スライムを拾った⑤

「あたしもただでお願いするようながめつい性格はしていないもん! この体を使ってお返しするわよ?」


 スライムは体を膨らませながらいった。


 胸を張っているつもりだろうか。


「いやいや、俺はねちょねちょ趣味なんて持っていないぞ?」


「ちょ、は? なにあたしの水水しい体でいやらしいこと考えてんのよ! この変態! スケルトンの体ってごつごつしてて掃除しにくいじゃない? でも、あたしなら隅々まで簡単に手が届くって話なんだからね」


 スライムは体をぷるんぷるんさせながら怒った。


「ああ、そういう意味か。でも、いうほど汚れてないと思うけど」


 人骨はどこか気持ち悪いイメージがあるかも知れないが、俺の骨はつやもあり宝石のようである(自画自賛)。


「いわれてみればピカピカしていて綺麗だけど……」


「他には何かできないのか?」


「むむむ~、ある程度高いところから落ちても平気とか?」


 スライムは絞り出してそう答えた。


「二つ目でそれかよ!」


「こういうのは急にいわれても出てこないものなの! あ、そうだ、旅路の話し相手になってあげるわ!」


 スライムはぴょこんと跳ねていった。


「それはお前の希望だろ?」


「とにかく、何か考えておくから、連れていってよ!」


 到頭駄々だだっ子のようなことを言い出した。


「はあ、もう別にお礼とかは要らないよ。俺の探し物ついででいいなら連れて行ってやるけど、それでいいか?」


 俺は溜息ためいき混じりにいった。


 元はといえば、俺から乗りかかった船だ。最後まで付き合うことにした。


「やったー」


 スライムは歓声をあげながら、ぺったんぺったんとはずんだ。


「それじゃあ、ちょっと失礼して」


「なになに? ひゃん」


 俺はスライムの体をそっと持ち上げると、ユニークスキル『収蔵』を発動させた。


 すると、スライムがすーっと『収蔵』された。


 この『収蔵』がどこにされているのか、俺自身でさえも把握できていないとんでもスキルである。


 ちなみに、『収蔵』された物の重量は感じないが、生き物だと少しだけ重たいと感じる。


 理由は知らない。


 荷物持ちにしかならないこのユニークスキルを、生前にしっかりと研究したことがなかったからだ。


「わー、何これ! すごくひろーい!」


「言い忘れてたが、あんまり動き回るなよ」


「この金貨の山はなに?」


「伝説の冒険者への手向けらしいが、棺の中には俺しか入っていなかったし、もらってきた」


「この穴はなにかな?」


 俺の右目からどろっとスライムの一部が流れ出した。


「って、人の話を聞け! 追い出すぞ!」


 300年もの間、マナを蓄え拡張を続けたユニークスキル『収蔵』は、俺自身でさえ無闇に触るのが怖いブラックボックスと化していた。


 内部から適当に弄くり回されると、本当に何が起るかわからなかった。


「ひゃん、ごめんなさい」


 大した誠意も感じられない謝罪を受けたところで、俺は川の水を『収蔵』した。


「これくらいでいいかな」


「うんうん、これだけあれば砂漠でも一ヶ月は持つわ!」


 スライムは興奮気味にいった。


「さあ、出発よ!」


 かくして俺は、妙にれ馴れしいスライムを拾ったのだった。

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