世界終焉の日?⑤

「ということは、カロは伝説の冒険者についても詳しいのか?」


「詳しいと自慢するほどでもないが、本で知識を得たような連中に比べれば詳しいぞ。何せチズリエルが飽きもせず、妾の耳にたこができるほど話してくれたからの。巷では伝説の冒険者などと大層な二つ名で呼ばれておるが、風城かざしろ剣星は知れば知るほど情けない男じゃ」


 カロは楽しそうに回顧した。


「へー、伝説の勇者って剣星と同じ名前だったんだ」


「面白い偶然かしら」


「え、いくら何でもそんな偶然……」


 ユメミは何もかもを偶然で片付けられるほど脳天気ではなかった。


「剣星さん、大丈夫ですか?」


「く……!」


 風城という名を聞いてから、頭が割れるように痛かった。


 こんな痛み、スケルトンになってから初めてだった。


「ん? んんっ? 其方、その腰に付けているのは、もしや宝刀『イカヅチ』ではないか?」


「これは俺の眠っていた棺の中に入っていた物だ。他に誰も居ないみたいだし、持ってきた」


 俺は額を押さえながら答えた。


「其方、まさか風城剣星なのか?」


「いや、俺は新玉剣星だ」


「風城がかつて捨てた名が、確かそのような名だった気がするの」


 カロは米神こめかみに人差し指を当てながら、記憶を辿った。


「捨てた?」


「風城はよわい三十にして、額に第三の目が開眼したそうじゃ。そこから四人の仲間を集め、僅か10年で魔王を討ち滅ぼしたのじゃ」


「それ本当なのか?」


 それが生前の俺のことだとしても、話を聞いても、まったく思い出せなかった。


「其方、風城になる前の風城なのか?」


「ややこしいけど、そうかも知れない。ただ、今の俺は新玉剣星だ」


「つまりは第三の目が開く前のへっぽこというわけじゃの」


 カロはからかうように笑った。


「余計なお世話だ」


「剣星は第三の目なんて開いてなくても凄いんだから!」


「そうかしら!」


「その通りです!」


「それより、カロはスケルトンにも詳しいのか?」


「当たり前じゃ。スケルトンに関して、妾の右に出る者は居らんぞ」


 カロは鼻を高くした。


「カロ様、そろそろ我を起こしてくれませんか」


 巨大スケルトンは子鹿のような声で懇願した。


「おっと、いかん。忘れておったわ」


 カロはパチンと指を鳴らすと、巨大スケルトンの外れた四肢が、あるべき場所に戻った。


「やったー! ありがとうございます!」


「何を浮かれておる。其方、この大霊園で暴れるなという言いつけを守らなかったの。後でこってり絞るから、そのつもりでおるんじゃぞ」


「ぐあああああああ!」


 巨大スケルトンが惨めに崩れた。


「スケルトンが生前の記憶を持つことはあり得ないのか?」


 俺は改めて質問し直した。


「普通のスケルトンが生前の記憶を持つ確率は零じゃ」


「でも、剣星は普通のスケルトンじゃないんだから」


「わかっておる。なぜ記憶を持っているのかもな」


「本当か!?」


 興奮して、俺は思わずカロの肩を掴んだ。


「こら、妾をたぶらかすでない」


 カロは頬を染めながら、俺の手を払った。


「すまない」


「其方はユニークスキル『収蔵』を持っておるじゃろ。恐らく、生前の記憶を『収蔵』しておるのじゃろう」


「ああ、そういうことか……!」


 どうしてこんな単純なことを失念していたのか。


 恥ずかしすぎて、墓穴があれば入りたい気分になった。


「しかし、残念なお知らせもあるぞ」


「その言い方だと、いいお知らせじゃなさそうだな」


「其方は人間ではない。記憶の方法も違う。つまり、ど忘れで記憶を失っているわけではないということじゃ。風城だった頃の記憶は『収蔵』されておらんのじゃろう。ほんの僅かに、風城の因子は残っておるようじゃが、それだけじゃ」


「何だ、そんなことか」


 俺は無関心にいった。

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