世界終焉の日?⑦
「シルフの森に何百年も前からあった混沌龍の卵だ。大岩を落としても割れないくらいに頑丈で、破壊するには始まりの火山の火口に投げ入れるしかないという話だ」
「確かに、このような卵は妾も初めて見るの。おまけに見られておるの」
「見られている?」
「外の様子を窺っているという意味じゃ。妾たちの会話を聞いておるおんかも知れんな」
「孵化しかかっているってことか?」
カロの怖い台詞に、俺は急いで混沌龍の卵を『収蔵』した。
「かなりやばいってこと?」
「そこまではわからぬ。何せ初めて見る卵じゃ」
「胎内記憶という言葉もあるくらいですし、外の音を拾っていても全然不思議じゃないですよね」
「戦々恐々かしら」
「別に俺たちの会話が聞こえていたとしても、それを理解している可能性は低い。せいぜい、理解できたとしても感情の起伏くらいだと思う。怒られた犬が反省するのは、悪いことをしたという罪悪感で反省するのではなく、ご主人様が自分に対して怒っていると察して反省するともいうからな」
「剣星、物知り! 冒険者になる前は学者だったのよね」
「あー、うん、そうだったような気もする、多分」
このしょうもない嘘も、いつか打ち明けないとだな。
「カロ様、混沌龍の卵を破壊する方法について知恵を貸して欲しいかしら」
「知恵といわれても、溶岩に匹敵する火力で焼く意外に方法があるのか?」
「火口のある火山を目指せばいいってことだな」
「南の方にある火山が、近頃噴火したという話を聞いたような気がします」
ユメミは自信なさげにいった。記憶が曖昧なのだろう。
「結局、南を目指すことに変わりはないってことね!」
「ま、そうだな。とりあえず一つの道が示されたわけだし、ひとまずタウンハンエイに帰って、ユメミのお父さんから許可を……って、そうだ! 外のスケルトンを仕舞ってくれないか?」
混沌龍で話が逸れてしまったが、当初の目的は大霊園に発生しているスケルトンの調査とその解決だ。
「普段の妾であれば、面白い話の礼に何でも一ついうことを聞いてやるというところじゃが、こればっかりは譲れんの。先程もいったが、妾がこの大霊園に現れたのは、親友に安らかに眠って欲しい一心からじゃ」
「つまり、墓荒らしが墓を荒らしに来ないようにすればいいんだな?」
「そういうことじゃ」
「剣星、何か思い付いたのね」
「頼りになるかしら」
「それなら、こういうのはどうだ。ユメミのお父さんに頼んで、チズリエルの墓は既に荒らされており、そのことに憤慨したスケルトンが夜な夜な墓荒らしを捜して歩き回っているという噂を流すんだ」
「なるほど。盗む物がなければ、わざわざ危険を冒してまで墓を暴きに来ないということですよね、剣星さん」
「正解だ」
我ながら、一石二鳥の名案だ。
「ほほう、良き案じゃ。それでは、その噂が妾の耳に届いたら、スケルトンを墓に戻すと約束しよう」
話も一段落したところで、今宵はお開きだ。
「生前の話を色々教えてくれ、本当に感謝している」
「感謝されるほどのことでもない。明日の夜、もう一度ここへ来るがよい。いい経験をさせてやろう」
大霊園を立ち去る俺たちの背に、カロは意味深なことをいった。
帰り道、緊張の糸が途切れたのか、リリカとニアーナは俺の『収蔵』内で寝息を立てていた。
一時はどうなるかと思ったが、今回も平穏無事に切り抜けることができた。
そんな風に、心のネジが緩んだ直後だった。
「ちょっと剣星、緊急事態よ! 混沌龍の卵ぼんやりと光って、動いているんだけど!」
「絶体絶命かしら」
「本当か!?」
『収蔵』内でリリカとニアーナが騒ぎ出した。
俺は慌てて混沌龍の卵を『収蔵』から取り出した。
リリカのいうとおり、混沌龍の卵は仄かに発光し、ぐらぐらと揺れ動いていた。
「孵化しかかっているのでしょうか」
「ユメミも俺の中に!」
俺はひとまずユメミも『収蔵』内に匿った。
次の瞬間、混沌龍の卵が光り輝き、中から黒い影が飛び出した。
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