令嬢は旅に出たい③
ケンタウロス族は主に尽くす忠誠心の厚い性格と、圧倒的なフィジカルを兼ね備えており、旅の同行者としては最適だった。
「これから二日間、旅をお供させていただく、スチュワートと申します」
スチュワートは
「安全運転でよろしくお願いします」
「もちろんでございます」
ケンタウロスが先導して、二頭の馬がそれに続くというシュールな構図である。
座席はリリカがちゃっかり俺の隣に座っていた。
送迎馬車がタウンジョイントから出立してからしばらくの間は、
しかし、三時間も走っていると、次第に他の馬車とすれ違う頻度も下がり、ようやくユメミも周囲の景色を楽しむ余裕が出てきたようだ。
「ねえねえ、その腰の剣って本物なの?」
好奇心旺盛なリリカは、スチュワートにそう話しかけた。
「はい、本物です」
スチュワートは機械的に答えた。
「それで私たちを守ってくれるのかしら」
「当然です。お客様を目的地まで無事お送りするのが私の役目ですから」
看板を見掛けて思い付きで口にしたが、こんなにも頼もしい騎士に護衛されての旅路となって非常に心強かった。
俺の目論見通り、一日目は何事もなく野営地に到着した。
野営地と聞いて、俺は木を切り倒してできたちょっとした空間をイメージしていたが、実際はプレハブ小屋も五棟建っているし、少ないながらも食材屋・道具屋・薬屋、酒屋まであった。ちょっとした村である。
これは誤算である。この分だと、ユメミの捜索隊も、一日の疲れを癒やすためにこの空間に集結していても何ら不思議はなかった。
人目を避けるためにユメミを一晩中『収蔵』するのは現実的ではないので、何らかの手段でユメミを匿わなければならなかった。
「ユメミ、少し目を瞑ってくれないか」
「はい」
いうことを聞いてくれるのはありがたかったが、少しは警戒してくれないと、悪いやつに悪戯されないかと不安になってしまう。
ま、その辺の注意は後々にするとして、今はこの状況を切り抜けるのが最優先事項だ。
俺は『収蔵』から包帯を取り出すと、それをユメミの顔や腕に巻き付けていった。
あっという間に、エルフのミイラ女の完成だ。
「いくら何でも、これはバレるんじゃない?」
「ただの包帯を巻いたユメミかしら」
「ただの包帯を巻いたスケルトンとどこに差があるんだよ。ユメミ、なるべく普段通りにしているだけでいい」
こういうのは堂々としていれば案外気付かれないというのが俺の持論だ。
「ふ、普段通りですね。あれ、普段の私ってどんな感じでしたっけ?」
「うん、そんな感じだったと思うぞ」
「出立は明朝で宜しいでしょうか」
スチュワートは事務的に訊いてきた。
「あ、はい。そうですね」
「それでは、私は馬小屋の方に居るので、何かあれば呼びに来てください」
スチュワートは馬小屋の方で一晩過ごすらしい。
あの
馬車を引いて馬小屋の方へ向かうスチュワートの背を見送ると、俺たち一行はプレハブ小屋の管理人と思しきドワーフ爺の元へ行った。
懸念していたユメミの身バレも、誰にも怪しまれている気配すらなかった。
「一晩借りたいんですけど、空いてますか?」
「生憎、今夜は満室じゃ」
「わかりました」
近くでテントを張っている冒険者がやたらと多かったので、ダメ元で聞いていた。
リリカとニアーナは『収蔵』すれば「俺自身がテントだ」状態なのだが、ユメミに
しかし、案ずることなかれ。
俺はタウンジョイントでテントを購入していた。
元々、野営地にプレハブ小屋が建っているなんて知らなかったので、今晩はテントで寝るつもりでいた。
「流石剣星、ぬかりないわね」
「助かります」
ユメミはぺこりと頭を下げて感謝した。
というわけで、早速テントの設営に取りかかった。
テントは二本の木にロープを括り付けて、吊り上げるタイプの物である。
野営地は木が伐採されてしまっているので、少し離れた位置にテントを張ることにした。
「この木とあの木を使おう」
俺は二本の木を指差したが、リリカたちはぼーっと見ているだけだった。
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