第99話 本能寺の変?(8)〔帰蝶の説教〕

〔永禄5年(1562年)3月30日夜四ツ(亥刻、22時)~4月1日夕七ツ(申刻、16時)〕

西院小泉御所に戻ると俺は兄上 (信長)と一緒に三重の塔の三階に上がって本能寺の方を見つめた。

兄上 (信長)の顔の溝が深くなったような気がする。

護衛衆の十何人を犠牲にし、また、見習いの側近も一人を失った。

正面から戦えば、数百人単位の犠牲が出たハズだ。

全体の被害を考えれば最小に留めたと俺は自負できる。

だが、悲しみをゼロにはできない。

巨大なキャンプファイヤーのように本能寺が幾つもの炎の龍が蠢いて天に上がっていった。

兄上 (信長)には鎮魂の炎に見えているのかもしれない。


「よく助かったモノだ」

「兄上 (信長)は運がよろしい」

「あぁ、家臣らのお陰だ」

「よくやってくれました」

「何を言うか? 最後まで何も知らせなかった癖に」

「下手に知らせぬ方が混乱しないと思ったのです」

「抜かせ」


風が吹いて前髪が少し揺れた。

風が強くなくて良かった。

本能寺は外堀があり、大路や小路にも道幅があるので隣の区に飛び火し難い。

板葺き屋根から瓦屋根に変えたのも大きい。

この程度ならば、燃え広がる心配もない。


「兄上 (信長)。まだ終わった訳ではございません。ここからが本番です」

「弔い合戦か」

「あと一刻 (2時間)。少なくとも日付が変わるまで、ここを持たせねばなりません」

光秀みつひでが来るか」

「はい。公方を押さえねば、謀反人となります」

「大軍で押し寄せてくるか?」

「そこは判りません」


ホント、判らない。

少数精鋭を連れて面会を求めてくるか?

大軍で囲み脅してくるか?

剛柔ごうじゅうどちらの策もあり得る。

本能寺に兵を集めていれば、一人で公方に会いに行き、俺の密命を受けて動いていると公方を誑かす策もあったのだが、兄上 (信長)を見捨ててまで公方を守った者が単身の光秀みつひでを見逃すハズもないと考える。

単身の説得はあり得ない。

また、俺が戻って来ているのを察しているとも思えない。

いずれにしろ、主導権は光秀みつひでにあった。


「屋敷に招く予定はございません」

「痺れを切らした敵が兵を動かすのを待つのだな」

「初手でどれだけ削れるか楽しみです」


西院小泉御所は御殿の周囲に庭が広いのが自慢だ。

室町御所と同じく、防御力がないように見える。

輝ノ介 (元足利-義輝あしかが-よしてる)はそれを嘆いて室町御所の隣に城郭を持つ屋敷を建てた。

西院小泉御所には、そういった機能がないように見える。


「そう見えるだけだがな」

「京都所司代の村井-貞勝むらい-さだかつが守りを固めていると思っているでしょう」

「よくもあれだけの嫌がらせを考え付くな」

「落とし穴と火計と毒は俺の得意分野ですから」

「性格が悪すぎるわ」


西院小泉御所は俺の趣味の集大成と言ってもいい。

芝生には鹿や猪の罠であるトラバサミと竹弁当箱トラップを当然のように置き、四方を張り巡らす深さ2尺 (60cm)側溝は普通の板から割れる薄い板に置き換え、その先に有刺鉄線ゆうしてっせんを敷けるようにしており、それに『とりかぶと』の毒を塗るは基本だ。


