閑話.多事多難(1)。
清洲騒動は全国を走った。
交易都市である熱田は多くの商人が集まる。
多くの
今で言う報道マン兼ニュースキャスターだ。
北条から三好が派遣した間者らも徘徊していた。
【美濃】
そして、驚くような話を持ち帰った。
「高政、聞いたか?」
「父上、今こそ織田を攻めるべきです」
高政の強気に利政もびっくりだ!
「今の話を聞いていたのか?」
「若君、火を撒く大鳥に、火を飛ばす武器ですぞ!」
「織田は今、疲弊しておる。この機を逃して勝機はない」
「それは間違いないが、失敗すれば斎藤家は滅ぶぞ。空から攻めてくるのだ。稲葉山城など
「そのような戯言は信じません。人は空など飛べません」
「若君、信じられないのは当然でございます。この目で見た某も信じられません。ですが、事実でございます」
「ええい、俺を誑かすなど許さん」
刀を抜いて、春日丹後と堀田道空を威嚇する高政を見て利政は溜息を付いた。
織田家が疲弊している。
その高政の意見は正鵠を射ている。
利政も承知していた。
そうでなければ、魯坊丸が脅し文句の書状を送ってくる訳がない。
裏切れば、斎藤家を滅ぼすと言っている。
清洲辺りまでは取れても那古野、熱田が取れるだろうか?
利政にはその姿が想像もできない。
高政のように楽観する武将らが清州辺りまで取って満足してしまう危険性が怖かった。
自分達が強者と勘違いしている。
織田家を滅ぼさねば、斎藤家が滅びると言う自覚がない。
高政と共に稲葉山城が燃える姿が利政の目に浮かんでいた。
【六角】
長年、対立していた
義賢は利政と和睦し、北近江の浅井を挟み打ちにするつもりでいた。
仲介役として同盟国の織田家に近づくのは有益と考えた。
「丁度良い金蔓と思っておったが、虎の子を猫と間違っていたようだな!」
六角の家老がずらりと並ぶ中に
頼長は熱田で見た限りの事を話すと家老らは重苦しい表情で唸ったのだ。
それを嘘と思わない。
現に魯坊丸は京の退却戦にて織田衆700人で二万人の三好勢を退けた。
ならば、尾張で三万人の今川勢を全滅に追い込んだのも事実だろう。
これが偶然でないことは明らかだった。
「そう言えば、望月殿は尾張でも領地を持つことになったそうだな?」
「喜ばしいことだな!」
「望月家も儲かっているしな!」
「お戯れを! 娘は三河との国境に1,000石の領地を賜っただけでございます」
「目出度いではないか? 益々、縁が深まったと言うものだ」
「過分な評価を頂いて、嬉しく存じます」
「あの雪斎を討ったのだ。過分もあるまい」
「(三雲)
「弟に追い抜かれぬように気を付けます」
義賢は頭を掻いた。
望月家と三雲家ばかりが魯坊丸に近くなるのも問題であった。
「(進藤)
「よろしいので?」
「構わん。許す」
「ありがとうございます」
進藤家は京の出口を守っているので、鎌倉街道を守る望月家と同様に商人関係で熱田衆、津島衆と縁が深い。
また、
「定武、そなたに頃合いの娘がおったな!」
「それがどうか致しましたか?」
「我が養女として魯坊丸に嫁がせたい。構わぬか?」
「ありがたき幸せ!」
「うむ、(田中)頼長よ。頼みがある」
田中頼長に密命を与えた。
熱田商人にその話を広げて、様子を伺うように命じられた。
義賢に丁度頃合いの良い娘が居れば、それが一番よかったのだが、能登の
定武に頃合いの娘が居た事を思い出して、そう言ったのだ。
義賢の養女となれば、格式にも問題がない。
「(蒲生)
「承知仕った!」
「魯坊丸を召喚するゆえ、
「名軍師の腕前をしかと確かめさせて頂きます」
「任せたぞ!」
定秀の息子である賢秀は、
義理の父である賢豊が魯坊丸の接待に参加するのは自然な流れだ。
浅井攻めは次郎左衛門尉(目賀田忠朝)の目賀田城に集結する。
当然、次郎左衛門尉が段取りに関わる。
これで六宿老がすべて魯坊丸と縁を持つことになる。
六宿老への気づかいは只事ではない。
義賢は父の定頼のような全幅の信頼を得ているとは思っていないからだ。
「父上、某も出陣しとうございます」
「四朗、お主にはまだ早い」
「然れど、魯坊丸は私より一つ年下です」
「あれと比べるな! あれは父と同じ化け物だ」
「殿、弱気はいけません」
「弱気ではない。分を弁えているだけだ。あの化け物にこの六角を好きにさせん。そう心得よ」
魯坊丸への警戒感はマックスに達し、破れた三好家など頭の片隅に据え置かれてしまっていた。
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