閑話.魯坊丸の夢、願望。いいえ、暴走中です!
俺の右筆を4人追加した。
助手であった者を右筆に引き上げ、神学校から中小姓になれるような優秀な4人を右筆の助手に付けた。
中根南城に4人、熱田神社に2人、沓掛城に2人の体制だ。
「魯坊丸様、自ら書いていたのではもう右筆と呼べません」
「松永久秀は右筆から武将になったと言うぞ」
「自信がございません」
「たった1ヶ月で神学校の一回生の課程を終えた秀才が」
「山中様、何とか言って下さい」
「諦めろ」
助手から右筆になった
甲賀二十一家の山中氏の庶流で俺の警護に付いていたが、右筆が忙しいので助手を命じたのがはじまりだ。
文句を言っているのは
まだ、神学校に居たかったとぶつぶつと言っているが、助手は1ヶ月毎の交代制で来月は学校に戻れる。
正辰の希望を潰した訳ではない。
父の
再来月は熱田で勤め、次に中根南と神学校と勤め先がぐるぐるとまわってゆく。
後輩が育ってくれば、神学校にいる時間も長くなるハズだ。
「それは無理と存じ上げます」
「千代、それはどうしてだ?」
「若様の拠点は3つでございますが、実際は清州、那古野、末森にも配置した方が良いみたいです」
正辰の希望は叶わないらしい。
まぁ、いいだろう。
「いいだろうではありません」
「この仕事は右筆ではございません」
「仕方ない。 では、右筆兼会計監査と変更しよう」
「会計監査とは何でしょうか?」
「代官から上がってくる報告をまとめ、勘定奉行が上げた数字が正しいかを確認する者の事だ。間違っておれば、おかしい所を指摘して下に付き返す」
「今やっている作業そのままでございますな」
沓掛城の城代と家老は当てにできない。
とにかく数字に弱い者達しかいないので、上がってきた帳簿を精査できない。
各奉行の調整まで勘定奉行に押し付けるのは可哀想だ。
勘定奉行は上がってきた数字をまとめるだけで精一杯なのだ。
調整は俺がするしかない。
しかし、数字まで確認している暇がないので右筆にその仕事を回した。
「俺の右筆は優秀で助かる」
「煽てても、これ以上は無理です」
「細かい調整だけでもやってくれると助かるのだ。やってくれないか? 常務の称号を加えてやろう」
「常務の説明は結構です。受けるつもりございません」
実質のNo.3。
城主の補佐をする名称なのに勿体ない。
あっ、考えてみれば、ここで鍛えておけば、城代候補ができるではないか?
俺がにやりと笑ったので、為俊が凄く嫌そうな顔をした。
さぁ、遊んでないで仕事、仕事。
俺は次の書状を取り上げた。
もう熱田では見られなくなった喧嘩の仲裁の裁定まで報告書として上がっている。
法の整備と権限の分配ができていない証拠だ。
「これは寺社奉行に差し戻せ。あとでどういう判決をしたのかのみ聞く」
「判断できないので上げて来たと思われます」
「こんなものまで一々判決できるか?」
「若様、放置すれば、村同士の抗争に繋がります」
「ふふふ、では言っておけ。これ以上、一人でも刃傷沙汰が増えれば、どちらも罰する。話し合いで解決してみせろ」
「はい、承知致しました。そのように添え状を書いて送り返します」
「寺社奉行は青い顔をしそうですね」
「知るか」
「熱田明神様はお忙しい。手間を取らせて、お怒りに触れたくないならば、村人達で話し合いなさいとも添えておきなさい。添え状を渡す時に怒りが落ちるときは双方の村がなくなると思いなさいとも言っておきなさい」
「はい、千代女様」
俺は自領であれ、他領であれ、ある意味で平等なのだ。
しかし、三領分になると量が多い。
領主は千代女と加藤に振ったが、二人は俺の護衛兼情報集め役なので、俺が処理することになる。
「人材が揃ってくれば、独自に管理させます」
「不甲斐ないばかりに申し訳ございません」
「二人とも謝ることはない。中小姓を取られたのが一番の原因だ」
「育ってくるまで待たねばなりません」
「せめて実習できるようになったら使って行こう」
「助かります」
「畏まるな! 信頼できる者を置かねば俺も困る。警備だけでも手が抜けるので助かっている」
望月家と三雲家が尾張で領地を貰ったので六角家中で妬まれている。
その穴を埋める為に、平井家から姫を貰い。(婚約中)
蒲生家から後藤家に養女に出して兄上(信長)の側室に入る。
また、家臣から娘を兄上(信長)の養女に貰って進藤家と目賀田家に嫁がせる。
全部、近衛家の姫の輿入れの後だ。
まず、近衛家の姫を木造家に養女にする準備に3ヶ月ほど掛かり、それから結納など手続きを取ってゆく。
兄上(信長)に嫁いでくるのは来年の正月以降になる。
それが終わってから蒲生の姫の番になる。
その間にどの家臣から養女を貰うか決めておく。
一番は守護の斯波家に近い牧家や重臣の林家の名前が上がっている。
もちろん、内藤家や佐久間家も黙っていない。
虎視眈々と進藤家などと連絡を取って裏工作を続けている。
一方、津島衆は
また、叔母である
で、景任には子がおらず、その妾に子ができたら養子として返して貰いたいと兄上(信長)への要望としている。
妾ならば、庶子扱いで男子が生まれれば確実に戻ってくる。
そして、その子は兄上(信長)の子供だ。
中々に狡い方法だ。
因みに、弟の苗木城主の
この東美濃の遠山家は飛騨の三木家(後の
少し以前まで争っていたらしいけどね!