「基本なのか?」

「基本ですね。撒菱まきびしの方が回収も考えて痺れ薬ですよ」

「芝生の上に捲くつもりか?」

「いいえ、石床の上でなければ効果を発揮しません」


色々と考えるのは楽しいのだ。

林にも様々なトラップを仕掛けさせた。

庭の池の排水路は地下に隠しているが、支え棒を外すと落とし穴に早変わり、そのまま内堀として使える。

そして、お得意の油と蒸留酒の混合液を流して何度でも火計に用いる。


「本当に楽しそうだな」

「正面の広場の落とし穴にどれだけの兵が掛かってくれますかね」

「それで三好の戦では日数を稼いだのであろう」

「はい。ですが、光秀みつひで相手に時間稼ぎは無駄です。すぐに火を付けて兵の戦意をそぎ落とします」

「容赦ないな」

「相手は光秀みつひでです。どんな奇策を使ってくるか判りません。油断は大敵です」


日付が変わる頃まで粘れば、勝ちが決まる。

朝まで引きつければ、圧倒的な兵力差で兵の心を折る事ができる。

心を折るのを待つ必要はない。

兵に恐怖を与え、心に闇が取り憑いた所で姿を見せてやる。

俺の姿を見て平伏したくなるようにする。

兵が付いて来なければ、光秀みつひでは何もできない。


「武士とは呼べぬが、戦の天才だな」

「俺は武芸がからっきしですから、他で補っただけですよ」

「それで名だたる武将らを倒してきたのか」

「凄いでしょう」

「あぁ、驚愕だ」

「そう思います。運が良かったと」

あれ?

光秀みつひでが動かない。

本能寺に兵を集めた儘で兄上 (信長)の首を取れと丹波勢を鼓舞し続けた。


『信長様の首を探せ』


本能寺で腹を切った筈だと兵らに言って本能寺の鎮火を命じ、兄上 (信長)の首を探している?

ここで時間を浪費すれば、光秀みつひでの勝ちが消える事を承知しているハズなのに本能寺から移動して来ない。

光秀みつひでの狙いが判らず、俺は首を傾げた。


「なんじゃこりゃ!」


手紙の檄文を読んで兄上 (信長)が声を荒げた。

叫びたくなるな。

俺がイスパニアとの海戦で船ごと沈んで亡くなったと書かれていた。

後は光秀みつひでが兄上 (信長)の首を取るので、五畿内平定に力を貸して欲しいという内容だ。

あと2・3日後に戻ってくれば、五畿内は大騒動になっていただろう。

賛同した者の首も飛んだ。


「お主らは儂を裏切って光秀みつひでに付いたか!?」

「お待ち下さい。日付を考えて下さい」

「日付だと?」


手紙の発送日は28日だ。

俺が琉球に出発した次の日 (24日)に名護屋を発送しないと届かない。

俺は23日に決戦で死んだ事になる。

23日付けの出航する旨の手紙を兄上 (信長)は見て居るハズだ。

また、討たれた知らせも名護屋から届いていない。

すべてがかみ合わない。

それが判るのは幕府の上層部と忍び衆くらいだが・・・・・・・・・・・・。


兄上 (信長)は俺の死を隠し、公方を謀殺して政権の奪取を狙っているとも書かれていた。

言い掛かりに激怒する。

そもそも俺はここに居る。

怒る必要などない。


南摂津塙-直政ばん-なおまさの部下に俺の書状を持たせて北摂津荒木-村次あらき-むらつぐに出陣の命令書を送った。

北摂津で俺の命令書と光秀みつひでの檄文が錯綜する。

北河内でもあったかもしれない。

それより南はどうだろうな?


さて、どちらに効力があるのかは明らかだ。

丹波で密偵をしていた伊賀衆の上忍は俺の密命を受けて動いている光秀みつひでに従った。

だがら、そもそも裏切った訳ではない。

檄文を渡した後に伊丹家の動きを探っていたのだが、村次むらつぐの使者が来て混乱した。

それで疑問を持って、摂津の忍びと連絡を取った後に俺に報告と状況の確認に上がって来た訳だ。

光秀みつひでにしてヤラれた。

これは頭痛の種だ。

膨大な情報を頭の中で整理していると、兄上 (信長)は怒りを露わにして上忍を問い詰めていた。


「丹波の伊賀衆、村雲党、その他の忍び衆は俺を裏切った訳ではないのだな」

「裏切る訳がございません」

「ならば、何故に光秀みつひでに従っておるのだ」

「我々は信照のぶてる様の命に従っているつもりでした」


兄上 (信長)は訳が判らないという顔だ。

色々な背景が繋がって来る。

まず、義輝時代の光秀みつひでだ。

寺の勢力を削ぎつつ幕府の財政の立て直しに協力していた。

反信照派の細川-藤孝ほそかわ-ふじたかと行動を共にしていたので、反信照派と思われがちだが俺の愚連隊と酒を飲み交わし、見張らせている忍びから敵の情報を流し続けてくれた。


