第37話 甲斐の武田家。
(永禄3年 (1560年)7月10日)
甲斐の
さらに、継室として左大臣三条公頼の娘である三条夫人を迎える。
だが、
当時、青白いひょろひょろとした体格であり、いつも書庫に入って本を読み漁っていたと言う。
どこかの『書庫は地上の楽園』と叫ぶ魔女っ娘のようだ。
甲斐守護の
二人の方向性が違った。
それを避ける為の偽装だったのかもしれないが、俺が知る由もない。
ともかく、余りのひ弱さに
廃嫡の噂は
しかし、
しばらくは黙って付いて行くしかない時期が続き、そして、風が変わった。
俺から見れば間違っていないが、脳筋な武将達には理解できない。
それでも
天文10年 (1541年)には武田・村上・諏訪三氏が共同して信濃佐久郡の
佐久郡侵攻は成功したように見えたが、
その対応は戦略的に正しいと思う。
北条家と争っていた武田家にとって関東の両上杉氏を敵に回すのは自殺行為だ。
上杉氏と同盟関係を保って北条家と戦っているので有利に戦を進められるが、協力が得られないとなると北条家との死闘が待っている。
つまり、
正しい外交判断で
だが、この行為が守護として致命的な失態となった。
『
甲斐の領主らが
軽い神輿は
そこから
孫子の兵法に乗っ取った負けぬ戦に徹した。
情報を重視し、敵を分断し、勝てる戦のみ行う。
だが、重臣らの存在は軽くない。
内政において
『
武田家にとって痛い敗北であった。
多くの重臣を失って、新たに召し抱える必要が生じた。
だが、失った事で
重石が取れたのだ。
内政で『信玄堤』などに手を付け始めた事でも明らかだ。
「若様がいらっしゃらなければ、
「どうだろうな、判らん」
「織田攻めをした
「
助かる為には織田家に従属するか、織田家を破って勢力を取り戻すしかない。
織田家が侵攻してくれば、織田家の援軍である事を強調して和議を結ぶハズだったに違いない。
俺は侵攻しなかったので武田家と和議を結ぶ必要もなく、戦後に北条家と一緒に駿河・東遠江の返還交渉が起こった。
武田家は織田家と北条家を相手に敵対関係になった。
「念願の海を手に入れて手放せなかったのですね」
「そういう事だ」
俺が武田家に産まれていれば、同じ事を考える。
甲斐は貧し過ぎて、チート知識で国を富ます事が難しい。
日照り、冷害、天災、洪水などで収穫が減れば、間引きしなければならない。
間引きするぐらいならば、隣から奪う。
食糧状態を改善しないと、争いが永久に終わらない。
無理ゲーだ。
おそらく贅沢品を作っても国内では売れず、相模の今川家や関東の上杉家に売る事になる。
国内を固めないと金山の開発も儘ならない。
絶対に苦労する。
南信濃を奪うか、上野を取らない限り、余裕は生まれない。
「若様も甲斐に産まれれば、書庫の虫になったのですか?」
「おそらく、
「なるほど、
「銭を産む『打出の
甲斐では『打出の
地味な戦いを続ける事になる。
おそらく
鉄砲も買えないだろうし、石灰の掘り出しも銭にモノを言わせる事もできずに簡単じゃなかっただろう。
その点で織田家は楽だった。
成り上がりの織田弾正忠家は談合すべき相手を打倒せねば、のし上がる事ができない。
父上 (故
残る半分の織田一門衆を兄上(信長)に従わせれば、中央集権の完成だ。
「信長様が若様に従えば、すでに完成しているように思えます」
「俺は棟梁になるつもりはない。あくまで代理だ」
「代理ですか」
「兄上(信長)に譲渡して押し付ける」
「信長様も同じ事を考えていらっしゃるように思えます。若様が自ら宣言しませんから、無理矢理に押し付けてきたように思えます」
「迷惑だ」
もし、生まれ代わっても甲斐から始めるのは苦しい。
勢力が拡大してもチート武将が周辺にいる。
北条家と組んで関東に出るか、意表を突いて長尾家と組むか、史実通りに東海に出るか、先に美濃を奪うか?
川中島を回避するとどんな影響があるか判らないが、伊那と木曽を先に取っておく必要がある。
そして、飛騨…………を取ってしまいそうな気がする。
今なら白山の噴火が予測できるので救援と言って飛騨・越中・加賀を取る事も考えられるが、突然に起こった噴火イベントに対応できるかは疑問だ。
むしろ、奪った飛騨を救済する為に内政が停滞する可能性もある。
考えるだけ無駄か。
「考えるだけ無駄と思います。今は武田家の対策を考えて下さい」
「
「武田家は織田家と一戦するしかございません」
「可哀想に思えるぞ」
伊那で幕府の奉公衆代官となった
その影響力を排除する為に
今は諏訪と伊那の国境で睨み合いを続けている。
幕府方の武田家がこのまま何もせずに傍観すれば、
甲斐や南信濃の武将に『
家臣が離反して下手をすれば、諏訪にいる14歳の四郎 (
または、駿河・東遠江でも反乱が起こる。
「戦えば、寝返り。戦わなければ、離反だ。それでいて勝てる見込みは低く、逃げる算段も立たない。まさに四面楚歌だな」
「駿河を手に入れながら、海の孤島にした若様の手腕です」
「
今川家も長尾家も石高の割に富んでいるのは、駿河湊や直江湊を持って財を稼いでいるからだ。
湊を持たない甲斐の武田家は貧しい。
銭があるならば、塩など買えばいい。
その銭が甲斐には乏しかった。
海を手に入れて、塩も銭も手に入ると思っていた。
だが、思惑が外れる。
「若様が造られた船は尾張と相模を直接に結びます。駿河に寄港する必要がありません。さぞ、面食らった事でしょう」
「な~に、武田家も駿河と堺を直接に結べば良いだけだ。道は残されている」
「ご冗談を」
「10年、いや、5年あれば
「駿河・東遠江の富を甲斐や信濃に配っております。そんな余裕はございません」
駿河や東遠江の民を特別に苦しめている訳ではない。
武田家は元々重税を課す。
今川家ほど緩くないので、民から不満が出るのは当然だった。
その不満を解消する為に戦を行って発散していた。
その戦が減って、民の不満は爆発寸前だ。
何が何でも
忍びを使って敵の足元を揺るがし、不穏な噂や寝返りせざる得ない状況を作り出して、敵を弱体化する。
あるいは、背後の敵を操って兵を拡散させ、援軍が出せない状況を作り出す。
「
「
「事実ですから、焦っているでしょう」
懐柔は一度としてやった事はないが、過分な土産を用意した。
奇妙な噂も流した。
俺の狙いは
東遠江でも戦仕度を始めたので、造反する領主達が炙り出されて来たハズだ。
そこに
俺が中根南城を出発すると沓掛城、榎前城、岡崎城、吉田城に寄り、浜松城に戻ってきた。
随分とゆっくりとした行軍になっている。
新征夷大将軍にあいさつしたいという方々が山ほどいたからだ。
各城で1日ずつ足止めを食らい、浜松城に到着したのは10日になっていた。
信広兄ぃはいつでも戦ができる準備を終えていた。
さて、どうしたモノか?
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