第4話 京の都も魔改造。(右京の端をちょこっとです)
ただ、朝晩が寒くなってきたのが頂けない。
昨日は子供達に囲まれて、
「あの四角い形をしているのが
確かに北斗七星は水を掬う
水の重みで少し反っているのだろうか?
「
「はい、北斗七星は『おおぐま座』の一部です」
北斗七星から北極星を見つけ、対の『こぐま座』を探す。
星が見え過ぎるのも問題だ。
俺や子供らでも『死兆星』がはっきり見えていますよ。
こちらでは『寿命星』と呼ぶ。
「正月にその星が見えん者はその年の内に死ぬと言われております。
安心されてしまった。
そんな事を言っている内に子供らが先に『こぐま座』を見つけてしまった。
見つかれば説明は簡単だ。
「確かに、確かに、そう見えますな」
そこを起点に次々とカシオペア、ペガサス、はくちょうなどの星座の名を上げてゆく。
星座と一緒にギリシャ神話を話すと子供達が星に興味を持ち始めた。
面倒だから、詳しく話しませんよ。
北斗七星を『四三の星』と呼び、または「北の大蛇」とも呼ぶ。
星の話は興味が尽きない。
俺は興奮していたのか気が付くと床に入っていた。
久しぶりにやってしまった。
俺は突然にネジが切れたように動かなくなる。
突然、バタリと倒れるので相手の方がびっくりするらしい。
今度、謝っておこう。
◇◇◇
(天文23年 (1554年)9月3日)
桂川沿いに野戦用のテント街が生まれてしまった。
その辺りから数えられないほどの白い煙がいくつも立ち上っている。
民の竃が盛んな証拠だ。
桂川・有栖川・天神川が合流する辺りは沼や荒地が多い。
これを整備しながら川底を掘って土手を高くすると、その間の土地に土を盛って開拓していった。
有栖川と天神川に挟まれた太秦の下に新しい農地が生まれた。
小さな川も整備して水路を造ってゆく。
同時に桂川と有栖川に挟まれた梅津も平行して整備してゆく。
沼や荒地が農地へと変貌する。
皆の顔の笑顔が浮かぶ
だが、これからが大変だ。
上流は元々氾濫の被害が少ない場所であり、仕事も簡単だった。
下流に進むほど大変になる。
桂川と有栖川が合流する辺りから土手を一段高くし、ローマンコンクリートで補強してゆく。
工事のレベルが初級からいきなり上級に変わる。
基礎工事は現地人で行い、最後に鍬衆を呼んで完成させ、軌道に乗ったら監督ができる黒鍬衆の誰かを派遣して貰おう。
今、現地の職人を教育して、ど素人に仕事を選別して分業化だ。
頭になれそうな奴、器用そうな奴、目先が利く奴を探してゆく。
同じ作業をさせば、簡単に見つかる。
声が出て几帳面な奴が頭に向き、何をさせてもそつがない奴は器用な奴だ。
最後に退屈そうにする奴は目先が利く奴か、怠惰な奴だ。
頭になれる奴は、より大きな集団の頭にするか、新しく入って来た者の教育係に回す。
器用そうな奴は職人の下に付けて職人を増やす。
目先の利く奴は監督の下に付けて作業全体の監視だ。
最初に一組が完成すれば、後は回り出す。
桂川は厄介そうな川だ。
嵐山にぶつかって勢いが京に方に向いてくる。
石垣を積んだだけでは水流に負けて土手が持たない。
川が氾濫した時を考え、どこで力を分散させるか、合流させるか?