次に義昭時代だ。

義昭救出の功績で筆頭の一人となり、幕府での権力を手に入れた。

謙信と共に丹波を制圧するという功績もあった。

織田家との交戦に反対して幕府を追われたが、親織田派と思われていた訳ではない。

京に帰って義昭と和解し、幕府内で旧幕府派 (反織田派)の筆頭とされていた。

実際、光秀みつひで千-利休せん-りきゅうと交流を持ち、反織田派の武将と連絡を取っている。

そこで得た情報は、すべて俺に流している。

忍びの中では、光秀みつひでの貢献度が高いと評価されている。

つまり、隠れ信照派と思われていた。

俺が光秀みつひでに厳しく接するのも擬態と思われていたようだ。


信照のぶてる様のご命令と信じておりました。我らは信照のぶてる様のご命令と信じて光秀みつひで殿に従ったのでございます。激文には反織田派を結集して決起すると書かれておりました」

「何故だ。そんな檄文を読んで光秀みつひでを信じた?」

「逆でございます。その程度の反抗で織田家が倒れる訳もございません。信照のぶてる様はご存命ならば尚更でございます」

「・・・・・・・・・・・・確かに」

「つまり、光秀みつひで殿は信照のぶてる様の敵を道連れに黄泉路に旅立たれる。利三としみつ殿からも光秀みつひで殿が『死んでくれ』と頼まれたと聞いたと申しておりました。我らはその言葉を信じたのでございます」


忍び衆を説得したのは黒井城の斉藤-利三さいとう-としみつだ。

俺の為に光秀みつひでは死を覚悟している。

その決意に心を打たれて、皆は光秀みつひでの計略を信じた訳だ。

あぁ、やっと判った。

知る限りの反織田派、否、違う・・・・・・・・・・・・反信照派をすべて撲滅するつもりなのだ。

兄上 (信長)の首など、『取れればいいな』程度の行き掛けの駄賃だちんだ。

それに兄上 (信長)を討つと言えば、愚連隊の熱烈な親信照派の協力も得られる。

実際、その協力なしに京への帰還は成功しなかった。


信照のぶてる様をよく知る者は信照のぶてる様らしい謀略であると言ったので疑う事もございませんでした」

「確かに信照のぶてるらしいな」

「兄上 (信長)、俺らしいですか?」

「違うのか?」

「悪意ある者に最大の鉄槌を下す。実に信照のぶてる様らしいと思っておりました」

「兄上 (信長)が討たれたらどうするつもりだ?」

「どうも致しません。信照のぶてる様を排除しようと千-利休せん-りきゅうと手を組んだのです。戦に出て討たれたならば、致し方ないかと存じ上げます」


この瞬間にカチャリとパズルがハマまった。

すべての組織の思惑を逆手にとっての騙しだ。

俺も騙された。

ショックなのは兄上 (信長)だった。


味方の忍びにそう言われて目を白黒させていた。

意外とキツいみたいだ。

そう言えば、信勝兄ぃも護衛の忍びに裏切られた事があったな。

その後、しばらく引き籠もって家臣不信になった。

兄上 (信長)はそこまでヤワではないが、それでも味方に裏切られたのは堪えたみたいだ。


確かに利休りきゅうが側近らをそそのかしていたのが事実だが、現実的でない。

幕閣も神学校も俺色だ。

急拡大させた為に色々とおろそかになった事を反省し、次世代の教育に生かすつもりだ。

今の側近は次世代が育ってくるまでの繋ぎでしかない。

信長政権?

