第三章

エルフと行商人①

「ふぬぬぬぬ~、ぷはぁっ!」


「すごいすごーい、かなり良くなってきたかしら!」


 リリカとニアーナはすぐに打ち解け、俺のユニークスキル『収蔵』内で遊び始めた。


 何をやっているのか様子を窺えないのが、ちょっぴり疎外感があって寂しかった。


「二人して何をやっているんだ?」


「あら、剣星様、こちらが見えないのかしら?」


「そうらしいの。自分のユニークスキルなのに、変な話だよね」


「へぇー。そこの穴はてっきりこちらを見るためにいているのかと思っていたかしら」


「穴を……? なるほど、試してみるか」


 今まで俺は『収蔵』内を直接見ようとしていたが、穴を通すなんて発想は一ミリもなかった。


 過去に二度リリカが出てきているので、穴の位置は大凡おおよそ掴んでいた。


 意識すると、俺の視界は切り替わった。


「おおっ!」


 どこまでも続く白い大地と霧のかかった空間に、リリカとニアーナが居た。


 川で汲んだ大量の水は、白い大地の一部がくぼみとなって池のようになっていた。


 見掛ける度に採取しているシュンカイ草も、こうして見るとなかなかの量だ。


 その他には、焚火用の乾燥した木材、山菜、薬草、金貨の山、墓荒らしの荷物、そして混沌龍の卵が無造作に置かれていた。


 この勢いだと、ちょっとした村が俺の『収蔵』内にできあがりそうな感じだった。


「剣星、こっちが見えるようになったの?」


「ばっちりと見えるぞ。それで、さっきから何をしていたんだ?」


「リリカちゃんのあれを見せてあげるかしら」


「別にいいけど、笑わないでね?」


「笑わないぞ」


 俺は他人の努力を笑ったりはしない。


 そんなことをしたらあいつらと同じように……。


 おっと、いけないいけない、昔の嫌なことを思い出しそうになった。


 それじゃあといって、リリカは大きく息を吸い込んだ。


 そのままにゅ~っと上へ伸びていき、人っぽい姿をかたどった。


 スライムだとわかっているのに、その女性らしい曲線に俺は思わずドキドキとしてしまった。


「どう?」


 リリカは控えめな声で感想を求めてきた。


 これはまさか、女の子が気になる異性から「可愛いよ、似合っているよ」という台詞を引き出そうとしてくる幻のイベントではないだろうか。


 まさか30歳にして、いや、正確には330歳にして経験することになるとは。


「いいと思うぞ」


 俺はいい男風にいった。


「そろそろ限界かも。今まで『形態変化』をあんまり使ってこなかったから疲れるわ」


 リリカの反応は至って普通で、元の球体に戻った。


 あれ、俺が一人で盛り上がってただけか。


「ところで、どうして人間の真似なんてしてるんだ?」


「それは……、何となくよ何となく。それより、お腹が空いたわ」


 リリカははぐらかすようにいった。


「そういえば、ニアーナは何を食べるんだ?」


「木の実は好きかしら。あ、野いちごは大好きかしら」


「木の実と野いちごか」


 木の実の方は多少備蓄があるが、流石に野いちごはなかった。


 ニアーナとは長い付き合いになりそうなので、今後は野いちごも積極的に採取していこう。


 その後は日が暮れるまで食料を採取しながら歩き詰めた。


「ねえ、ニアーナ、今から剣星が面白いものを見せてくれるわよ」


「何かしら?」


 俺が枯れ木を削り出したのを見て、なぜかリリカが得意げにいった。


 こう注目されると緊張するが、俺は手際よく焚火を起こした。


「ほら、すごいでしょ!」


「確かに見事な腕前だけれど、火は苦手かしら」


 ニアーナの声は震えていた。


 その時、薪がバチンと火の粉を上げた。


「やっぱり無理かしらー!」


 ニアーナはリリカを盾にするように、すすすっと焚火から距離を開けた。


「シルフはみんな火が苦手なのか?」


「苦手な子は多かったかしら。でも、雷に打たれた木をいつまでも眺めているような、変な子も居たかしら」


「シルフによりけりってことか」


 そこは人と同じなんだなと納得した。


 俺はそういえばと、昼間に感じた違和感について話を続けた。


「気のせいかも知れないけど、ニアーナが『収蔵』内に居る時重たく感じたんだよな」


「ちょっと、いきなりなんて失礼なことをいうのかしら!」


 ニアーナは両手足をピーンと伸ばしてふくれっ面を浮かべた。

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