第1話 大垣城を作っちゃお。
尾張統一まで秒読みだ。
岩倉城の織田伊勢守家は尾張上四郡を支配した尾張守護代の名家だった。
今では家臣もほとんどいなくなり、岩倉城の周辺だけを支配する一領主に過ぎない。
守護の斯波家から守護代職を取り上げられているので『自称守護代』に成り下がった。
そして、先日の前守護の
参列して欲しければ守護代を認めろとか、無茶を言うからお断りしました。
これで最後に残っていた周辺の国人衆にも見限られた。
和解して領主になる最後のチャンスだったのに。
和解しなくても参列するべきだったね。
岩倉城周辺から岩倉城のみだ。
岩倉城の城下町も伽藍堂だ。
兵を集めたくとも集める民がいない。
それでも100人くらいは集まるかな?
残っていた家臣も役職を捨てて、こちらに仕官を求めるありさまだ。
役職って?
又代とか、奉行とか、〇〇大将とか?
こちらに降ると、どんなに偉くとも底辺からのスタートですよ。
流石に足軽という事はないけど、底辺は底辺だ。
今なら斎藤家に行けば、領主になれるかもしれない。
そう勧めたのに、それでもいいってさ。
そんな感じで家臣からも見限られはじめている。
こりゃ、自然消滅するな。
そんな感じで清州の仕事を終えると京に上がる。
上洛が一ヶ月ほど遅れたのであちらはかなり焦っている。
改元の責任者と言っても俺は名前だけだよね。
えっ、式典を執り行えない。
終わらないと、先に進めないって?
判りました。
すぐに上洛します。
公家さんはどうして行事と行事の間で式典を開きたがるのだ。
今まで通りに代理で進めればいいだろう。
ぶつぶつと言いながら牛屋(大垣)に到着したのはお彼岸になっていた。
◇◇◇
(天文23年8月15日(1554年9月21日))
牛屋(大垣)に入ると家が増え、家の軒下からいくつもの煙が上がっていた。
彼岸供養の煙だ。
この線香が流通したのは室町からで意外と新しい。
禅寺が好んで使った。
また、公家への贈り物としても喜ばれていた。
そこで線香に蚊取り線香を混ぜた。
ははは、蚊取り線香は今年のヒット商品だ。
去年は様子見だったが、今年は大ブレークした。
バッチコイ。
今はまだ棒状だが、来年はぐるぐる巻きの蚊取り線香を作って一晩持つ奴にする。
しかし、夏が終わると売れなくなる。
もうすぐ終わりだ。
最後にもう一花と思って、煙を辿ってご先祖様が帰ってくると
思った以上に沢山売れた。
まぁ、裕福な家なら買えるお値段設定だ。
那古野も清洲も沢山売れた。
尾張と京の街道沿いなら買える家も多い。
こうして上がる煙を見ていると俺の懐が温かくなるようで気分もいい。
皆さん、ありがとう。
毎度あり。
「若様、牛屋城が見えてきました」
「来年はこの城も取り壊しだな」
「石垣はともかく、城の方は今年中に完成させると意気込んでおります」
「急ぐのは石垣であり、城は後でいいだろう」
「若様以外は城の方が大切です」
「そんなものか?」
城なんて最後でいいと思う。
三重の天守閣の絵図面を見せたら
そう言えば、天守閣はまだ誰も造っていなかった。
なんか、もう止まらないという感じだ。
私財を投げ打って建設に掛かった。
分国守護は元服した
西の守りが守護代
稲葉山城に負けない、見ただけで攻めるのを諦めたくなるような難攻不落の城を造ってやるぞと意気込んでいる。
難攻不落はともかく、攻めたくなくなるのは大切だ。
この牛屋(大垣)は東山道(中山道)と美濃路が合流する交易の拠点だ。
奪われる訳にはいかない。
総石垣の城はそれだけで威嚇になる。
東に
今日も津島からひっきりなしに物資を運ぶ運搬舟が到着していた。
建造と開拓で完全にバブル状態だ。
