世界終焉の日?④

 俺のカウントダウン直後、巨大スケルトンの四肢が弾け飛んだ。


 具体的には両肘と両膝である。


 スキル『風流操作・天』で、圧縮した空気の塊を関節部分へと送り込み、それを解除したのだ。


「勝負ありだな」


「剣星、つよーい!」


「私のスキルが役に立ったかしら」


「お見事でした」


「ぐおおおお! 我がただのスケルトンに負けただとおおお!」


 巨大スケルトンはジタバタした。


「さ、負けたんだから、潔く外のスケルトンを引け」


 命令するのは、勝者としての特権だ。


「ふん、そいつは無理な相談だ」


「あんた往生際が悪いぞ。それともこのまま成仏させられたいのか?」


「なぜなら、外のスケルトンを使役しているのは我ではないからだ」


 巨大スケルトンは威張るようにいった。


 別に威張ることではない気もするが。


「じゃあ、誰が使役しているっていうんだ」


「それは死んでもいえないな。我が主であるリッチクイーンを裏切るような真似だけはできないからだ」


「リッチクイーン?」


「貴様、どこからその情報を!?」


「ひょっとして馬鹿じゃない?」


「馬鹿かしら」


「お馬鹿さんですね」


 リリカたちは可哀想なものを見る目で巨大スケルトンを見た。


「馬鹿馬鹿いうんじゃない! 馬鹿っていった方が馬鹿なんだぞ! この馬鹿!」


「それで、そのリッチクイーンはどこに居るんだ?」


 もっともっと情報を引き出せそうだったので、俺はさらに質問を続けた。


 外からのスケルトンも迫ってきているが、いざとなれば『風流操作』で押し戻せばいいと考えていた。


「たとえ手足を引き裂かれても、それだけはいえないな。我はリッチクイーンが来るまでの時間稼ぎ役なのだからな」


「時間稼ぎだって?」


「貴様、どこからその情報を!?」


 馬鹿な巨大スケルトンはひとまず放っておいて、みんなで作戦会議だ。


「ところで、リッチクイーンっていうのは何だ?」


「リッチクイーン、どこかで聞いたことがあるような気がするかしら」


「上級魔族のリッチ、その女王でしょうか?」


「そんなのが来たらやばいんじゃない? 早くここから逃げようよ!」


 リリカがそう提案した直後、どこからともなく声がした。


「――逃がしはせぬぞ」


 突如、空間に穴を開けて、漆黒のドレスを着た女性が現れた。


 色合いは地味なのに、派手なお姉さんという印象を受けた。


 ドレスから覗く肌は張りがあり、青白かった。


「親玉の登場か」


 対峙しただけで強者だとわかる相手だった。


 墓荒らし、グリフォン、ゴールド級の冒険者、巨大スケルトン、そのどれとも一線を画した存在感だった。


其方そなた、ただ者ではないな。何者じゃ?」


「生憎、ただのスケルトンだ」


「他の者は欺けても、わらわの目は誤魔化せぬぞ」


「どういう意味だ?」


 内心で、リッチクイーンは俺の『収蔵』内を見透かしているのではないかと感じていた。


「遠目からでも艶のある骨だと思っておったが、近くで見ると堪らなく官能的なスケルトンじゃ。どうじゃ、わらわのものにならぬか?」


 リッチクイーンは鼻息を荒くしていった。


 おや、俺の思っていた展開と少し違うぞ。


「ならないし、まず何故なぜこんなことをしているのか教えてくれないか」


「こんなこととは、どんなことじゃ?」


「大霊園に大量のスケルトンを発生させているだろ」


 リッチクイーンにまるで悪気がなさそうだったので、俺はやんわりとした口調でいった。


「その理由は単純じゃ。近頃、この辺りに死者の墓を暴く不届き者が居るから、こうして警備しておるのじゃ」


「ああ、墓荒らしか」


 同一人物かはわからないが、俺も墓荒らしには迷惑をこうむっていた。


 いや、ま、今となっては起こしてくれてありがとうとお礼を言いたいところだが。


「でも、どうしてリッチクイーンさんが大霊園を守っているのですか?」


「妾はカロじゃ」


「あ、はい、カロさん」


「チズリエルとはかつての難敵であり、後に親友となったのじゃ。親友の安らかな眠りを守りたいと思うのは当然じゃろ?」


「魔王を倒した英雄の敵であり友……?」


「思い出したかしら! リッチクイーンのカロ様といえば、かつての魔王の親衛隊の一柱ひとはしらかしら!」


「あれは妾にとっても忘れたい過去、若気の至り、黒歴史というやつじゃ」


 カロは遠い目をしていった。

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