合流する場所はどうしても水位が上がる。
それを想定して川幅を広げるか、土手の高さと厚みを増しておく必要がある。
高低差の測量をしていないので仮定の計算もできない。
勘だ、勘だ。
また、逆側に氾濫しては意味がないので両岸を補強しなければならない。
それが終われば、橋を掛け直す。
太秦の土木職人らが要となって動いていた。
割と優秀だった。
これはいける。
簡単な測量の器具などの使い方を教えて毎日のように勉強会を催す。
職人さんは俺の言う事をすぐに理解してくれて助かった。
予備軍を作る為に寺子屋を開いて子供達の指導も忘れていない。
3年後の主力を今から作ってゆく。
3年後というと笑う奴もいるが、
俺は
人夫もすぐに集まった。
右京の織田邸の仕事にあやかろうと職にあぶれた者や流民、河原者などが集まっていたからだ。
織田邸の人夫は5,000人しか雇っていない。
土台の土を盛る作業だけでも一年以上掛かる。
完成した所から建設を始めるつもりだったが、
阿呆な事を言うから武衛屋敷が終わってから宮大工をそれらに回す事にした。
着工は早くとも3年後だな。
意見は聞きますと、期待にも応えます。
それがいつとは言っていない。
織田邸の工事に参加したい方が多く集まっていたので、桂川の工事で引き取った。
万単位の人海戦術で工事をどんどんと進めて行く。
と言いながら、ほとんどが川底漁りと土運びだったりする。
後から聞き付けた人がドンドンと増えてきそうだ。
早く組閣を組み上げないと俺が離れられない。
方言が色々混じっており、どれだけの他国の者がいるのだろうか?
完全にカオスだ。
次々と仕事を割り振って行きますよ。
土運びもできない奴に払う銭はないぞ。
仕切ってます。
何故か、俺が陣頭指揮を取っている。
どうしてこうなった?
◇◇◇
(天文23年(1554年)8月22日))
朝廷に向かい帝に拝謁する。
公式には知恩院の別邸に引き籠って出仕しない公家扱いだ。
引き籠り。
なんて言い響きだ。
幻の俺に嫉妬を覚えた。
つまり、久しぶり出仕しただけだ。
出仕すると、来年の改暦の責任者の一人である
この
去年、天下が治まった京に戻ってきたが、
何となく駄目っ子な
改元の儀の打ち合わせを終えて知恩院に戻ると、室町幕府政所代
「
ちょっと待て。
俺は幕府から蟄居されているから居ない事になっている。
幕府の人間がそれを破るのは問題じゃないか?
「俺はここにいない事になっている」
「承知しております。ですから幕府政所代としてではなく、
「後々、問題になるのでお断り致します。他に相談しては如何ですか?」
「すでに断られました。皆がよい案はないと口を揃えて申すのです。どうかお助け下さい」
困ったら助けを求めるのは遺伝なのか?
俺はもう一度断った。
すると、
“
帰蝶”
ジョーカー(切り札)だった。
帰蝶義姉上の頼みとなると断れない。
話だけ聞いた。
話は一ヶ月ほど前に遡り、播磨征伐を終えた公方様から西国征伐をしたいとの手紙が俺に来た。
奉公衆の
備中守護は
播磨の一部を奪われた
同じように参戦できなかった
不公平な話だ。
それも当然であり、尼子の内乱は
美濃で許して、備中で許さない。
そういう訳にいかない。
しかも元々の守護であった前備中守護の
筋は通っている。
奉公衆の
播磨で勝って勢いに乗る武闘派の支持を得た。
『公方様は阿呆ですか?』
俺は返した手紙の書き出しはこんな感じだった。
播磨は隣国なので三好の負担も小さい。
備中まで遠征したらいくらの銭が消えると思っている。
上洛の献上金で
後は極貧生活が待っている。
寝言は寝て言え。
畿内で毎年10万貫文くらいの余剰金ができるまで遠征などできない。
俺も手助けしない。
一度でも負ければ、元の木阿弥だ。
足利家を潰したいならお好きにどうぞ。
これをオブラートに包んだ言葉で名無しの権兵衛として返書を書いた。
手紙を受け取った公方様は手紙を潰して床に叩き付けると何度も踏み潰すくらい怒ったらしい。
そこからやっと内政に力を入れ始めたのだ。
公方様が内政に目を向けるのはいい事だ。
「いい事だけではありません。こちらは困っているのです」
訴訟などはすべて
公方様の手を煩わせる事はない。
ある意味、分権であった。
それなのに公方様は自ら取り上げて判決を下した。
越権行為だ。
幕府政所
「法令の基礎を変えたので仕方ないのではないか?」
「それは半分承知しております」
「では、何が拙い」
「判例と言いながら判断がぶれるのです。それでは次に我々がどちらに判決すればいいか困ります」
それは問題だ。
公方様の気分で異なる判決がでれば、次からどちらが正しいか判らなくなる。
だが、それは
風呂に来た時、それとなく言っておくか。
「それはまだ良いのです」
いいのか?
