うーうー(愛情表現)⑥
「それじゃあ、その『ゲート』とやらでシルフの森まで送ってくれないか」
「その前に、其方に餞別をやろう」
カロはそういうと、バサッと黒い漆黒の翼を生やした。
俺たちが一様にその漆黒の翼に目を奪われていると、カロはそれを見せびらかすようにその場で一回転した。
「これが妾の、リッチクイーンとしての本来の姿じゃ」
「何だか禍々しいわね」
「かしら」
「う~」
ユメミは感想をいわず、困ったように笑っていた。
「そうか? 俺は普通に綺麗だと思うけど」
「ほほほ、やはり其方は妾が見込んだ男じゃ。此度の冒険が終われば、妾の元へ来ぬか? 妾はスケルトンのことを熟知しておる。それ故、生身の人間では到底味わうことのできなかった極上の快楽を其方に与えることができるぞ」
(極上の快楽だと……!?)
その魅惑的な言葉に、俺の心は線香から立ち上る煙くらい簡単に揺らいだ。
「生憎、剣星はそんな誘惑には乗らないわ」
「当然かしら。剣星様は目的を果たした後のことなんて考えて旅してないかしら」
「剣星さんの意志は、どんな人よりも高潔なのです」
(三人の中で、俺は一体どんな風に映っているんだ?)
「ふむ、それは残念じゃ」
「俺たちに本来の姿を見せてくれたことが餞別なのか?」
「そんなはずがなかろう。黒い翼は不吉の象徴とされておるからな、無闇に晒すものではないのじゃ」
「だったら、餞別っていうのは?」
「これじゃ」
カロは黒い翼から一枚の羽根を抜き取ると、俺に差し出した。
「羽根?」
「其方のユニークスキル『収蔵』はマナを帯びたものからスキルの特性を解読し、自身のものとするじゃろ。妾の100を優に超えるスキルから、果たして其方はいくつ会得することができるかの」
生前の俺の仲間であったチズリエルから、その辺りの話は聞いているようだった。
「風城剣星はどれくらいのスキルを会得していたんだ?」
俺は話の流れで訊いてみた。
「多すぎてわらかないと口癖のようにいっていたそうじゃ」
「宝の持ち腐れってやつか」
「お宝なんだから、持っているだけで価値があるんじゃない?」
「確かにそうですね」
「いい考えた方じゃの。風城剣星が好んだスキルはせいぜい三つ、その他は臨機応変に使ったそうじゃ」
「ところで、カロはどうしてここまで俺に肩入れしてくれるんだ?」
「もしかして、剣星に何か対価を支払わせるつもりじゃない?」
「え~、あくどいかしら」
「えーい、やかましいぞ、そこのちんちくりん共! 先程もいったが、『ゲート』で送り出すのは友人の墓を守ってもらったお礼じゃ。そして、妾の羽根を授けるのは、チズリエルとの約束じゃ。無論、詳しい内容まではいえぬがの」
「それなら、ありがたく受け取っておこう」
俺はカロの黒い羽根を『収蔵』した。
「それでは、其方らを送り出す『ゲート』を開こう。シルフの森へ直通じゃ」
カロが指をパチンと鳴らすと、空中が剥がれ落ちて、油の浮いた水面のような空間が出現した。
「うわー、かっこいい!」
「転移系スキルは初体験かしら」
「楽しみです」
相変わらず、脳天気な三人だ。
「この中に飛び込むのか?」
俺がそう躊躇っていると、リリカが勢い良く走り出した。
「おっ先ー!」
「あー、リリカちゃんずるいかしら」
「うーうー!」
ニアーナもウーも『ゲート』に飛び込んだ。
「置いていかないでください」
ユメミまでも、何の抵抗もなく『ゲート』に入っていった。
「俺がおかしいのか?」
自分の価値観がずれているのかと首を捻った。
「この狭い世界、いずれまた巡り合うこともあるじゃろう。その時はまた面白い話でも聞かせてくれぬか」
「わかった。最後に一つだけいいか?」
「何じゃ?」
「カロは魔王が討伐された後、すぐに人類側に寝返ったのか?」
「妾は恐怖でしか他者を従わせることのできない魔王に辟易しておったのじゃ。そんな妾の心情を汲みしたのがチズリエルだったというわけじゃ」
「なるほどな。それじゃあ、行くよ」
俺は納得しながら『ゲート』を潜った。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます