シルフの森⑥

 俺の体はポーンと弾き飛ばされ、山の斜面をタイヤのように転がった。


 自分ではどうすることもできず、出っ張った岩に激突してようやく動きが止まった。


「剣星、大丈夫なの!? どこか折れてない!?」


「いてて……、いや、痛くはないか」


 つい人間だった頃の癖でいってしまった。


 衝撃は感じたが、それだけだった。


 ざっと体を確認してみるが、欠損けっそんした部分はなさそうだった。


「もう、驚いたじゃない」


 リリカはほっと胸を撫で下ろした様子だった。


「ま、全然何ともなさそうだ」


 その瞬間、俺は唐突にユニークスキル『風の加護』とスキル『風流操作』を会得した。


『風の加護』は風属性の攻撃を半減させるものである。シンプル故に強力なユニークスキルである。


『風流操作』は風を起こしたり曲げたり消したりするものである。威力は練り込んだマナの量によって変動するので、無尽蔵のマナを『収蔵』している今の俺にとっては凶悪なスキルとなり得た。


 どちらもグリフォンが保有するスキルであるが、なぜ会得できたのかはまったく理解できていなかった。


 リリカの持つ『形態変化』と『環境適応』を会得した時と、今回とで共通する条件は何だろうか。


「剣星、上上!」


 リリカの声で思考が中断され、視線を上げると、グリフォンがこちらに向かってきていた。


 グリフォンは『風流操作』で大気を圧縮し、それを刃のようにして飛ばしてきた。


「なるほど、ああいう使い方もできるのか」


 俺は見様見真似で『風流操作』し、風の刃を放った。


 空中で風の刃が交差し、互いに打ち消し合った。


「なに今の!? 剣星がやったの!?」


「まあな」


「そんなことができるなら、もっと早くいってよ!」


「今できるようになったんだ」


「んん?」


 呑気のんきにおしゃべりしていると、グリフォンは風の刃を連続で飛ばしてきた。


「そんな芸もあるのか」


 風の刃の威力は大凡察しが付いている。『風の加護』もあるし、食らったとしても大したダメージは受けないはずだ。


(少し実験してみるか)


 俺は棒立ちで、風の刃を真正面から受け止める構えを見せた。


 すると、風の刃は次々に軌道が逸れ、岩肌に吸い込まれていった。


「うわ! あれ? ちょっと剣星、何をやっているのか教えてよ!」


「『風流操作』で風の通り道を作り出して、攻撃を逸らしただけだ」


 結果はご覧の通り、グリフォンの風の刃は俺にかすりすらしなかった。


「へ、へー、なるほど、そういうことね」


「キョエエエエー!」


『風流操作』による攻撃が効果的ではないと見るや否や、グリフォンはこちらに突っ込んできた。


 流石は空の狩人、戦い慣れしていた。


 しかし、グリフォンは俺に近付くことすらできなかった。


「近付きたくても近付けないだろ。むしろ、俺に飛ばされないように必死なはずだ」


「キョエエエエー!」


「さっきのお返しだ」


 俺は暴風の中で身動きが取れなくなっていたグリフォンに、風の刃をお見舞いした。


「ギョエッ!?」


 体勢を崩したグリフォンは、天高くまで放り出された。


 グリフォンはようやく俺に勝てないと悟ったようで、そのまま尻尾を巻いて逃げ去った。




 無事グリフォンを撃退したので、俺たちは下山を始めた。


 当然、リリカから質問責めにあった。


「剣星って何者なの?」


「見ての通り、ただのスケルトンだろ?」


「それで納得するほど、お馬鹿じゃないもん!」


「正直、俺だってよくわからないんだ。どうしていきなりグリフォンのスキルが使えるようになったりしたのか」


「こういうことは、今回が初めてなの?」


「実はリリカの『形態変化』と『環境適応』も使えるようになっている」


 ちょうどいい機会だったので、俺はそう打ち明けた。


「何それ、ずるすぎじゃない!?」


「どうしてずるいんだ?」


「だって、あたしのいいところがなくなっちゃうじゃない!」


「リリカのいいところは別にスキルじゃないだろ?」


「ちょ、いきなり変なこといわないでよ!」


 リリカはなぜか取り乱した。


「ひょっとして、スキルを覚えた魔族を『収蔵』したからじゃない?」


「でもニアーナの時は何も会得できなかったんだよな」


「だってシルフは精霊族じゃない?」


 リリカはさも当然のようにいった。


「まだ魔族限定だと決め付けるのは早計だな。あの時、ニアーナをすぐに追い出したし、時間かも知れないぞ?」


「そ、そんなのわかってるもん!」

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