「問題は三万貫文です」
幕府は上洛に伴って、献金などで五万貫文ほどの余剰金があった。
銭に余裕があるので備中に攻めようとか言う馬鹿が出る。
公方様はこの銭を増やす政策を募った。
そこで発言したのが
「某にお任せ頂ければ、10倍、20倍と増やして見せましょう」
中々豪胆な事を言う。
そこで三万貫文を借りると、比叡山を始めとする寺々や商人らに銭を貸したのだ。
『貸した銭は月々8分ずつ返すように』
8分という事は12ヶ月で96分になる。
ほぼ年10割の金利だ。
「元金の返済は?」
「元金の返済は店を畳む時、宗派を取り潰す時のみでございます」
一年でほぼ回収し、二年目以降は搾取し続ける。
金利と言う名の税だ。
それはヤミ金(闇金融)の『押し付け貸し』だ。
これならば、10年で10倍、20年で20倍に増やせる。
毎年、三万貫文の収入が確保できる。
しかし、金を押し付けられて喜ぶ者がどれほどいるのか?
「それが相談の内容でございます」
「なんとなく判って来た」
「大店はともかく、小さい店は銭を貸されて使い所がございません。
「俺にその三万貫文の使い道をどうかしろと言うのか?」
「いいえ、陳情に上がっているのは一万貫文ほどでございます」
あっ、繋がった。
俺は生野銀山に投資しないかと商人に打診していたのが、今日の昼の段階で京・大和・堺の合同で一万貫文ほどなら融資していいと返ってきた。
あっさりと決まった事にびっくりした。
俺は二・三回の会合を開いて説得するつもりだった。
気前が良かった。
つまり、幕府に押し付けられた銭をこっちに回したのだ。
俺も一万貫文を融資して、二万貫文を元手に生野銀山の採掘、道と湊の整備、警備の為の兵などを準備する。
天の配材だ。
ちょっと踊りたくなった。
さて、小さな店の銭を銀山に融資させるのは悪手だ。
銀山の採算が乗るようになるのは早くても2年以降になる。
最悪、山名氏が尼子氏に滅ぼされれば、すべてがご破算だ。
戦で紙屑になるかもしれない。
大店はそれを承知で合意してきた。
小さい店ならば、一文も返って来ない事が致命傷になりかねない。
もっと手堅いモノに投資した方がいい。
「う~ん、難しいですね」
「
他人の銭で桂川を改修して農地を増やす手があるのだが指揮が取れる人手が足りない。
銭は後で何とでもなるから、ここで急いでも仕方ない。
俺は「すまない」と言って立ち上がった。
「
俺の足を掴んで
帰蝶義姉上の手紙を振って粘りに粘った。
根気負けです。
もうお前は「新右衛門さん」としか呼んでやらん。
しかし誰かいたかな…………?
「若様、頑張って下さい」
やっぱり俺?
「
俺も自信があってやっている訳ではない。
千代女は他の仕事があるのでそもそもできない。
無理をしながら部下に仕事を割り振って育てているのに。
少し時間が空くと他の仕事が舞い込む。
俺は呪われているのか?
「若様はお優しいから」
俺は優しくない。
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