大いに結構。

どうせ中身は同じだ。


利休りきゅうは色々と工作の準備をしていたが、仕掛けて来たならば、全力で排除する程度に考えていた。

兄上 (信長)には、色々と勉強して貰わねばならない。

教材程度に考えていた。

ただ、俺はその程度にしか思っていなかった訳だが、信照派から見るとそうではないらしい。


ならば、出方を待つ必要もない。

羅城門らじょうもんを含む京の扉をすべて開き、3万人の軍勢が町を取り囲んでいる事を知らしめると、明るくなって来た空の下に俺と兄上 (信長)が馬に乗って姿を現す。

(まだ、3万人の兵は集まっておりません)

兄上 (信長)の顔をちらりと見ると光秀みつひでがため息を吐いたのが見えた。

やはり、殺しておきたかったのか。

気を取り直した光秀みつひでが大声で叫んだ。


信照のぶてる様、何故生きておられるのですか!?』

「俺が生きていて何か不都合があるのか」

『イスパニア艦隊と戦い。海の藻屑となったと聞きました。後は信長を討てば、天下を我が手にできましたモノを・・・・・・・・・・・・一日天下とは、口惜しゅうございます』


大声であるが棒読みだ。

光秀みつひではもう少し演技を勉強した方がいいと思った。

否、棒読みなのはワザとかもしれない。

なぜならば、腹心である筈の利三よしみつが『なぁ、なんと! 我らを騙しておったか!』と大げさな身振りをして大声で叫んでいる。

おい、歌舞伎かよ!?

光秀みつひでの芝居に付いていけない武将らが狼狽していた。

あぁ、これは他の武将らに騙された事にしておけという合図なのだ。


敵味方併せて犠牲の死者はわずか54人だった。

怪我人を入れても200人に満たない。

これでは『変』とも『役』とも呼べない。

むしろ今更、逃げようとする者らを捕らえるのに手間が掛かった。

所司代様の腕の見せ所だ。


あぁ、阿呆らしい。

西院小泉御所に帰るとふて寝をする。

すべてが無駄足だった。

兄上 (信長)を助けた事で『良し』とするしかないな。

昼過ぎに千代女に起こされて政務に戻った。


「えっ、今なんと言った?」


夕方近くに更なる援軍が到着したと聞いてびっくりした。

早過ぎる。

俺と兄上 (信長)は顔を少しこわばめて大手門まで出迎えた。

一昼夜走り詰めで到着した尾張・美濃軍だ。


『帰蝶、大儀である』


兄上 (信長)が大声で皆に聞こえるように出迎えた。

織田本隊がわずか1日で到着した。

上洛している大名や取り次ぎ役が織田家の素早さに驚嘆している事だろう。

兄上 (信長)はそれを見せつけようとしていた。

帰蝶義姉上の馬が近づいて来た。

あれ、ちょっと様子が違う?

鎧を纏った帰蝶義姉上の顔は凜とキリリとして、凄みのオーラを放って綺麗だった。

あっ~~~~、怒っている。

帰蝶義姉上は怒り出すと背筋を正して美しい姿勢となり、笑みで消えているとすらっとした輪郭に戻って目鼻の美しさが際だってくる。

怒っている時の帰蝶義姉上は一番綺麗に見えるのだ。

帰蝶義姉上が下馬して近づいて来ると足下に向けて指を指した。


「殿、ここに座りなさい」

「帰蝶、それは中に入ってからで良いではないか」

「殿。正座 (罪人座り)です」


帰蝶義姉上の迫力に負けたのか?

