閑話.信勝ちゃんの初陣(2)
早朝と言ってもまだ真っ暗な朝、岩崎城の各所で篝火が焚かれ、折戸城へ出陣する準備が進められた。
岩崎城は今川兵に占領されているので集結場所も城外の広場となる。
集まって来た武将達のみ登城して大広間に集まって来ていた。
そこに呼び出しがあった。
「ええい、どこまでも我が物顔で命令しよって」
「御爺様、今は忍んで下さい」
「それぐらいは判っておる。だが、氏勝。考えておいた方がよいぞ! 今川は信用できん」
「心しておきます」
そう怒鳴るのは岩崎城初代城主の (丹羽)
氏清は松平清康(家康の祖父)に従ったが、天文四年 (1535年)の『守山崩れ』に乗じて岩崎を占拠し、拠点を本郷から岩崎に移した。
折戸ではじまった丹羽氏は藤島、浅田、赤池と勢力を伸ばし、遂にこの東尾張一帯を支配する小領主まで成長させた。
氏勝の父、
ところが大きくなるのが良いとは限らない。
分家の藤島城の
病の信秀に代わって信長は藤島の氏秀に助力し、『横山の戦い』が起こる。
信長は部隊を二つに割って、一方を藤島に、もう一方を岩崎に送った。
藤島に送った援軍が岩崎勢を粉砕したが、岩崎城を強襲した信長は氏清の策略である唐の鉄砲の音に兵が動揺し、撤退すると言う失態を犯した。
信長の撤退で藤島の織田勢も兵を引いた為に藤島の氏秀は陥落した。
こうして岩崎の丹羽氏は織田信勝と今川義元の双方から臣従するように懐柔されるようになったのだ。
「信秀が亡くなった折りに、お市殿を貰って臣従しておけばよかったものを」
「父上も同盟に賛同してくれたではありませんか」
「あのときは織田がここまで復興するとは思わなかったのだ」
信秀が亡くなって一年、織田弾正忠家は帝や将軍から上洛を求められるほど力を取り戻した。
今でも一門で分裂し、家老であった知多の山口氏は鳴海城で抵抗している。
大きく情勢が変わったとは思えないのだが、弾正忠家は中島郡を掌握し、清洲城は陥落寸前になっている。
「こんなことならば、欲を出さずに臣従しておけばよかった」
「今更、言うでない。今川がここまで横暴に出てくるとは予想もしなかったのだ」
「ぴぃ、ぴぃと吠えるな」
「しかし、御爺様」
「丹羽が助けを求めたと思われたので強気に出ているだけだ。ここで強さを見せれば、今川の態度も変わる。氏識、おまえも終わったことをぐぢぐぢと掘り返すな!」
「判っております。父上」
「ならば、よし」
隠居した先々代の氏清は還暦を越えても元気な老人であった。
今川の城代である
何が気にいったかと言えば、安普請で造られた
氏勝らが部屋に入ると宗信が上座に腰かけず、対等に横に座らされた。
そして、宗信が頭を下げた。
「入城して以来、数々の無礼をお許し頂きたい。すべては織田の間者の目を欺く為でございました」
「それはどう言う意味でございますか?」
「今川が援軍を送ると言えば、その日の内に織田に知れてしまう。横暴に振る舞い、本心を隠すことで織田を欺いておりました」
「敵を欺くのには、まず味方からという奴か!」
「ご明察の通りでございます。本日、遠江・三河から6,000人の援軍が到着致します」
おぉぉぉぉ、援軍を期待できないと思っていた氏勝らは感動した。
「遠江・三河の兵は昨日に内に沓掛城に入り、大将
「足止めでございますか?」
「そうだ、我らの目的は末森勢の足止めが目的となる」
同時に知多の鳴海方面から1万5,000人で攻め掛かると説明された。
清洲、岩倉を合わせると、延べ4万人に近い動員数になると言う。
心の中で先々代の氏清は毒づいていた。
我らに清洲は関係ないであろう。
援軍二万人は助かるが、物腰が柔らかくなっただけで清洲に援軍を送れと命令している。
やはり、今川は信用できないと確信する。
宗信の説明は続く。
知多の山口親子殿は鳴海城から中根、笠寺から山崎を攻めさせる。
すべては鳴海城に集結する今川兵の目隠しであり、干潮になると鳴海から笠寺に渡河し、そのまま熱田側に渡河する。
「それほど巧くことが運びますか?」
「笠寺の兵には無様に負けて後退し、敵を誘って渡河して来た本隊と挟撃して、逃げる敵を追って山崎に雪崩れ込む予定でございます。向こうの指揮は名軍師である雪斎様が直に取られます」
「雪斎様が来られておるのか!」
「雪斎様は熱田を狙い、一部を背後の島田城に回すとおっしゃっておられます。夕方までに末森勢は背後を襲われて浮き足立つことでしょう。そこで一気に畳み掛けるのです。平針城、高針城、下社城、上社城などを狙って行きます。なお、奪った城はすべて丹羽様に与えると義元公より文を授かっております」
準備のよいことだ!
