詩繍 ～I Love Me～

小声で呼んでいる （最繍話）

最早　いろいろなことが面倒くさい

タバコの吸殻でいっぱいになった灰皿をきれいにするのも

飲み終わったコーヒーカップを台所に持っていくのも

さっきから尿意があるのにトイレに行くことすら面倒くさい

人の名前はなかなか覚えられず

覚えてもすぐに忘れてしまう

なのに　僕は今日も君を思い浮かべている

君の名を小声で呼んでいる

ＰＣのキーボードはミスタッチばかりで資料作りは進まず

やっとのことでできた資料は　添削のペンで真っ赤に染まって帰ってくる

作り直さなきゃとは思うものの　右上の提出日のカウントだけが増えていく

検索サイトのニューストピックを追うことにも疲れ

報告や連絡のメールは　ずっと前から苦行になっている

なのに　僕は今日も君を思い浮かべている

目を閉じた君の顔を思い浮かべている

最近の曲だっていい曲があるんだろうけど

やたら文字数多くて　早口言葉みたいだし

耳に入ってきても　心まで入ってこなくなった

♪ 心が忘れたあのひとも　膝が重さを覚えてる

長い月日の膝枕　煙草プカリとふかしてた

♪ 背伸びして見る海峡を　今日も汽笛が遠ざかる

あなたにあげた　夜を返して

聞き慣れたメロディの昔の演歌の歌詞がなぜか心に響いてくる

果たして　歳を取っただけなのか

何度も確かめながら遠くを見つめてはみるけれど

なのに　僕は今日も君を思い浮かべている

気がつけば君の名を呼んでいる

ＴＰＯも原発もワクチンですらも陰謀だと言う人がいる

テレビや新聞ではないところで　声高に訴えている人がいる

時々　覗きに行くけれど　シニカルになるばかりで元気は出ない

やけに突然に死んでしまう人が増えたような感じもする

若いのに心筋症になってしまうのは　コロナワクチンのせいだと言う人がいる

インフルエンザワクチンだって　接種の効果はゼロと言う人がいる

風疹にしてもまた然り

なのに　今日のテレビやラジオのニュースでも予防接種をしろしろとアナウンスされている

医者に診てもらえ　と言う人がいるのに

医者に殺されるな　と言う人がいる

肉は食うな　と言う人がいて

一日一食にしろ　と言う人がいる

果たして　事実であっても“そうじゃない”証拠を探すことが面倒で

“そうである”証拠を打ち出すことは　もっと面倒くさい

世捨て人になりたい　とは思うものの

家族に背中を向けてまで踏み込めない

「俺には関係ない！」と言ってしまいたいけれど

“知らないくせに”と言われる恐怖を振り払えない

手のひらの上の　その“手”が　神でも仏陀でも自然でも地球でもよいけれど

せめて　世界の権力者のものではないことを祈っている

なのに　

なのに　僕は今日も君を思い浮かべている

君の名を呼んでいる

そう　今日も小声で呼んでいる