兄上 (信長)は大手門を少し入った所でちょこんと座った。

帰蝶義姉上が見下ろしていた。


「殿。此度の失態をどう考えておられるのですか?」

「儂の所為ではないぞ」

「殿の責任でございます。光秀みつひでをすぐに呼び出し、応じないようならば、兵を整えておけば、何事も起こりませんでした」

「だが、儂にやる事が・・・・・・・・・・・・」

「茶会など後でやれば宜しい。何が最優先事項かを間違った殿の失態でございます」

「帰蝶」


見上げる兄上 (信長)を無視して、うんっと帰蝶義姉上が横を向いた。

いい訳は受け付けないという意味だ。

そこから京に上がってからの兄上 (信長)の失態の数々をツラツラとお経のように述べて行く。


「儂が無能のように聞こえるではないか?」

「己の無能に気づけていないのであれば、無能そのものです。己の無能を知って初めて一人前でございます」

「そういうモノか?」

「殿は自分に甘もうございます。それは甘い物が好きなだけにして下さいませ」


全部、お見通し。

釈迦の手の平にいた事を知らしめていた。

帰蝶義姉上がいる限り、兄上 (信長)は大丈夫だ。

そろそろ終わりそうだ。

まだ、何か反論がありますかと問い掛ける。

首を横に振った。

兄上 (信長)がその威圧で軍門に降った。

女帝様だ。


信照のぶてる様、貴方もここにお座り下さい」

「帰蝶義姉上・・・・・・・・・・・・」

「お座り下さい」


声が涼やかだが、何か別種の威圧を受けている気がした。

俺も諦めて兄上 (信長)の横に座った。

言われる前に謝辞を言って置こう。


「援軍、感謝致します」

「いいえ。この程度は当たり前でございます。そして、この度はご迷惑を掛けて申し訳ございませんでした」

「大した事ではありません」

「本当に殿を助けて頂いた事を、本当に感謝しております」


何故、座らせられたのか判らぬのに礼を言われた。

目が笑っていない。

後ろからすっと小さな体の女の子が出て来た。


「詳しい話は頭領から聞きやした。全部、帰蝶様にお話ししておりやす」


帰蝶義姉上の配下で口の悪い忍びだ。

確か、彼女の父が村雲流大芋衆の棟梁だったハズだ。

村雲党は丹波の忍びで今回の当事者の一人だ。


「それにしても無茶をしやがりますね。一歩間違えれば、爆発大炎上に巻き込まれてあの世行きですぜ」

「運が良かった」

「まぁ、神様の化身ですから運が良いのも込みなんでしょうね」

「何が言いたい」

「いえいえ、何も。ただ、こちらの苦労も考えて欲しいという事です。光秀みつひでの野郎が太閤様の命令だとか言うので聞いてやりましたが、信用なんてしておらず、堺の噂や摂津の兵が上がって来ている事などを光秀みつひでに教えてやらなかったから感謝しろと言ってやがります」

(「言っておらん」)


後ろの方で掠れるような声で否定する声が聞こえた。

忍び千早ちはやがくすっと笑う。

自分の父の声も無視した。

有能だが、側に置いておきたいとは思わないタイプだ。

要するに無茶をするのは良いが、それを補う忍びの苦労も考えろと言いたいらしい。

帰蝶義姉上は一歩前に出て屈んだ。


信照のぶてる様、殿をお助け頂いた事は感謝しておりますが、自ら赴くのは止めて下さい。殿の代わりは居ても信照のぶてる様の代わりはおりません」

「帰蝶義姉上」

「殿を助けるなど必要ありません。どうしても言うならば、無敵のさくら・・・らを遣わすだけで良いのです」


無敵と言う強そうに聞こえるが、単に死なないだけだ。

俺との付き合いも長く、織田家の上層部でさくら達を知らない者はいない。

さくら達で十分と言う。

確かに蒸気船が爆発しても、本能寺の炎上から逃げ出せなくとも、さくら・・・達ならば生き残るだろうと。

だが、後ろのさくら達が全力で首を横に振っていた。

帰蝶義姉上は両手で俺の手をぎゅっと握り締めて額に当てた。


「ご無事でよかった。御身をお大切にして下さい。この通りでございます」


涙が地面を微かに濡らしていた。

本当に心配を掛けたようだ。

帰蝶義姉上に申し訳ないと思ってしまった。

俺ももう一度謝った。

うん、兄上 (信長)が悪かった事にしておこう。

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

新規登録で充実の読書を

マイページ
読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
フォローしたユーザーの活動を追える
通知
小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
閲覧履歴
以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
新規ユーザー登録無料

アカウントをお持ちの方はログイン

カクヨムで可能な読書体験をくわしく知る