美濃でも土田御前の実家から兄上(信長)に嫁がせたいと言っているらしい。
こちらは土田御前経由の話なので決まれば断れない。
思惑が複雑に絡んでおり、話し合いだけで1年以上は掛かりそうだ。
尼子や毛利からも話が上がっている。
どうやら兄上(信長)は俺が元服するまでの中継ぎ守護代と思われているらしく。
それにふさわしい姫を探している。
妻に出して、子を為しても家督を継げない。
そんな条件だから受けがよろしくない。
また、公方様の使者で来た
酒の席の戯れだ!
こちらはまだ本格的な話ではない。
だが、老練な手口であり、外堀から埋めてゆくつもりなのだろう。
あとは公方様の胸三寸と言った所だ。
皆さん、忙しいことだ。
よし、終わった。
今日の処理分を終わらせた。
俺の時間だ。
「千代、大紙と製図用の定規をとってくれ」
「若様、お疲れなのですから、お休み下さい」
「疲れを減らすにも、馬車と蒸気機関は必要なのだ。今から準備してもいつできるか判らん」
「判らないのでしたら、まずは、体を休めて下さい」
「少しだけだ」
千代女が「もう知りませんよ」と言う顔で準備をしてくれる。
俺の楽しみまで取られて堪るか!
できるかどうかではない。
挑戦するか、しないかだ。
まず、馬車は必須だ。
これが一番簡単であり、揺れを抑える構造がややこしい。
スプリングが作れれば、かなり楽になる。
蒸気はまるで先が見えない。
爆発を繰り返している。
いずれは蒸留酒からジェット燃料を作り出し、グライダーに乗せてジェット機を造ってみせる!
「桜、飛び魚の先はまだまだ長いぞ」
今日は見張り役で天井に張り付いていた桜が慌てて降りてきた。
今日は俺が考えた忍者服を着ている。
「若様、今、ジェットって聞こえましたよ。 凄く物騒な言葉と一緒に私の名前も上げないで下さい」
「飛びたいと言ったのはお前ではないか?」
「もう、飛びました」
「雲まで飛んでおらん」
「でも、あの研究って爆発だらけですよね」
「蒸気の開発には爆発が付き物だ」
「爆発しかしていませんよ」
「安心しろ。世界初の飛行士の称号は桜のものだ!」
「要りません」
「ふふふ、これは決定事項だ」
嫌ぁ、桜が絶望した顔して崩れた。
皆が可哀そうな目で見ている。
桜は「空を飛びたい」と言ってくれた大切な仲間だ!
楓は「七つの海を巡りたい」と言ってくれた。
紅葉は「美味しい食事を食べ尽くしたい」と材料集めに協力してくれる。
皆、俺の大切な友だ。
お前らの夢を叶えてやるぞ。
「もう、叶いましたから」
「遠慮するな」
「若様、許して下さい」
ははは、冗談だ!
どんなに頑張っても50年以上は掛かりそうな研究だ。
ジェットの前にプロペラを先に開発する必要もある。
その前に蒸気だ。
夢のまた夢だ。
あっ、閃いた。
スクラムジェットエンジンの構造は単純だから補助動力として試してみよう。
足漕ぎスクリューも書いておこう。
次はトマトだ。
トマトを見つけて、スパゲティーを作るぞ。
それにガラスに、ビニールの開発だ。
温室ができれば、南国の野菜も作ることができる。
ロマンを求めるならば、「夜明けのガンマン」のような短銃もありだ。
ならば、機関銃も書いておこう。
そして、雲の次は月だ。
ロケットを造って桜を月にやるぞ。
「武田の者を飛び魚に乗せたのは謝ります。許して下さい」
「桜、俺は怒っていないぞ」
「嘘です」
「爆発する乗り物なんて、叱られるより怖いですよ」
「桜は俺の夢に付き合ってくれると言ったのだ。無駄に殺すようなことはしないぞ」
「無駄じゃなければ、殺す気ですか?」
「殺す気はないが、事故はつきものだ」
「わぁぁぁ、やっぱり怒っています」
「まだ、雲の上は飛んでいないだろう」
「今、月っていいましたよね」
「月にも行きたいと言ってくれるのか」
「言っていません」
うん、本当に怒ってない。
姫達に飛び魚を見せるなと命令しなかった俺が悪いのだ。
俺のミスだ!
だから、桜達を責めるつもりはない。
それより桜をいつか世界初の飛行士にするのは俺の夢なのだ。
「若様、許して下さい」
俺は全然気づいていなかった。
仕事の忙しさとストレスでハイテンションになり、いつも以上に頭が冴えて、次々と浮かぶ発想を設計図に書いていた。
だが、研究所に送った設計図を誰も理解できない。
いつも以上にぶっとんだ発想に付いて来られるものはおらず、完全なお蔵入りだ。
書いた俺も翌朝には忘れてしまっていた。
俺は連日のように製図を続けた。
まるで、乾電池が切れる前に、ふたたび力を取り戻したようであった。
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