第46話 織田VS上杉 川中島の戦い(1)
(永禄3年 (1560年)8月24日~25日)
24日、
信州の
春には一面に桜の花が咲き誇るらしい。
尤も神代桜がある場所は
その
「
「最後の部隊の到着を待って軍議を行った模様です。その後、夜道を急がずに越後勢が動き始めました」
「千代、どこまで前進すると思うか?」
「行軍がゆっくりでしたら、善光寺辺りまで軍を進めるのではないでしょうか?」
この
水量の多い
善光寺の西から山々から出てくる
確かに陣を敷くならば、少し小高い善光寺辺りが適している。
「若様、申し訳ありません。遠見の部隊の1つが潰されて
「全体に問題はないのだな」
「問題ありません。屋代より西には一歩たりとも入れておりません」
「
山間の中では織田家の忍び衆と上杉家の
互いに諜報を優先しているので全面攻勢に至っていないが、俺の愚連隊の連中ならともかく、末端の忍びでは太刀打ちできない。
だが、数の暴力で織田家が圧倒しているのは間違いない。
望遠鏡は公方様にも献上した品であり、幕府軍に随行する織田家の先遣部隊が持ち歩いているので幕府軍でも珍しくない。
但し、織田家の軍事機密なので六角家、北条家、毛利家へ1つずつ差し上げた以外は売り出していない。
売り出していないが、織田家配下の忍び衆に渡してある。
部隊の1つの常備品だ。
北条家や毛利家に貸し出している忍び衆にも持たせ、望遠鏡を使った偵察が当たり前になっている。
完全な透明なガラスを作るのにかなり苦労したが、日ノ本のチートな職人の手に渡れば、他家でも模倣されていても可笑しくない。
1つくらい奪われても問題ない。
皆によくやっていると褒めておくようにと、
さて、忍びらの努力の結晶である情報を元に
善光寺周辺に黒石を、
「殿、我らも
「確かに
「
「いくつもの川を渡って攻めてくる幕府軍は鉄砲の餌食です」
皆が
足場の悪い湿地帯を抜けた先に大量の鉄砲を並べれば、いくつもの川で足を取られて格好の的だ。
向こうも承知しているだろうから幕府軍は出て来られずに両軍が善光寺周辺で固まる。
それは俺が望む所ではない。
「やる気になってもらった大文字一揆衆、まったく活躍の場がなかった
「
「彼らの後ろの俺が兵2,000人と共に前に出ましょう」
「殿、ご自重下さい」
「俺で越前勢が釣り出せれば、安いモノだ」
前衛が突破された所で俺は下がり、後続を上げる。
左右から包囲するように篠ノ井辺りで完全包囲に持ち込む。
「俺の守りは信広兄ぃと輝ノ介に任せる」
「おう、任せろ」
「最後に
これは越後勢がこちらの誘いに乗って来た場合の話だ。
日が出る直前に軍議を開いて指示を出した。
俺の本隊も前進して、自らを
日が昇ると
昼過ぎた頃に後続の関東軍が到着すると、敵の数が
こうなると越後勢の突破ではなく、大根おろしのように前衛がすり潰される。
敵の全面攻勢で敗走する危険性が出てきた。
「若様、ここまでと思います」
「そうだな」
「銅鑼を鳴らせ、後退させる」
俺は
当初の作戦に戻る。
まず、敵を『篠ノ井』付近から
こちらの前衛が引くと幕府軍が前進して来た。
横田城があった辺りで関東軍が止まり、その後ろに中堅の武田軍、神保軍、蘆名軍が止まった。
後方に
三重陣だ。
このまま日が暮れて、早朝から総攻撃という流れになって来た。
「殿、どうかしましたか?」
「う~ん、このまま
「ここまで来れば、もう動きようがないと思われます」
信広兄ぃの言う通りだ。
輝ノ介の重装騎馬隊と北条軍の騎馬隊も最左翼に配置し直した。
敵の最右翼を突破し、敵の背後が取れるかが勝敗を握る。
敢えて言うならば、『
「囲んでしまえば、こちらのモノです」
「最後は敵の中央のありったけの砲弾を集中して殲滅する。そうすれば、
「殿、完璧です」
信広兄ぃは褒めてくれるが、作戦どおりに動かすのが至難の技なのだ。
逃げ道があれば、死ぬ気で戦わずに逃げる事を優先する。
山に囲まれた
そう覚悟していたのだが、日の入り前に関東軍が動いた。
「日が沈む前に攻撃を掛けるのか?」
闇夜の中で敵・味方の位置を知らせずに戦わせて混戦に持ち込むつもりか?
とにかく応戦だ。
「鉄砲隊、引き付けろ」
俺の声を伝連達が繋げて前線に伝える。
防衛線に配置した鉄砲隊が一斉に火縄銃を持った。
まだ、少し遠いか?
倒れた数が少ない気がするが、だが、篠ノ井を越えてくれば、300間 (545m)を切る。
そこで5,000丁の一斉発射だ。
『構え!』
指揮官が指揮棒を上げた。
鉄砲衆が火縄銃を敵に向けた。
緊張の瞬間だ。
(『曲がれ!』)
敵の武将が何かを叫ぶと、関東軍が左手の方へ曲がって行く。
それと同時に後方の越後勢が右手に進み始めた。
中堅を中心に風車のように兵を回すつもりか?