氏清はまだ毒づいているが、氏勝はその約定を見て浮かれている。
信用できないが、油断もできないと改めて思った。
「また、この勝利の後、今川一門より妻を与え、一門並に遇するとおっしゃっておられました」
「ありがたいお言葉、励みとさせて頂きます」
「期待しておりますぞ」
「丹羽の働きを存分にお眺め下さい」
氏勝はやる気を見せた。
援軍と取り放題の話を武将に伝えるのは折戸に着いてからだ!
丹羽の兵の中に織田の間者がいないとは限らない。
清洲への援軍の文を書いて清洲と守山に使者を送り、段取りは整った。
沓掛城の(朝比奈)泰能は日が完全に昇った所で出陣した。
笠寺から熱田への攻撃時間を合わす為だ!
沓掛城から折戸城まで北に 2里(8km、徒歩で1時間40分)だ。
日が完全に昇った辰の刻 (午前7時)に出発し、巳の刻 (午前9時)に到着した。
明け6つと呼ばれる卯の刻 (午前6時)から待っていた信勝にとって、とても長く感じられる時間であったに違いない。
◇◇◇
「今、何と申した」
折戸に送った物見が戻って来た。
物見の口から言われた敵の数に信勝が驚く。
「その数、約1万に達します」
「どこの兵だ?」
「信勝様、丹羽に一万の兵を用意できると思いますか?」
「無理だ」
「その通りです。無理をして5,000人、いや、6,000人は集めることができますが、一万は無理でしょう」
「だから、どこだと聞いている?」
「丹羽でなければ、今川しかございません」
「今川はそれ所ではないと聞いているぞ」
「つまり、我々は今川に一杯食わされたのでございます」
家老の
だが、信勝は信じたくなかった。
華々しい初陣の勝利が消え、惨めな敗北が迫っている。
初陣を逃げ帰ってと言われるのは嫌だった。
順盛が少し伸びてきた顎髭を摩ってにやにやとし、信勝がどう答えるのかを待っていた。
信勝は視線を逸らして俯いた。
「困りました。このままでは我らの負けは決まりました」
他の諸将を見回しても顔を背けるばかりで、当事者の丹羽十郎右衛門と丹羽伝左衛門は顔を青ざめてさせている。
にやにや、順盛だけが嬉しそうな笑みを零す。
「何がそんなに面白い?」
「信勝様がどうされるのかと思っております。 戦われるのか、引くのか、逃げられるのか? どうされますか?」
「何が面白いのかと聞いているのだ!」
「御当主としての度量が見られます」
順盛は戦う気なのか?
ここで末森に撤退すると言えば、見限ると宣言されたようなものだ。
信勝は動揺する。
「順盛、戦って勝てるのか?」
「はて? 誰が戦うなどと申しました。某は予定通りに関に戻って待ち受けますぞ」
そうか!
