第五章

世界終焉の日?①

 ユメミ親子の議論はその後もなかなかまとまらなかった。


 平行線を辿っているならともなく、話はどんどんしっちゃかめっちゃかな方へと飛んでいっていた。


 いつの間にか、俺がユメミの婿として相応しいかどうかという話にまで発展していた。


 見守ると決めていたが、そろそろ舵取りした方がいいだろうか。


「私、出会ってすぐに、中に入ったからわかるんです。剣星さんの強さは、オリハルコン級です」


 この世界の冒険者は能力に応じて階級分けされており、下からアイアン級、ブロンズ級、シルバー級、ゴールド級、プラチナ級、そして、最上位のオリハルコン級がある。


 このオリハルコン級というのが、かつて魔王を倒した伝説の冒険者に匹敵する実力を有している者という定義である。


 つまり、ユメミは今とんでもないことを口にしているのだ。


「剣星君、ユメミが中に入ったというのは本当かね?」


「……はい、本当です」


「私も入ったことあるかしら」


「いっとくけど、剣星の中に初めて入ったのはあたしなんだからね!」


「あらまぁ、修羅場?」


「剣星君、もしユメミとの関係が遊びなら、手を引いてもらえないか。このような女の子たちをとっかえひっかえ中に入れるなんて……、ところで、中に入れるとはどういうことかね?」


 ユメミ父は冷静になった。


「俺のユニークスキルです。冒険者に追われていたユメミを匿うために使ったんです」


「はっはっは、なんだそういうことか。それならそうと早くいってくれないか」


 ユメミ父は一頻り笑ってから、再び声のトーンを落とした。


「ところで、腕に相当の自信があるようだが、ユメミを守り切れると約束してもらえるのかな?」


「ユメミだけじゃなく、俺は仲間の誰一人として失うつもりはありません」


 俺は自分の気持ちを素直に言葉に出した。


「いい返事だ。よし、わかった。後はその実力が本物かどうか、見極めさせて欲しい」


 根負けしたユメミ父は、譲歩の姿勢を見せた。


「どうやってですか?」


「実は近頃、町の北にある大霊園で奇妙な現象が起っているんだ」


「奇妙な現象と言いますと?」


「日暮れ頃からスケルトンたちが墓から這い出て、まるで大霊園への侵入を拒むように取り囲んでおるのだ。しかし、日の出と共にまた墓へと帰って行くのだ」


「被害は出ているんですか?」


「今のところは出ていない。大霊園は誰かの所有している土地というわけでもないし、人が襲われたわけでもないので、誰も依頼を出さないのだ。当然、依頼がなければ冒険者が動かない。町の自警団も、薄気味悪がって近付こうとしないのだ」


「なるほど。要するに、その大霊園の奇妙な現象の調査に向かって欲しいということですね?」


「その通りだ。原因を究明、可能ならば解決してもらえないだろうか。それをもって、実力の証明としよう。スケルトンの剣星君には打って付けの依頼ではないかね?」


「わかりました。その依頼、承ります」


 話も一段落したところで、俺たちは一階にある食堂へ下りてきた。


 夕食を御馳走してもらえるという流れである。


 北の大霊園へ出発する前のちょうどいい腹拵えである。


「良かったわね。凶暴なスケルトンがうろうろしているって話は、とりあえず誤報だったって流してくれるみたいだし」


「そうしてもらわないと、いつまで経ってもミイラ男として生き続けないといけなかったからな」


「一件落着かしら」


「依頼を達成するまで一件落着とはいえないだろ」


「それでは半件落着でしょうか」


 とりあえず縁談の話がなくなったので、ユメミは肩の荷が下りて上機嫌だった。


 夕食には豪勢な料理が並んだ。


 初めて見る料理もあったので、この料理を作ったという専属シェフに話を聞きながら味を確かめていった。


 食事の席では、先程の話は一切せず、悠々とした時間を過ごした。


 基本的には、ユメミは両親と、俺はリリカとニアーナと、何気ない会話を楽しんだ。


 そうして、食事を終えると、俺たちは早速大霊園の調査へ向かうことにした。


 北の大霊園はタウンハンエイの北門から徒歩一時間のところにあるそうだ。


 これだけ近い距離でスケルトンが大発生しているにも拘わらず、町への被害が出ていないのは確かに不思議な話である。

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