世界終焉の日?⑤
「ということは、カロは伝説の冒険者についても詳しいのか?」
「詳しいと自慢するほどでもないが、本で知識を得たような連中に比べれば詳しいぞ。何せチズリエルが飽きもせず、妾の耳にたこができるほど話してくれたからの。巷では伝説の冒険者などと大層な二つ名で呼ばれておるが、
カロは楽しそうに回顧した。
「へー、伝説の勇者って剣星と同じ名前だったんだ」
「面白い偶然かしら」
「え、いくら何でもそんな偶然……」
ユメミは何もかもを偶然で片付けられるほど脳天気ではなかった。
「剣星さん、大丈夫ですか?」
「く……!」
風城という名を聞いてから、頭が割れるように痛かった。
こんな痛み、スケルトンになってから初めてだった。
「ん? んんっ? 其方、その腰に付けているのは、もしや宝刀『イカヅチ』ではないか?」
「これは俺の眠っていた棺の中に入っていた物だ。他に誰も居ないみたいだし、持ってきた」
俺は額を押さえながら答えた。
「其方、まさか風城剣星なのか?」
「いや、俺は新玉剣星だ」
「風城がかつて捨てた名が、確かそのような名だった気がするの」
カロは
「捨てた?」
「風城は
「それ本当なのか?」
それが生前の俺のことだとしても、話を聞いても、まったく思い出せなかった。
「其方、風城になる前の風城なのか?」
「ややこしいけど、そうかも知れない。ただ、今の俺は新玉剣星だ」
「つまりは第三の目が開く前のへっぽこというわけじゃの」
カロはからかうように笑った。
「余計なお世話だ」
「剣星は第三の目なんて開いてなくても凄いんだから!」
「そうかしら!」
「その通りです!」
「それより、カロはスケルトンにも詳しいのか?」
「当たり前じゃ。スケルトンに関して、妾の右に出る者は居らんぞ」
カロは鼻を高くした。
「カロ様、そろそろ我を起こしてくれませんか」
巨大スケルトンは子鹿のような声で懇願した。
「おっと、いかん。忘れておったわ」
カロはパチンと指を鳴らすと、巨大スケルトンの外れた四肢が、あるべき場所に戻った。
「やったー! ありがとうございます!」
「何を浮かれておる。其方、この大霊園で暴れるなという言いつけを守らなかったの。後でこってり絞るから、そのつもりでおるんじゃぞ」
「ぐあああああああ!」
巨大スケルトンが惨めに崩れた。
「スケルトンが生前の記憶を持つことはあり得ないのか?」
俺は改めて質問し直した。
「普通のスケルトンが生前の記憶を持つ確率は零じゃ」
「でも、剣星は普通のスケルトンじゃないんだから」
「わかっておる。なぜ記憶を持っているのかもな」
「本当か!?」
興奮して、俺は思わずカロの肩を掴んだ。
「こら、妾を
カロは頬を染めながら、俺の手を払った。
「すまない」
「其方はユニークスキル『収蔵』を持っておるじゃろ。恐らく、生前の記憶を『収蔵』しておるのじゃろう」
「ああ、そういうことか……!」
どうしてこんな単純なことを失念していたのか。
恥ずかしすぎて、墓穴があれば入りたい気分になった。
「しかし、残念なお知らせもあるぞ」
「その言い方だと、いいお知らせじゃなさそうだな」
「其方は人間ではない。記憶の方法も違う。つまり、ど忘れで記憶を失っているわけではないということじゃ。風城だった頃の記憶は『収蔵』されておらんのじゃろう。ほんの僅かに、風城の因子は残っておるようじゃが、それだけじゃ」
「何だ、そんなことか」
俺は無関心にいった。
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