皆の顔が明るくなる。
特に丹羽十郎右衛門と丹羽伝左衛門は関所の厭らしさをよく知っていた。
「城の残っている者に伝令だ! 城は放棄する。僅かな者を残して織田領に逃げよ。 残る者も敵が攻めてくれば、降伏することを許す」
丹羽の二人がすぐに伝令を飛ばした。
ここに来て、はじめから城内の主だった者や村人を逃がしていたのが功を奏したと思う。
皆、立ち上がって撤退の準備をしようとした。
「待たれよ。まだ、信勝様の下知が出ておらん」
その通りだ。
皆が一斉に信勝を見る。
ごくり、無言の圧力に信勝が冷や汗を流す。
私に言えと?
順盛が無言で頷く。
「関まで後退する」
おぉ、皆が陣を出ていった。
「では、勝ちに行きましょう」
信勝がキョトンとする。
順盛がまたにやにやと笑い出した。
「信勝様、ドンと構えていなさい。まだ、敵は来ておりません。ゆるりと最後から戻りましょう」
「そんなものか?」
「そんなものです」
信勝は今すぐにでも退きたかったが、順盛に言われ最後尾で戻ってゆく。
◇◇◇
信勝が戦場に設定したのは那古野から三河まで続く飯田街道だ。
熱田から伸びる平針街道は平針を通って、飯田街道に合流する。
合流した先に赤池があり、その先が浅田、そして、丹羽勢が集結している折戸になる。
魯坊丸が造った長壁は平針城と赤池城の中間であり、街道と交差する所に関所を設けている。
関所まで後退すると浅田城と赤池城を放棄することになる。
城と言うと屈強に思えるが、実際は丘の上に立派な木板を張っている程度の造りであり、砦よりちょっとマシな程度だ。
織田の関所の方が石垣で覆われていて強固なのだ。
奥方や村人を先に逃がしていたので、赤池・浅田の丹羽の二人は文句も言わずに逃げてくれた。
信勝が撤退していると三河勢が一斉に追い駆けてくる。
赤池城が見える辺りで一度追い付かれそうになった。
「荷を捨てよ。槍も刀も投げ捨てよ。とにかく走れ」
ここまで運んで来た荷駄隊に荷を捨てさせると、敵はそれを漁って足を止める。
徴集された農兵にとって戦は稼ぎ所だ。
目の前に米や餅、銭が落ちていれば、拾いたくなる。
「何をしている。敵を追え」
一度は足を止めた三河勢が再び進軍する。
三河勢の勢いは凄まじい!
突進力のみならば、東海一かもしれない。
しかし、一度足を止めた三河勢が加藤の隊に追い付くことができなかった。
「順盛、何をやってきた?」
「ワザと荷を持ち帰ろうとして、途中で放棄したのです」
「はじめから放棄した方がよいのではないか?」
「いいえ、大事そうに持ち帰ろうとするから、向こうも荷駄に気を取られるのです」
「そんなものか?」
「そんなものです」
順盛は智者と言うほど優れていないが、信秀の代からずっと戦ってきた戦巧者だ。
岩室家の縁を持って面倒を見て来たので、どうも考え方まで忍びに近くなったようだった。
もちろん、関所の仕掛けも熟知していた。
関所を通過すると、関所から少し下がった物見台に信勝を案内した。
「信勝様。どうぞ、物見台に上がってご覧下さい」
関所の向こうは外堀のような幅が一町 (100m)ほどの池が広がり、関所から向こう岸まで連絡橋が掛かっている。
その連絡橋は向こうに少し丘っぽい所 (五町、500m)まで陸橋のように連絡路が繋がっていた。
荷馬車が交差できるくらい道幅も広く、余程の大雨が降らない限り通行ができるように心配りをされていると順盛が説明する。
どうもにやにやと含み笑いをするので信勝は順盛を好きになれない。
橋が広い為か!
三河勢が連絡橋を渡って一斉に押し寄せてくる。
関所の門は閉められ、関所の両壁から矢を射って反撃する。
門は叩いたくらいで壊れない頑丈なものだ。
門も長壁の一部だ!
