第4話 今川氏真の再仕官?
(永禄3年 (1560年)2月中旬)
少し時間が戻る。
他薦、自薦、多くの者が諸大名や領主、あるいは、本人自身が売り込んで、奉公衆の推薦で毎日のように仮の幕府御所で謁見した。
どこぞの馬の骨が田舎大名となってのさばっている当て付けだろうか?
名門と呼ばれる者を重宝する癖があった。
故に名門の出ならば、ほぼ間違いなく採用された。
武田家はそれを承知してか、駿河国の
当時、
浪人の
そう言っても
そこに公方様の使者が訪れ、
「
「もっと近うよれ。同じ足利一門であろう」
「ありがとうございます」
呼び出しの要件は何となく、察していた。
先頃、名家と呼ばれる者が多く呼び出されている。
そして、
仕官の話は嬉しいが、京を離れるのは迷惑と思っていた。
というか、
中国地方の領主達がこぞって奉公衆代官の空席を奪い合っており、
今更、
公方様の呼び出しとなると断る訳にもいかない。
「そなたの先代、先々代の貢献は聞き及んでおる」
「只々、わが身の不甲斐なさを恥じております」
「運が悪かったのよ。そなたが悪い訳ではない」
先代、先々代の話だ。
案の定、
「謹んでお受け致します」
そう言いながら唇を噛む。
せめて守護代の要請ならばと思った。
奉公衆など降格に等しい。
だが、公方様の申し出を断る訳にもいかない。
「して、守護と守護代はどなたなられるのでしょうか?」
「守護は今まで通りの
「お、お待ち下さい。今まで通りとおっしゃいますが、駿河と東遠江は空席でありました」
「実質、治めておったのは
領地を返上する条件に武田家から守護・守護代などを指名するというモノがあったのだが、
だから、信じられないという人事だ。
駿河を奪った武田家と共に領地経営をせよという
「武田からもお主を
「そうでございますか」
「駿河に戻れるのだ。駿河屋敷も返して貰えるように交渉しておいた」
「公方様の御好意に感謝致します」
「そうか、喜んでくれたか。余も骨を折った甲斐があるぞ」
無位無官の足利一門を救っていい気分なのだろう。
一方、
唯一の救いは、奉公衆代官が守護代の家臣ではないという事くらいである。
むしろ、守護代を指導して領地経営に口を挟む。
織田家と武田家を結ぶ、嫌な役目が回って来た。
よくよく考えれば、駿河の家臣団らを納得させつつ、武田家と交渉できる者が自分以外にいない事を悟った。
もちろん、
「承知致しました。武田家を懐柔し、織田家との仲を取り持つように働きかけます」
「はぁ、そなたは何を言っておるのだ」
「公方様のお望みは武田家と織田家の融和と心得えましたが違いましたか?」
「何故、織田家と融和をする必要がある。幕府領となったのだ。織田家が従うのは当然であろう」
「幕府領になったと言われますが、武田家が支配している事に変わりありません。同盟を
「その為にもそなたを遣わす」
「そうでございましょう」
「駿河をまとめて織田と北条に睨みを利かせよ」
何を言っているのだ、この方は?
その手紙を見れば、駿河・東遠江が疲弊している事がよく判る。
火山の噴火や大雨や日照りなどで甲斐や信濃に被害が出た事は知れる。
武田家が苦しいのも判る。
だが、甲斐や信濃を救う為に駿河や東遠江から搾取して良い訳がない。
旧家臣の苦渋が見えた。
これから駿河・東遠江を立て直すには銭がいる。
疲弊して幕府の領地を返上する武田家に出せるか?
出せる訳もない。
駿河・東遠江を救うには、織田家や北条家の協力が必要であった。
「相判った。織田家に出させよう」
「お判り頂けましたか」
「織田家に命じておく」
「お判り頂けましたか。武田家が持つ権限の一部を織田か、北条に委譲するのがよろしいと思われます」
「そのような必要はない。銭のみ出させる」
「公方様、先程も言いましたが、武田家を警戒する織田家が銭を出す事はございません」
「ならば、力付くで奪えばよいであろう」
「織田家は強うございます。某では無理でございます」
「親の仇であろう。何故、臆する」
「相手が
「それでも足利一門の者か」
ふふふ、
あの光景を見せられて臆しない者がいたならば、見てみたいと思った。
そうだ。
「何を笑っておる」
「公方様は何もご存知ではないようでございますな。
「余を馬鹿にするか?」
「遠江での戦の事を聞いておられぬのですか?」
「織田が怪しい術を使ったと聞いておる」
「ふふふ、確かに怪しい術でございました」
「何故、笑う?」
「あれは人智を超えるモノです。神か仏。そうでないならば、悪鬼・羅刹の所業でございました。いずれにしろ、人の所業でございません。あれに挑むなど、愚か者の所業でございます」
「余が愚かだと申すのか。余は公方、武家の棟梁であるぞ」
ふふふ、いきり立つ
まるで昔の自分を見るようだ。
公方という座に
所詮、人は人でしかない。
神や仏の前で守護も将軍も
「公方様が敵う相手ではございません。
「余が負けるというのか」
「勝ち目などございません」
「助けて貰った恩を仇で返す気か」
「
「この腰抜けが。もうよい、もう顔も見とうない。下がれ」
奉公衆代官の話は流れた。
だが、話はこれで終わらなかった。
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