シルフの森③

「いきなり石をぶつけるとか、やっぱりスケルトンは凶暴かしら!」


 おでこを押さえながら、シルフはぷりぷりと怒った。


「そっちこそ、俺たちを野垂のたれ死にさせようとしたのか?」


「そんな酷いことしないかしら! ただ少し怖がらせて、私たちの森から出ていってもらおうと思ったかしら」


「私たちの、なるほど、ここはシルフの森か」


 シルフは森に流れを作り出し、本来なら自分たちの住処すみかに人が迷い込まないようにするのだが、俺とリリカはあっちこっちと道草を食いながら進んでいたので、その流れを無視してしまったのだ。


「って、結構れてるじゃないか」


 俺が石ころをぶつけた箇所が、赤くなって膨らんでいた。


「痛いかしら」


「ちょっと見せてくれ」


 俺はこの山で『収蔵』しておいたシュンカイ草からポーションを『精製』し、シルフのおでこに塗った。


 すると、赤く膨らんだ箇所がみるみるうちに治っていった。


『収蔵』は生まれ持ってのユニークスキルだが、『精製』は俺が唯一自力で習得したスキルである。


 シュンカイ草よりも、当然ポーションにした方が高く売れる。


 草むしり時代、少しでも生活を楽にしようとして習得したのである。


「これで良しと」


「なんて優しいスケルトンかしら!」


 シルフは目をキラキラとさせながらいった。


「いや、元はといえば俺がやったわけだし」


「シルフってお馬鹿さんなの?」


「私をお馬鹿とののしるのは誰かしら! 姿を見せるかしら!」


「あたしはずっとあなたの前に居るわよ」


 リリカは俺の目、鼻、口からどろーっと出てきた。


「きゃあああああああ!」


 そのショッキングな光景にシルフは絶叫して、そのまま気を失って墜落した。


「リリカ、やり過ぎだぞ。俺も心臓が止まるかと思ったじゃないか」


「ごめんなさい」


 リリカは素直に謝った。


 シルフは灰のように真っ白になっていたが、やがて生気を取り戻した。


「あれ、私どうして寝て……」


「お、起きたか」


 地面に落としておくのもあれだったので、俺は両手の平でシルフをすくうように持ち上げていた。


「あらあら、やっぱり温かい心を持っているスケルトンかしら」


 シルフはひゅーんと飛び立つと、俺の周りを一周した。


「私はニアーナ、あなたのお名前を教えてもらえないかしら」


「俺は新玉剣星だ」


「あたしはリリカよ。さっきは驚かせすぎたわ、ごめんなさい」


 リリカは足元で謝罪した。


「あら、このスライムは一体どこに隠れていたのかしら」


 どうやら気を失う直前の記憶があやふやらしい。


「俺のユニークスキル『収蔵』の中だ」


「その中に、私も入ってみていいかしら?」


「中の物に触らないと約束できるなら、全然構わないぞ」


「そうよ、あたしの部屋なんだからね!」


「リリカ、ややこしくなるからちょっと黙ってろ」


「約束するかしら!」


 ニアーナは元気よく返事した。


「それじゃあ、俺の手の平に乗ってくれるか」


「わかったかしら」


 ニアーナは俺の右手の平にちょこんと腰掛けた。


 俺はニアーナを『収蔵』した。


「きゃー、何これ、吃驚びっくり驚嘆きょうたんかしらー!」


「おい、飛び回るな!」


「飛び回らないとは約束してないかしらー!」


「はい、お仕舞い」


 事故が起きる前に、俺はニアーナを取り出した。


「ぶー、ケチかしら」


 ニアーナはふくれっ面をした。


「それじゃあ、そろそろ行くよ。ニアーナ、良かったらシルフの森の出口まで案内してくれないか」


「ちょっと待つかしら」


「ん?」


「うん、決めたかしら。剣星様に頼みたいことがあるかしら」


「頼みごとって?」


 困っている相手の話はとりあえず聞くのが俺のスタンスである。


 生前は自分のことで精一杯だったが、心まで荒んでしまわないように、常に意識していた。


 それこそが、俺の憧れた理想の冒険者だからだ。


「霊峰ミツルギの頂上に巣くうグリフォンの羽を取ってきて欲しいかしら。そうすれば、シルフの秘宝を渡すかしら」

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