関所の近くは特に壁が高くなっている。
少し離れると壁が低くなっているので迂回する馬鹿もいる。
罠エリアの中を通り抜けた先に敵が待っているのだ!
何人、通り抜けることができるのだろうか?
「これでいつまで持つのだ?」
「一度目の戦は確実に防げます」
「今にも落とされそうな気がするのだが?」
押し寄せる三河勢に信勝が不安になってきた。
梯子もないので登れないと思っていると、池に飛び込んで来た三河勢が仲間を梯子代わりに壁をよじ登ろうとする。
根性だ!
よじ登ってくる三河勢を斧で頭から叩いて、兵はモグラ叩きに徹する。
しかし、次から次へと上がってくるのでキリがない。
そうして攻防を繰り返している間に丹羽勢が浅田・赤池の城攻めに備えて持ってきた
余りの勢いに今川の大将である宗信が頭を抱えた。
浅田・赤池の二城は労せずして手に入った。
午後から関所を攻めるつもりが、勢いで今にも落としそうになっている。
余りの勢いで末森まで侵入すると、清州の信長が戦を放棄して那古野に戻って来てしまう。
それでは本末転倒になってしまう。
「宗信様、どう致しましょうか?」
「とりあえず、関を落とすまで放置しておけ」
関所を落とした所で待機だ。
そう宗信は決めた。
わずか半刻 (1時間)で関所まで落とせそうになっているのが誤算であった。
まだ、熱田に渡る海面が高く、渡河できない。
関所を落とした後、一刻 (2時間)ほど休憩を与えれば、丁度いい頃合いになるだろう。
一部を島田城に回して、熱田の背後から強襲を掛けて挟撃するのも面白い。
破城槌が門を壊した。
「第一門を破壊されました」
関の守備兵が叫ぶ。
「内扉を開き、樽を壊せ」
関所の門ははじめから二重に作られている。
普段は壁のように見えるが、イザとなると第二門に変わる。
これで時間が稼げる。
関所は門のみ木組みで造られており、それ以外は石垣で造られている。
その意味を考えた者は誰もいない。
信勝が立っている物見台の下には石垣の倉庫があり、その中に酒樽が大量に置かれてある。
その酒樽の底を斧で潰してゆく。
樽の中身が床に零れ、床の排水路は連絡橋の側溝を流れてゆく。
ぷ~んと強烈な酒の匂いが物見台にいる信勝の所まで舞い上がってくる。
「何だ? この匂いは?」
「酒でございます」
「順盛、嘘を申すな! 匂うだけで酔いそうになる酒など聞いたことがない」
「熱田で造られております。神の酒でございます」
「神の酒だと?」
すべて樽底を壊すと、急いで兵が倉庫から外に飛び出してくる。
倉庫の扉を急いで閉められる。
凄い勢いで側溝を流れ、連絡橋から連絡路を流れてゆく。
敵も酒の匂いに気づいたようだが、何のことか判らない様子で攻め掛かってくる。
第二門がすぐに破壊できると思っているのか?
壊れた瞬間に襲い掛かるつもりなのだろう。
三河勢と丹羽勢が前掛かりになって、破城槌の後ろにごった返している。
勢い余って盾を持ったままで池に落ちる馬鹿もいた。
酒が側溝から溢れてぽたぽたと滴り落ちていた。
ごん、ごん、ごん、破城槌が門に当たり激しい音を上げた。
強烈な酒の匂いにおかしいと思う者は現れないのだろうか?
「二度は使えませんが、一度は確実に引っ掛かります」
そう言っていた魯坊丸の言葉が順盛の脳裏に蘇ってくる。
この連絡橋の両側溝が板と板の間に溝が掘られており、横ですべて繋がっている。
気化したアルコールは側溝から匂うのではなく、足元から舞い上がっている。
これは敵の兵は網の上に乗せられているのと同じだ。
連絡路は300間 (545m)も続いている。
もう向こうまで届いただろうか?