『
大将を中心に各部隊がくるくると回って敵に襲い掛かる恐ろしい陣形だ。
一番手、二番手、三番手…………数番手が終わると、再び一番手に戻って永遠に攻撃を継続する戦法だが現実的ではない。
もしかすると騎馬隊ならば有効かもしれないと俺も思っている。
騎馬でもかなり難しい。
足軽がそれをやると敵の前で背中を向けて逃げる兵が現れる。
後ろから刺されて終わりだ。
そもそも敵が密集していれば、突撃して突破するのも大変なのだ。
後ろから来る兵が交通渋滞を起こして兵の運用に問題がある。
そして、最後に敵を突破したのに後方に戻ってぐるっと一周を回ってくる意味が判らない。
仮想の陣形だ。
本当の『
つまり、一番手が正面の敵に当たると、二番手がその横槍を狙うように迂回する。
もちろん、敵も対応して横に広がってくるので、三番手…………と次々に横を迂回して行く、すると不思議な事に敵の中央部が手薄になる。
最後方の
本当の『
つまり、2つの軍がぐるぐると回っても意味がない…………えっ?
左から出て来た越後勢が
関東軍が中堅の後ろを通り過ぎると同じく
「若様、どうしますか? 軍を前に出せば、若様が望んだ
千代女の声にも張りがない。
戸惑っているのが判る。
これでは自分から地獄の釜の中に飛び込んだようにしか見えない。
飛んで火に入る夏の虫だ。
「
真田の者が調べれば間違いないだろう。
大規模な伏兵を隠す場所もないと思うが、
明日、
ここに来て狂ったのか?
【織田軍と幕府軍の主な兵力】
●元公方
総兵力4万8,000人(5万人)
総大将:
■越後勢1万3,000人
■関東衆2万3,000人
■武田勢500人
■越中衆3,000人
■奥州蘆名衆7,000人
(伊達・最上連合と幕府の双方に援軍を送った)
(蘆名分家の針生氏、金上氏、猪苗代氏、配下の白河結城家、(相馬家)、二階堂家、二本松家、田村家より出兵させる)
■北信濃上杉方村上衆1,500人(残りは2,000人は参加せず)
(各城も守っており、数に入りません)
◇◇◇
〇朝廷方
総兵力3万2,800人
総大将:
副将:
護衛:
他:織田の忍び衆
※火力が違うので戦力比はまったく別の話になる。
鉄砲の総数は各部隊が(前装式)500丁ほど保有しており、鉄砲隊(後装式)4,000丁、予備の鉄砲を(前装式)4,000丁ほど保有するので1万丁以上の鉄砲で迎撃できる。
(4人に1人が鉄砲を持てる環境、撃ち手が足りないのでやらないけど)
また、迫撃砲も美濃から100門ほど戻って来たので、合計200門になる。
火薬玉は黒鍬・鍬衆は1人に付き、最低4個を携帯している。
大量の火薬玉や火薬筒、地雷等は補給部隊が保管している。
□狙撃衆100人(雨も何のそのの薬莢を使用して後装式鉄砲、火縄じゃない)
(10人が狙撃の名手)
□黒鍬・鍬衆2,500人(4,000人の内、1,500人は佐久に回す)
□鉄砲衆4,000人
□花火(迫撃砲)衆100門700人(50門1,000人の内、1,500人は佐久に回す)
□西遠江・東三河衆5,000人
□旧今川兵(国境の警護隊)2,000人
□東遠江・駿河衆2,000人
□甲斐国人衆2,000人
□諏訪衆
諏訪一族衆4,000人
旧奉公衆代官の兵2,000人
(名目上、
□佐久衆500人
(佐久の守りに3,000人を残している)
□小県衆1,000人
□大文字一揆衆1,000人
□北条軍6,000人
〇朝廷方
総兵力1万6,500人
総大将:新吾(
副将:
□織田・美濃軍8,000人
□木曽衆500人
〔※木曽谷の石高は江戸時代でも木曽谷を実効支配した木曽代官の山村家(木曽氏の旧重臣)で7500石程度、当時は6,000石もあったかどうか? 1万石で250人としてもかなり苦しい〕
□
(
□(後詰)黒鍬・鍬衆1,500人
(美濃攻めで使っていた黒鍬・鍬衆を補給部隊の護衛として送った)
□(後詰)花火衆100門500人
(美濃攻めで借りていた花火(迫撃砲)衆を補給部隊の護衛として送った)
☆(後詰)荷駄隊の穴掘り衆(スコップマン1万人)
(兵士の数に入れていない土木専門の助っ人衆)
〇朝廷方
総兵力1万5,000人
総大将:
副将:
軍監・戦奉行:
□西遠江衆1,200人
□黒鍬・鍬衆500人
黒鍬衆
□黒鍬・鍬衆1,500人
□花火(迫撃砲)衆(50門)300人
□南伊那衆2,000人
□北・中伊那衆5,000人
□佐久衆3,000人
□諏訪衆1,500人
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