第49話 織田VS上杉 川中島の戦い(4)<信照、一髪千鈞(いっぱつせんきん)に冷や汗を流す>
(永禄3年 (1560年)8月26日早朝)
パンパンパンという音と一緒に薄暗い闇夜に小さく綺麗な光の花が咲き乱れた。
そして、迫撃砲のドンと言う発射音と共に花が咲き、ズド~ンと
昼間ならば見逃してしまうが、まだ薄暗いのではっきりと判った。
その間、越後勢は身動きが取れない。
越後勢が動くに動けない内に終わらせてしまおう。
「
「守備隊の配置は完了しました。花火衆が設置を行っております」
「こちらの指示を待つ必要はない。終わり次第に攻撃を始めよ」
流石に一刻 (2時間)で陣地を構築するのは無理だ。
ならば、攻撃は最大の防御と言う
屋代城の前に並べた兵を一斉に前に進めた。
「若様、山の裏手の甲斐衆、蘆名衆、越中衆の連合は山を越えて来ております」
「そうだろうな。地雷の設置は?」
「置かせております。多少、数が足りません」
ちぃ、俺は舌を打った。
篠ノ井で使い過ぎた。
今から回収している暇がない。
残っているだけマシと思う。
一体、関ヶ原から何度目の使い回しだ。
設置も回収も手慣れたモノになっている。
幕府方の出口は
松代に配置された関東軍の一部が昨日の内に
その
だから、その下を流れる三滝川の脇の
ただ、少し火力で劣るので、
夜が明けて来た。
東の空から太陽が顔を出し、眩しい朝日が差し込んだ。
但し、それは束の間であった。
薄い雲が朝日を隠し、天空には黒い雲が立ち込め、風が強くなって来た。
ボン、ヒュ~ルヒュ~ル、ズドン!
最初の一門が方角確認の為に試射弾を撃つと、方位と距離と風を考慮して台座を修正し、残り49門が一斉に火を噴く。
ドガガガガン、ヒュ~ルヒュ~ルヒュ~ルヒュ~ル…………ズドドドドド~~~ン!
城の一部が崩れ出し、ガタガタと崩れて行く。
尾根伝いに何重の曲輪が用意されており、そこを守っている
すぐに第二射が撃たれ、着弾と共に城の正門も崩れて行った。
「若様!?」
「あぁ、少し逸れたな」
「雨も降って来ました」
「ちぃ、早過ぎる」
狙ってやったならば、最高の成果なのだ。
風が強くなった為の偶然に過ぎない。
だが、城主である
ラッキー!
俺は心の中でガッツポーズを取る。
俺の後ろで側近らが呟いていた。
「なぁ、山を降りてくるのに時間が掛かっていないか?」
「確かに」
「どういう事だ」
「俺が知るか?」
また、
比高160mくらいしかない山と考えると信じられない遅さだ。
「山道とその周辺に罠を仕掛けてある」
「罠でございますか?」
「当然であろう。松代や
「流石、
「俺が指示を出す前に気付いて進言して貰わねば困る」
「申し訳ございません」
側近や小姓らが一斉に頭を下げた。
毒を中心とした嫌がせであり、進軍速度を落とす程度しか効果がない。
地雷や火計が使えれば相当のダメージを与えられるが、一晩で敵の目を盗んで準備しろというのは無理があった。
今でも中腹の敵に忍び衆が攻撃を加えて足止めをしてくれているかもしれない。
全部、嫌がらせだ。
その裏では上杉の
地の利は向こうに在っても数で押し流す。
これを制空権というのか、忍び領域と呼ぶのかは知らないが、情報の有無を相手に渡すつもりはない。
花火(迫撃砲)衆は10門を山の出口に向けて、残る40門を
遅い、遅過ぎる。
小笠原家の元家臣で村上一族でないのに粘り過ぎだ。
昨日の内に降伏してくれれば、色々と助かったのに…………糞ぉ。
「
「若様、花火(迫撃砲)衆の配置を変えた方がよろしいと思います」
「そうだな。雨の宮に配置した鉄砲隊の背後に半数を移せ」
ホントは
そこならば、
雨と風がドンドンと強くなっており、川の水嵩が増したのか、対岸の織田・美濃の鉄砲隊の音が消えた。
迫撃砲の音は続いているが、
俺の所からも
ズダダダ~ン!