三河勢と丹羽勢の前衛2,000人が押し寄せていた。
中堅2,000人は連絡路を跨いで布陣している。
後衛の本陣の外れて少し高くなっている場所だ。
1,000人ほどが布陣している。
最初に聞いたのが一万人であり、残る5,000人がどこに行ったのかなど、信勝らに判るハズもない。
門がそろそろ危ない。
側溝に流れ出していた暗渠に壁を降ろして、外と内を遮蔽する。
今にも門が壊そうになってきたので、さらに敵の兵が連絡橋に集まって来た。
「信勝様、よ~くご覧になって下さい。丹羽と今川の最後でございます」
順盛が手を振ると、少し離れた見張り台から火矢が一本だけ飛んだ。
ずごぉ、まるで爆発したような閃光を放つと目の前に炎の柱が駆けてゆく。
何が起こったのか?
信勝にはまったく判らない。
だが、はっきり判るのは目の前に居た敵兵が炎に巻き込まれていることだけだ。
正に地獄絵図であった。
「これは戦ではない」
「そうでございますな。もう戦ではございません」
「兵が、燃える」
信勝の顔が段々と青ざめてゆく。
人が死ぬは当然だが、一瞬で何千人の命を奪われてゆくのだ。
初陣にしては余りにも過激だった!
よくこんな策を考える馬鹿がいるものだと順盛は思う。
一方的だ!
聞いていたので判っていたが見るには絶えない。
連絡橋の敵兵は助かろうとして池に飛び込む。
だが、気が動転しているのか?
鎧の重さで溺死する者が相次いだ。
引き上げた仲間が何かを叫んでいる。
余りの必死さに心が痛む。
がちがちがち、信勝の歯が震えて当たっている。
「順盛、これが戦なのか?」
「これが戦でございます。初陣の大勝利、おめでとうございます」
「嬉しくないぞ」
「でしょうな」
可哀想に。
足が付く池で溺死するとは情けない。
武士の恥と末代まで笑われるだろう。
体の半分が出ている浅瀬でも溺れて死ぬ者がいる。
火の恐怖がそれを為すのだ。
それでも池に飛び込んで助かったものは多い。
連絡路の兵はもっと悲惨だ。
飛び込む池がないので地面に転がって火を消そうする。
だが、周りの兵も火が付いているので中々消せない。
火が燃え上がったままで立ち上がって歩く姿は化け物のようだ。
「ここまでせねば、ならんのか?」
「手を抜けば、死ぬのは我らでございます」
「だが、これは惨い」
「これが戦でございます」
アルコールの火は燃えやすいがすぐに消える。
火傷で死ぬより、呼吸困難で亡くなる場合が多い。
火が衣服を燃やすより、衣服の上で燃え上がっている感じである。
息を止めて、身を屈めて居れば助かったかもしれない。
だが、思わず息を吸う。
すると、喉が焼かれて呼吸困難になる。
火傷の死傷者より、ショック死と呼吸困難で死亡した者の方が多いのではないだろうか?
炎が少しずつ弱くなると、そこに横たわる人が無数に現れる。
めらめらと炎が残るのは木の部分だけになった。
目の前に千何百人という敵が炎に包まれて死んでいった。
火傷を負った死傷者は数千人に達しただろう。
これは鬼の所業であった。
信勝は動かなくなった横たわる死体の数に驚愕する。
安全な関の壁から敵を見ている織田衆の兵も身が竦む。
余りの恐ろしさに漏らす者も続出した。
門を開けると、門にへばり付いていた兵が降伏する。
門から見える光景に味方も驚愕し、
まるで通夜のような大勝利であった。
あっ、何かに気づいて信勝が顔を赤めて目を逸らす。
「どうかしましたか?」
「な、何でもない」
流石に地獄絵図を見るのも嫌になったかと思った順盛だが、気が付くと信勝の足元に水たまりができていた。
これはいけないと思って見ないことにした。
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