミ、リリカとウーの面倒を頼む」


「わかりました」


「うーうー」


「ウーはわかるけど、どうしてあたしまで!?」


 リリカの抗議を背に受けながら、俺とニアーナはシルフの森の奥へと入っていった。


「こうして剣星様と二人きりになるのって、初めてかしら。あれ、ちょっと緊張してきたかしら」


「それは長老様に予言が間違っていたと報告しに行くからだろ?」


「そうかも知れないかしら」


 何がおかしいのか、ニアーナは笑っていた。


 そうして、ウーの卵が封印されていた祠の前までやって来た。


「ニアーナよ、随分と早い帰還であるな」


「長老様、お伝えしなければならないことがあるかしら」


「どうしたかの?」


「長老様の唱えていた、古の予言の解読が間違っていたかしら。剣星様が、本当の意味を知っていたかしら」


「なんと……! あれはこの星のどのような未来を暗示していたのじゃ?」


「この星というか、お月様の話というか。とにかく、あれは不吉な予言を書いたものではないです」


「要するに、ニアーナには無駄足を踏ませることになってしまったのじゃな」


「長老様、お気になさらないでくださいかしら。私、この旅に出ることができて本当に良かったと思っているかしら」


 ニアーナは屈託のない笑みを浮かべた。


「そんなこといって、よく泣きべそかいているけどな」


「剣星様、長老様の前で変なこといわないでかしら」


「楽しくやっているようじゃの」


「それともう一つ、報告することがありますかしら。剣星様は何とあの魔王を討伐した伝説の冒険者様でしたかしら」


「本当ですかな!?」


 長老は細い目を見開いて驚いた。


「記憶は欠落しているけど、リッチクイーンのカロからそうだといわれました」


「おお、あの叡智えいちの泉とうたわれるカロ様がいうのだから、間違いないでしょうな」

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