うーうー(愛情表現)⑤
結局、ウーは俺がお風呂に入れることとなった。
リリカも一緒に入ってきたが、今回は正直かなり助かった。
幼い子供にじっとしていろという方が無理な注文だが、リリカが作り出した水の玉に気を取られている隙に髪の毛を洗ってしまった。
「ところで、この水の玉、どうなっているんだ?」
「それは水をあたしの体液で包んであるだけだよ」
「水風船みたいなものか」
「なになに? 剣星も作って欲しいの?」
「いや、別に」
「しょうがないわね。そんなこといって、顔には欲しいって書いてあるわよ」
「書いてないから!」
お風呂から上がり、少し早めの夕食を済ませると、俺たちは大霊園へ向けて出発した。
ウーは昼間にはしゃぎすぎて疲れてしまったようで、俺の背中で眠っていた。
ウーもそれなりに保有マナが大きく、『収蔵』して運ぶと俺の体が持たなかった。
「昨日と違って、気が楽です」
「そりゃ、昨晩はユメミにとっての試練だったわけだしな」
「それをいうならあたしたちの試練じゃない?」
「どんな試練が来てもへっちゃらかしら」
「ニアーナが一番怖がっていなかったか?」
「覚えてないかしら」
そうこうしているうちに、大霊園が見えてきた。
スケルトンも列を成してお出迎えしてくれていた。
俺たちが近付くと、カタカタカタカタと歯を鳴らした。
特定個人を識別して反応しているわけではなく、近付いてきた者に反応しているようだ。
「ひぇぇ~、やっぱり慣れないかしら~」
「うーうー」
ただならぬ音に、ウーも目を覚まして怯えていた。
俺の頭に物凄い力でしがみついてきた。
(俺の頭蓋骨、砕けたりしないよな?)
そんな風に少し不安を感じたが、取り越し苦労だった。
大霊園内を進み、昨晩と同じ十字架の月が浮かび上がった空間に到着した。
「遅い、待ちくたびれたぞ」
来るなり、カロは不満を漏らした。
「夜って何時からが夜なんですか?」
ちなみに、現在は午後八時である。
「夜といえば午後六時と相場は決まっておるじゃろ」
「その辺は意外と人間基準なんですね」
「まあ、それはさておきじゃ。其方の頭の上に乗っておるそれは何じゃ?」
「うーうー!」
「昨晩見せた混沌龍の卵から孵ったドラゴニュートの女の子です」
俺はウーを持ち上げ、地面に下ろした。
「ほお、あれはドラゴニュートの卵じゃったか。やはり混沌龍などというのは架空の存在のようじゃの」
「今のところはそうなるな」
「何じゃその言い草は。まるで混沌龍に居て欲しいみたいに聞こえるぞ」
「居て欲しいなんて思っていない。ただの作り話が、何千年も語り継がれているのはおかしいと思っているだけだ」
「それだけインパクトがあったということじゃろ。それにしても立派な角じゃの」
カロはウーに艶美な視線を向けた。
そのまま手を伸ばし、がぶりっ。
「あいたたたっ!? こら、離さぬか! まったく、何と凶暴な生き物じゃ」
「カロがウーに変なことしようとするからだろ」
俺は呆れた風にいった。
「子供って私たちよりも他人の感情や思惑に敏感なところがありますよね」
「少し愛でようとしただけじゃ」
カロは自身の右手を擦りながらいった。
「本当かしら」
「さて、其方らは混沌龍の卵を破壊すべく旅をしていたわけじゃが、その目的がなくなった今、何を目指して旅を続けるんじゃ?」
「俺たちの行き先なんて聞いてどうするつもりだ?」
「妾のスキル『ゲート』を使って、其方らを目的地まで送ってやろう。友人の墓を守ってもらう礼じゃ」
「わあ、太っ腹かしら!」
「カロはドラゴニュートの里がどこにあるか知っているか?」
「ウーの両親を探したいの」
「それが次の目的というわけか。生憎、妾でさえドラゴニュートの里がどこにあるという噂すら聞いたことがないの」
「ま、そうだよな」
知っていればラッキー程度で聞いたので、俺は静かに頷いた。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます