第5話 弘治元年。
朝に朝廷に出仕してちょこっと儀式を行う。
改元の日取りに相応しい日時と新しい年号に相応しい名を決めよ。
これを俺が発布する儀が行われました。
すでに準備が終わっていても責任者の俺が指示を出さないと始まらない。
あぁ、面倒だ。
それぞれの部署が持ち帰って儀式を行って俺の所に持ち帰ってくる。
事前に打ち合わせが終わっているので異論はでない。
もちろん、幕府との調整も終わっている。
後は儀式だけだった。
だが、形式というのは必要だそうだ。
決まった事を俺が帝に報告した。
帝の許可を貰うと吉日を選んで次に公方様に報告に行く予定だ。
これも俺だ。
「
「阿呆、帝はそれを望んでおる。帝の意志を忖度するのが近衛家だ。帝の意に叛いてどうする」
「俺はそれの方が楽なのですけど」
「お前より官位が高い者は誰も引き受けんから代理は無理だ」
関白・左大臣の
関白・左大臣、遂に藤氏長者まで上り詰めた
そして、左近衛大将だった
気が付けば、俺の知り合いばかりが朝廷のトップを占有しているらしい。
妙に胡麻をするのが多いのはその為だ。
公家の甘い言葉など聞く気になれない。
何々、これで武家でありながら俺が太政大臣を目指す障害がなくなった?
俺がいつ太政大臣になりたいと言った。
協力なんていらんわ!
怒気を上げて怒る俺に雀達が慌てた。
どうして怒ったのかが判らないらしい。
付き合いきれん。
ともかく、俺の代理を誰もしてくれないのが早く京に上がってくれと急かされた理由だった。
「皆、帝に忖度しているから無理だな」
「味方はいないのか?」
「味方だが、お前の意志には沿えない」
「
早く終わらせて帰るぞ。
一度、命令を出すと3日くらいは暇になる。
俺が動いていない時は他の誰かが儀式を行っている。
例えば、帝だ。
今日は俺から聞いた報告を内殿で神に報告する儀式をやっていたりする。
だから、意外と暇が生まれる。
ハズなのだが…………?
「若様、今日の予定は
「皇女との予定が多くないか?」
「尾張の姫様らに負けないようにと思われているようです」
「俺、そんなに会ってないぞ」
「帝にそう直訴しますか?」
できる訳もない。
皇女の周りが何としても気に入って貰おうと頑張る姿が痛々しい。
俺も肩もこる。
兄上(信長)ではないが、膝枕をして貰って他愛もない事をしゃべるくらいにしてくれ。
別に優秀でなくてもいいよ。
こんなに勉強してきましたという生徒を見ている気分になるのだ。
それが終わると改暦の会議らしい。
「改暦の会議は嫌いではないと思いますが?」
「
「今日は出席する予定です」
「だろうな」
何か決める日は必ず出席する。
三角関数すら覚える気がない。
サイン・コサイン・タンジェント。
それ美味しいの?
そんな感じで無視される。
一方、
爺さんは64歳だが頭は若い。
特に碁石を使った火星と木星の天体観測の実験など、
意外と簡単な理科の実験ですよ。
地球は一年で太陽の周りを一周する。
火星は二年、木星は十二年だ。
一年を12コマに分けて、三つの輪の上で碁石を一コマごと動かせてゆく。
地球の碁石から火星と木星の天体観測をする。
あら不思議?
実際の天体観測とほぼ同じ結果がそこに出てくる。
「おぉ、
「
「このようになっておったから、空で戻る奇妙な動きになっておったのか?」
「考えもしなかった」
地球が火星を追い越す時に現れる奇妙な動きが再現されると、皆が目を丸くしながら感動するのだ。
理科の実験をして楽しいのはこの瞬間だね。
俺も
数学力が凄すぎる。
工業技術が追い付けば、飛行機やロケットも作れそうじゃないか?
問題は知識層が知識を独占して広く底辺に伝わっていない。
だから、基礎工業力が向上しない。
中華が産業革命できなかった原因だ。
勿体ない。
ローマも後300年ほど続いていたら、産業革命が1,000年ほど早まっていただろうに?
馬鹿が暗躍すると、科学も後退するいい例だ。
ゲルマン民族の馬鹿野郎。
今日は
要するに、「
もちろん、俺が観測する訳ではない。
「昼から織田邸予定地の視察と桂川の指導が入っております」
「こっちは日課だな」
「本日、尾張より黒鍬衆10人と鍬衆100人が合流します」
「よし、来たか」
これで工事が一気に進める事ができる。
頼れるのは身内だけと悲しい現実だ。
今年の卒業生はほとんどを教師にしたので学校の拡充はできたが、人材の補充が追い付いていない。
実習名目で学生を実地訓練させているが、効率が今一つだったりする。
しばらく、これが通常運転だ。
諜報の留学生と人質という学生が山ほど増え、寺小屋の推薦者も年々増えてゆく。
神学校はもうパンクだ。
笠寺に新しい新校舎を建てる度に順次、引っ越し中だ。
あっちもこっちも火の車だ。
去年は学生に学生を教える方法で急場を凌いだが、高等教育になるほどそれが無理になる。
教師の増員は必須だった。
この人材がひっ迫する中で110人を引き抜いてきた訳だ。
どこが割を食ったか知りませんがすみません。
四日後、公方様のいる花の御所に赴いて新しい年号と日時を報告に行く。
昨日ぶりの再会だ。
やはりと言うか、三日と開けずに風呂に来る。
牛肉丼、卵掛けカツレツ丼がお気に入りだ。
細かい打ち合わせは昨日の内に終えた。
「相判った。滞りなくはじめよ」
「承知しました」
これで改元の日が決まった。
次に伊勢の天照大神に報告する。
これも俺の仕事だ。
伊勢から返事が返ってくると、全国の寺社や大名に『改元の儀』を伝える手紙を書く。
全国津々浦々だ。
出雲や諏訪など当然、鹿島、厳島、多賀、宇佐、宗像等々と送られる。
大きな寺も以下同文。
もちろん、大大名は言うに及ばず。
俺の名前で出されるのだ。
奉公衆も想定外だろう。
流石、
すべて俺の直筆だって?
右筆では駄目ですか。
駄目だそうです。
しくしく、赤ペン先生に何度も駄目出しを貰いながら書き上げました。
やっと終わった。
改元の儀の一ヶ月前にすべての仕事が終わって俺は解放された。
えっ、当日が残っているって?
いいのだよ。
後は帝のお言葉を読んで公方様に書状を渡すだけだ。
改元を宣言するのは公方様であって、俺の仕事ではない。
暦が変わった事を知らせるのも公方様の仕事だ。
天文23年11月28日(1555年1月1日)
室町幕府第13代征夷大将軍、
よし、帰るぞ。
正月の参賀まで残ってくれって?
嫌ですよ。
参賀に出たら正月の式典に借り出されて2月まで帰る機会がなくなるじゃないですか。
今しかありません。
出仕で慣れた道を馬に乗って帝にあいさつに行きました。
牛車なんて使いません。
しばらく知恩院の別邸で隠遁する事を告げた。
「もう帰るのか」
「向こうでも仕事が残っております」
「そう言われると引き止める訳にもいかん」
「来年の今頃に戻ってきます。改暦の報告も聞かねばなりませんから」
「楽しみに待っておる」
帝に別れを告げると、その日の内に堺に向けて出発した。
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