世界終焉の日?⑥

「ほほう、意外じゃの。自身の生前に興味がないのか?」


「興味がないといえば嘘になる。だけど、今はリリカ、ニアーナ、ユメミと一緒に旅ができているだけで、十分に楽しいんだ。生前は風城剣星として仲間にも恵まれて、魔王まで倒す偉業を達成したけど、新玉剣星としては何も達成していないわけだしな。俺は俺として俺なりの冒険者を目指すだけだ」


「剣星、大好きー!」


「うおっ!?」


 リリカが飛び付いてきた。


「私も大好きかしらー!」


「私もお慕いしております」


 別サイドから、ニアーナとユメミも抱き付いてきた。


「なるほど。今の其方に昔話をするのは野暮というものか」


「いや、一つだけ聞きたいことがある。『収蔵』に扉が入っているんだが、心当たりはないか?」


 リリカにいわれて以来、意識しないようにしてきたが、頭の片隅にはずーっと感知できない扉の存在があった。


「扉か、そんな話は聞いたことがないの」


「直接見てもらったらいいんじゃない?」


「あの、剣星さん、カロさんを『収蔵』するのはやめた方がいいと思います。カロさんは私とは比較にならないほどのマナを有しています」


「エルフの娘っ子に比べてマナが多いのは当然じゃ」


 ニアーナを『収蔵』しただけでも高熱が出た時のような気だるさを感じるのに、それとは比較にならないカロを『収蔵』した日にはどうなるのか。


 下手すれば、爆発するかも知れないな。


「『収蔵』はしない方向でいこう。ま、心当たりがないなら別にいいんだ」


 もし本当に俺が伝説の冒険者であるというなら、いずれ真相に辿り着けるだろう。


「私からも一つ聞きたいことがあるかしら」


「シルフがこのような場所に居るのは珍しいの。そのことと何か関係があるのか?」


「カロ様は始まりの火山の場所をご存じないかしら」


「ほほほ。懐かしいの、その呼び方。やはり俗世と関わりの薄い精霊族は面白いことをいう」


「その反応、やっぱりカロ様は始まりの火山の場所をご存じかしら!」


 ニアーナは期待に満ちた眼差しを向けた。


「今ではほとんどそう呼ぶ者は居らんが、始まりの火山とは霊峰ミツルギのことじゃ」


「霊峰ミツルギって、あの霊峰ミツルギのことか?」


「他にどの霊峰ミツルギがあるというのじゃ」


「そんなはずはないかしら! だって、霊峰ミツルギは火山じゃないかしら!」


 ニアーナは興奮気味に反論した。


「何をいう、あれは歴とした火山じゃぞ。尤も、最後に噴火したのは数千年前という話じゃがの」


「そんな……、それならどうやって混沌龍を倒せばいいのかしら……」


 衝撃的な事実に、ニアーナはうっかりと口を滑らせた。


「混沌龍とな?」


 カロはその単語を聞き逃すほど、注意力不足ではなかった。


「今のはニアーナの言葉のあやというか、そういう設定で旅をしているんだ。な、みんな?」


「え、そうだったの!?」


 話を振られたリリカは初耳といわんばかりの感じでいった。


 そりゃ、初耳だろう。


「だから、リリカは少し空気を読め」


 俺はリリカの頬を手の平で挟むと、こねくり回した。


「うええ、ごめんなさい~」


「まさか本当に混沌龍なのか?」


 俺たちのやり取りを見て、カロは確信を強めた様子だった。


「カロは混沌龍の存在を信じるか?」


「今の今まで混沌龍などという存在は信じておらんかった。いや、今でも信じられんというのが本音じゃ。しかし、其方らが何かを掴んでおるというのなら、それを聞かないままというのは生殺しもいいところじゃ」


 元魔王の一柱というのが気掛かりではあるが、300年前から生きているカロからヒントを得たい欲求もあった。


「ニアーナ、話してもいいか?」


詮方せんかたないかしら」


 自身の失態なので、ニアーナはしょんぼり頷いた。


 俺は『収蔵』から混沌龍の卵を取り出した。

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