エルフと行商人④

「今の声はスライムさん……?」


 エルフの美少女は少し離れた位置で、ニアーナをはずかしめているリリカを見た。


「俺の仲間だけど、よく空気の読めていない冗談をいうんだ」


「ちょっと、変なことをいわないでくれる!?」


「初めまして、私はニアーナかしら」


 羽衣を半分脱がされたニアーナは行儀良く挨拶した。


 一番まともなのに、格好で台無しである。


「初めまして、私はユメミです」


「俺たちはこの先にある町を目指しているけど、とりあえずそこまで送ればいいかな?」


「はい、お願いします」


「それじゃあユメミ、町に着くまで俺の中にかくまうっていうのはどうかな?」


 俺はきょとんとした表情を浮かべるエルフの美少女の肩に手を乗せ、そのまま『収蔵』した。


「ここは……?」


「剣星がまた女の子を自分の体内に連れ込んだー」


「ひょっとして、ここはスケルトン、剣星さんの体の中なのですか?」


 ユメミは声をワントーン高くして驚いた。


「体内って感じもしないんだけど、ま、そんなところだ。それにしても、結構ずっしりくるな」


 ニアーナが微熱の気だるさだとすると、ユメミは高熱という感じだ。


「あの初対面でいきなりそれはひどいです! 確かに他の子と比べると多少重いですけど!」


「ああ、違う違う。ずっしりというのはユメミの体重のことじゃない。マナをたくさん持っているなという話だ」


「ご、ごめんなさい。私、早とちりして取り乱してしまいました」


 挨拶も一段落着いたところで、俺は再び歩き出した。


 そして、すぐに追っ手と思しき二人組の男と鉢合わせた。


 雨音のせいで近くに居ると気付けなかったのだ。


「ったく、面倒かけさせやがって」


「だがあの服装だ、金も持ってねえ、そう遠くへは行けねえはずだ」


「おーい、そこの方!」


 いきなり走って逃げても良かったが、俺は知らぬ存ぜぬのただの一般通行人A作戦でこの場を乗り切ることにした。


「はい、何か?」


 俺は男たちの方へ振り向いた。


 念のため、リリカとニアーナも『収蔵』しておいた。


「なっ、スケルトンだと!?」


「やるしかねえな」


 既視感デジャヴ。これ前にも見たぞ。


 俺の顔を見るや否や、追っ手の二人は臨戦りんせん態勢だった。


 腰に差してあったブロードソードを引き抜くと、問答無用で斬りかかってきた。


「ちょっと待って、危ないから!」


 俺は両手を挙げてジェスチャーするも、止まらなかった。


 甲高い金属音が、雨音を切り裂いた。


「ぐああああああっ!」


「腕があああああっ!」


 案の定、追っ手の二人は反動で手首をやってしまい、身もだえした。


「だから危ないっていったのに」


 俺は溜息混じりにいった。


「まだだ、スキル『独楽斬こまぎれ』!」


 追っ手の一人はブロードソードを握り直すと、その場でくるくると回転しだした。


(何か竹とんぼみたいだな)


「回転を生かした斬撃の威力は通常時の十倍以上だ! 先程のように弾き返せると思うなよ!」


「ねえ、大丈夫なの?」


 リリカは不安げだった。


 声をあげていないが、ニアーナとユメミの緊張感も伝わってきた。


「多分大丈夫だ」


「とりゃあああああああ!」


 高速回転から繰り出された斬撃を、俺は人差し指一本で止めた。


「ぬぐあっ!」


 追っ手は苦痛に表情を歪めるも、その口元は笑っていた。


「『独楽斬れ』はあくまでも相手の注意を引き付けるための布石――」


「――スキル『射撃強化』!」


 もう一人の追っ手が、弓で引き絞っていたブロードソードを射た。


 放たれたブロードソードは一直線に俺の左胸、心臓を貫いた。


 俺は特に何事もなかったように、左胸に突き刺さったブロードソードを引き抜いて、投げ捨てた。


 実際、骨の隙間を通っただけなので何事もなかった。


「こんなやばいやつがうろついているなんて聞いてねえぜ」


「ここは一旦引いて、増援を呼ぶぞ」


 追っ手の二人はそそくさと退散していった。


「あいつら何がしたかったんだ……」


「剣星、圧倒的じゃない! グリフォンの時も思ったけど、どれだけ強いのよ!」


「私の見立ては間違っていなかったかしら!」


「格好良かったです」


 俺自身は大した手応えを感じていなかったが、女子たちの反応は良好だった。


 ま、喜びを噛み締めるのは、無事に町まで辿り着いてからにしよう。

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