雨の宮に配置した鉄砲隊の銃声が聞こえた。
使者が戻ってきた。
「
「そうか、判った」
が、この雨だ。
視界があるのか?
そもそも射程が届くのかも怪しい。
期待薄だな。
攻めて寄せている越後勢への援護くらいにはなるだろう。
ズダダダ~ン、ズダダダ~ン!
雨の宮の鉄砲隊の銃声がけたたましく鳴り響いている。
鉄砲隊の後ろに配置してあった旧甲斐衆と諏訪衆の一団が乱れると、越後勢を突破して出て来た。
なっ、何があった?
伝令の使者がこちらに来て膝を付けて叫んだ。
そう叫んだ。
俺の顔を見る余裕になく、伝える事を吐き出している感じだ。
「越後勢、鉄砲隊の前にある地雷帯を避け、増水する
あぁ、混乱したのだろう。
俺も焦った。
もう目の前に
最後の盾と俺の黒鍬・鍬衆が壁を作って待っている。
むおおおおおぉぉぉぉ、牛の雄叫びを上げて
見事。
突き出された槍先を槍で弾きながら馬を盾にぶつけるという高度な事を数名が同時にさらりとやって見せる。
壁が押し潰されて数頭の馬がこちらに走り出した。
俺の前に側近らが
殺気と共に鉄仮面がこちらを向いた。
顔が見えないが黒鍬・鍬衆の壁で止まると思って横から討って出て来たのに、その
俺を助けるより大きな獲物を狙ったな。
それを取り逃がした事に怒っているに違いない。
そんな事を考えている間に
「お命、頂戴」
『させるか!』
横殴りの大槍に対して槍を真下に下ろして、
「殿、ご無事か!」
「信広兄ぃ、助かった」
そのままの勢いで馬と馬がぶつかった。
6尺6寸 (200cm)の大きな体に合わせて選んだ黒毛の大きな馬体が
知るか。
馬の美しさでは負けているが、西遠江で飼育した馬は馬体だけは負けない。
体の大きな信広兄ぃが普通の馬に乗ると、普通の馬がロバに見える。
だが、今乗っている馬は信広兄ぃが乗っても見劣りする事もない。
そんな立派な馬体の馬だ。
馬で勝った。
などと拳をぎゅっと握り絞めていると、
信広兄ぃの大槍に対して
いつものように愛刀『姫鶴一文字』を手にしてくれれば、リーチの差で信広兄ぃが有利だったのだが、今日は見栄えを捨てて槍を持っていた。
つまり、最初に一撃を受けられた時点で勝負が付いていたのだ。
ただ、その勢いの儘に信広兄ぃが馬から落ちた。
「信広兄ぃ様を殺させるな」
側近が槍を出して信広兄ぃを守る。
井伊家の者もお守りせねばと盾となって群がった。
旗持ちがハンドボーガンを連射して牽制する。
筆の長さ位の短い矢は射程も威力もほとんどないが、矢じりに即効性のしびれ薬の毒が塗ってあるので厄介な代物だ。
カートリッジを交換する事で連射が継続できるのが強みだ。
だが、
軽くいなしてゆくが、そうこうする内に突破された黒鍬・鍬衆が戻って来て、俺の前に壁を再び作り出した。
「やはり、無理であったか」
馬を切り返して引き上げる。
同時に輝ノ介の重装騎馬隊が戻って来ると、
どうやら輝ノ介の重装騎馬隊を気にしていたようだ。
戻ってくる時間を見計らっていた。
引く
相当数の越後勢を討ち取ったが、
戻って来た輝ノ介が
一撃で仕留めようと勢いを付け過ぎた輝ノ介が悪い。
俺を守るつもりなら、信広兄ぃより先に到着できただろう。
「よく無事だったな」
「死にかけました」
「嘘を申すな。そなたが死ぬ訳があるまい」
「肝を冷やしたのは本当です」
「まぁ、それくらいはできる奴だ」
今回の反省点は多い。
俺は
ひとすじの細い髪で
その為に無駄に味方を殺された。
油断した俺の責任だ。
もう少し慎重に行く事にしよう。
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