うーうー(愛情表現)③

 リリカたちは昼過ぎに目を覚ました。


 ウーはまだ夢の中に居るようだった。


 ウーにはまだ数時間分の記憶しかないので、どういった夢を見ているのだろうか。


 などと考えつつ、俺たちはユメミの両親が待つ食堂に集まった。


 ユメミの口から、大霊園に発生しているスケルトンの原因、カロと交わした約束について説明した。


 ウーについては、森で迷子になっていたみたいなので保護してきたという設定だ。


「なんと、チズリエル様の友人であるカロ様が今回の騒動を引き起こしていたとは」


「まさか本当に原因を突き止めてくるとはね。ユメミは暗いところが苦手だから、どうせすぐに帰ってきて冒険に出るのは諦めると思っていたのよ」


「みなさんと一緒なら、暗いところも怖くありませんでした」


「ユメミ、冒険に出たいという気持ちに変わりはないんだね」


 ユメミ父はもう一度だけ確認した。


「はい」


「約束は約束よね。でも、辛かったら、いつでも帰ってきていいのよ」


「ユメミは手塩にかけて育てた大切な娘だ。だから剣星君、どうかユメミを幸せにしてやって欲しい」


 まるで娘を嫁に出す父親のような台詞だった。


「わかりました」


 俺は誠意を持って頷いた。


 そうして、話が一段落したところで、突然食堂の壁に罅が入り、ぶっ壊れた。


 何事かとみんなが目を丸くしていると、砂埃の中からあの聞き慣れた声がした。


「うーうー」


 言葉にはなっていないのだが、何となく俺を呼んでいるような気がした。


「ウーか」


 俺の声に反応して、ウーが砂埃の中から飛び付いてきた。


 相変わらず、兎もびっくりの跳躍力である。


「剣星さんのマナを辿って、一直線に来たようですね」


「そうみたいだな。壁に穴を開けて」


「いや~、壁を突き破って来るなんて、なかなかパワフルな子じゃないか」


 ユメミ父は豪快に笑った。


 家の壁に穴が開いたことはあまり気にしていないようだ。


「こういうのを壁ドンっていうのかしら」


「これはただ壁を壊しただけですね」


 流石は親子だ、ユメミ母はとんちんかんなことをいった。


 ウーのぶち破った壁の瓦礫を片付けると、絶品の昼食に舌鼓を打った。


 本当にユメミ家のシェフはいい腕をしていた。


 ドラゴニュートのウーが何を食べるのかわからなかったが、お肉が大好きで、野菜は嫌いなようだった。


 味覚は普通の子供っぽかった。


 しばし歓談していると、食後の満腹感もいい具合に引いてきた。


「とりあえず、シルフの森に戻るってことでいいんだよな?」


「長老様に報告しないとかしら」


「どう伝えるつもりだ?」


「ありのままを伝えるかしら」


 俺の質問の意図がわかっていないような表情で、ニアーナは答えた。


「あの古の予言の歌は人類が初めて作った大衆小説の出だしで、卵からはドラゴニュートが孵化しましたというつもりじゃないだろうな? そんなことしたら、長老様の面目が丸潰れだぞ」


「……どうしようかしら」


 ニアーナは表情を青ざめさせた。


「ま、でも、ウーの卵がいつからあったのか、その辺の話も聞きたいしなあ」


「うーうー」


「そんなに気にしなくていいんじゃない? だって、誰にだって間違えはあるんだから」


 リリカの言動は本当にいつでも前向きだ。


 俺はついつい相手の顔色を窺って、余計な気を回して、それでも失敗してきたので、このさっぱりとした性格が羨ましかった。


「そうだな、ニアーナが最初いったようにありのままを伝えよう。変に気を遣った方がこじれそうだしな」


「そうするかしら」


 ユメミは無事に保護されたこと、凶暴なスケルトンがうろついているのは誤報だったこと、大霊園の墓は既に荒らされていたこと、それらの噂はユメミの両親の人脈を通して広まることになる。


 俺たちにできることは、波風を立てずに大人しく待つことだけである。


 話は一段落着いたが、日が沈むまでは特にやることがなかった。

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