第39話 駿河侵攻(2)
(永禄3年 (1560年)7月10日~15日)
駿河館(旧今川館)には駿河・東遠江から集められた人質が暮らしていた。
武田家の新当主である
藤枝を任されていた
「御婆様、御不便はございませんか」
「
「織田家との和議も巧く進まず、また、お心を煩わせた事を深く謝罪致します」
「残念だったわね」
「不徳の致すところです」
また、実母の三条夫人を紹介したのも
子供頃から実の祖母のように手紙のやり取りを交わしていた。
まぁ、主に同い年の
お互いに思っていたように事は進まない。
あと10年もあれば、
だが、時代は待ってくれない。
織田家に唆かされて東遠江と駿河藤枝の領主達が謀反を起こした。
裏切った者の妻子や子供、その側近達の末路は悲惨だ。
一族ごと殺されても文句は言えない。
だが、
「よろしいのですか?」
「今更、武田家の威信を気に掛ける必要もないでしょう。無駄に怒りを買うだけです」
「ありがとうございます」
「ただ、見張りの兵を引き上げさせますので、御身はご自分でお守り下さい」
「引き上げられるのですか?」
「まだ、はっきりと言えませんが、おそらくそうなるでしょう」
織田家と武田家の力の差は歴然であった。
伊那で対立を深める中で二俣城主に入った
だが、密談は進まない。
東遠江、西駿河の事情を知る
せめて東遠江・駿河を引き渡す代わりに
その直後に伊那で紛争が起こって、話し合いは中断した。
織田家は幕府と対立し、
そもそも東遠江、西駿河の民は異常なほどに
武田家の重税の苦しみから助けを求めて、楽園と評される織田家に降らないのは
そんな民に「攻めろ」などと言える訳がない。
本国の甲斐や信濃の武将らはそれが判らず、背中から槍を突き出せば、従わせる事ができると信じていた。
浜松城の大砲の音を聞いただけで追い詰められた兵は正気を失って、逆に武田軍に襲い掛かって来る。
無理なモノは無理だ。
「
「西の
「問題は東だな」
「
さらに東の北条と接している所に
すでに関ヶ原における織田と幕府との戦は終わった。
織田家はその後始末に忙しいが、いずれは大軍が押し寄せてくる。
対する武田家に打開策はない。
「
関東に戻った
北条家を討伐する総司令となって関東に出陣していた。
戦局は圧倒的に幕府軍が有利に戦いを進めているが、戦場では利根川を挟んで一進一退が続いていた。
利根川の河川工事は終わっておらず、幕府軍は未着工の場所から渡河した。
激しい鉄砲の砲火と火薬玉の投下を耐えて幕府軍が渡河に成功すると北条軍が散開して城に籠もる。
利根川を越えた
だが、幕府軍は
また、北条家は城に籠もると、幕府軍の背後から強襲しては散開を繰り返した。
南下するとゲリラ戦を仕掛ける。
さらに幕府軍が北条領内に深く進攻すると、北条軍が逆に利根川を渡って越後への退路を断つ。
その傍らで北条の別動隊が下野、下総、常陸に侵入して城を奪った。
北条の城を幕府軍がほとんど落とせないのに対して、火力で勝る北条軍はどんな城でも1日で奪ってしまうのだ。
城を奪われた幕府方が援軍を求める。
互いに
違う所は幕府軍が北条領内で町や村を焼いて略奪を繰り返すが、北条軍は町や村を襲わない。
これではどちらが幕府軍か疑われてしまう。
ただ、北条領内の民は城に避難するので犠牲者が少ないとも聞こえてくる。
幕府軍は利根川を渡っては戻るという事を繰り返し、連戦戦勝の
「
「それをおっしゃいますな。北条とて2年分の兵糧を城に貯めておける訳ではございません」
「こちらは半年も持たんわ」
「上杉から用立てて貰えば、何とかなります」
「そうだな。だが、斎藤家も長島一向宗も落ちた。半年もあれば、織田軍が大挙してこちらにやってくるぞ」
「…………」
事実をずばり言われて、
頭の切れる
「父上は何を考えておられるのだ?」
「判りかねます」
「俺もだ」
はっきり判る事は織田家が武田家を潰す気で動いているという事実だけだった。
急ぎの使者が甲斐からやってきた。
「甲斐河内、
「まさか、
「事実でございます。甲斐は大騒動となっております」
幼少の頃は
一門衆として遇しており、
とても裏切るとは思えない。
父の謀反で苦しい立場になったが、甲斐で謀反を起こせば、すぐに討伐される危険性がある。
否、父(
「
「そうであった。退路を断たれては拙い。駿河を放棄して
「それがよろしい。直ちに準備に掛かります」
甲斐河内から富士川に沿って奥
このまま駿河に留まっていれば、挟撃される危険も出てきた。
退却だ。
富士川を越えて
駿河駐留軍は撤退を決めた。
撤退する兵は奥
「
「ご安心を。全員を無事に戻してみせます」
「先に行って、
すでに
押し寄せる敵を防ぎながら味方を逃がすという退却戦がはじまる。
わずか2・3日で状況が二転三転する。
遠くなる駿河湊を眺めながら、
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