町は賑やかで活気に湧いていた。
城の前で
「
「私(俺)は知恵を貸しているだけです」
「いえいえ、銭の融通も助かっております」
「白山の代金です。しかも払ったのも私(俺)ではなく、津島衆と熱田衆です」
「
山の採掘権を買えば、白石(石灰)の代金を払わなくて済む。
商人らは割安で白石を手に入れ、
しかも人夫代の中抜き、白石の税で懐も温かくなる。
実に
採掘権を売った銭で
「百姓達は怒っていませんか?」
「新しい田畑を造ると意気込んでおります」
「それはよかったです」
「農地を十倍も貰えると聞けば、頑張りたくなるでしょう」
「頑張るのは本人ですが」
「がははは、その通りです。彼らが頑張らないといつまでも田畑ができん」
西美濃の東から中美濃・奥美濃にいる領主達の中に
特に一族を割る者が多かった。
家督を嫡男に譲り、嫡男は
西美濃の西に居た
移動したが、土地を差し出さずに着の身着のままで向かった者が多かった。
これだけ見ると、
農民だって馬鹿ではない。
より安全な土地を求めた。
土地をくれるというのだから付いて来る。
その数、ざっと三万人を超えていた。
家族ぐるみ、農夫、妻や子供に娘も混じっている。
中には流民も混じっていた。
仮に美濃の石高が40万石とすると、その半分を
つまり、20万石だ。
一石が年間で一人の食う米の量とすると、20万石には20万人が住んでいる事になる。
一割が二万人だ。
三万人以上という事は
農民も一族を割ってこちらに来たのかもしれない。
但し、
しかし、
つまり、
大喜びなのは
一方、
貰えても嬉しいとは思わないだろう。
それでも大丈夫だ。
開拓後には所領が十倍になっているハズだ。
それには
土を選別して砂利や石を抜く。
大きな岩は火薬筒で爆破して持ち去り、牛屋(大垣)の石垣に使う。
作業区画を分割して、村ごとに開拓する場所を指定する。
三年もあれば、広大な農地が広がる事になる。
開拓奉行となった
「自分の土地を作るのに飯がタダで支給され、わずかですが手当も出る。皆、喜んで作業に勤しんでおります」
「最初は村と小さな曲輪でいいので完成させる事を心掛けさせて下さい」
「承知しております」
「すべてが完成した時点で順次、水田に変えます。そこから収穫量が一気に上がると思っていて下さい」
芋や大豆、稗、粟などの栽培も行う。
山裾には柿や木通なども増やす。
指導員のみ派遣して全体を整え、最後に水路のみ黒鍬衆を使って完成させる。
まずは、
ともかく、大垣城の石垣は
全長6里 (24km)の工事だ。
気が遠くなるような作業が始まっている。
指導員に5人が頭を下げている。
「
「苦労を掛けるが頼む」
「お任せ下さい」
わずか5人で広大な土地の開発を管理しろとは俺も鬼だ。
道半ばで不満不平をいう輩も出てくるだろう。
荒くれ相手に口論する事もあろう。
何より面倒なのが、面子を重んじる武士らとの交渉だ。
だから、肩書きは重要だ。
官位をちょこちょこと貰ってやった。
が、元は流民だ。
それが武士相手に
無茶なのは承知している。
「お気になさらず、西三河をまだ14歳の
「あれは度胸がよいからだ」
「我らも腹をくくって交渉致します」
「期待しているぞ」
「お任せ下さい」
あれが褒美ではなく、罰なのだが?
皆、
そんな気合いが入っていた。
3年後に第一区画を完成させ、生活の場を整える。
水路は上流から引いて行く。
第二区、第三区と広げてゆく。
ともかく10年以上、すべて区画が完成し、水路がすべて繋がるのはいつの事か?
それは俺も知らない。
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