第21話 男色家、那古野弥五郎。
その横にいる男は守護、
弥次右衛門は小柄の男だったが頭の回転が早く、守護、
弥次右衛門は守護代信友に仕えている(那古野)弥五郎に目を付けた。
(那古野)弥五郎は背が少し高く均整の取れた武将であり、うら若く、線の細い、やや細腕の華やぐ若衆たちを側用人にはべらせていた。
そこに弥次右衛門は近づいた。
(那古野)弥五郎は守護様のお気に入り弥次右衛門が言い寄ってきたことに
弥次右衛門は(那古野)弥五郎に頼んで、伊勢の方から下女を10人ほど
(那古野)弥五郎が用意した下女ゆえに疑われこともなく、信長の忍び(本当は
その信長から(那古野)弥五郎と連絡を取って欲しいという申し出に応じて、守山に買い出しを装って小さな納屋の中で会合を用意した。
納屋の扉が開き、信長と側用人が一緒に入って来た。
信長らが頭巾を外すと、(那古野)弥五郎は顔を赤らめて嬉しそうに微笑んでいた。
「
「信長の側用人、
「どえりゃー、かわいいな」
「気持ちは判るが控えてくれ」
「もちろんだ。信長様も色白でキリッと引き締まった細顔なのがいいわ。御仕えしてみたい」
信長は頭巾に続き、身を隠す着物を取ると二人の前に腰をかけた。
弥次右衛門と(那古野)弥五郎は頭を下げた。
「面を上げよ」
「こちらが我らに協力して頂いております。
「聞いておる。大儀である」
「いいえ、信長様の為ならば、この命も惜しくありません。何なりとお申し付け下さい」
「面倒なことを頼もうと思っておる」
その前に清州の状況を詳しく教えて貰う。
清州の周辺は、又代(小守護代)の
那古野氏は守護斯波家が尾張に入ってきたときに取り立てられて、清州周辺の土地を頂いた。
結果として、清州に近すぎて家老の清州那古野家は織田に寝返り辛かった。
そこに弥次右衛門を通じて、織田家と
去年の清州は年貢らしい年貢も上げられず、最近は守山の商人以外は取引を断られる状態が続き、物価は上がり、銭は底をつき、近いうちに兵糧の底がつくのも間違いないらしい。
「ならば、武衛様(守護
「はい、多少は不便をされております。しかし、信長様が月に何度か、山海の珍味と共に必要な物資を届けてくださっておりますから、ひとまずは安心下され」
「ふん、八割方は
「今はまだ良い。夏までに和議が整わなければ、地獄になるぞ」
「食糧が底をつくことか?」
「おお、そうだ」
「それはない。おそらく信光殿、信安殿に頼んで食糧を回して貰うことになるだろう」
「なるほど、だが、長くは持たんぞ」
「そうだな」
二人は清州の食糧状況が悪くなっているのを懸念していた。
しかし、信長は怖い顔で爪を噛んでいた。
彼奴め、武衛様に食糧を運び込んでいるなど聞いておらんぞ。
儂に話す気がないのか?
それとも話すだけ無駄と思っているのか?
後で問い詰めてやる。
などと、信長は考えていたが
ただ、
あらゆる仕事を数多の人に任せ切った。
それで4年前からはじめた『信長好感度アップ大作戦』は途切れることなく、続けられていた。
熱田の年間予算に組み込まれた。
銭を貰えば、商売だ。
熱田商人の手で六曜の大安、祝い日、大漁の日に熱田から清州に荷が運ばれていた。
この長きに渡る貢献は
また、この熱田から送られてくる献上品を
もしもこれがなければ、信友がもっと早い段階で暴発していたかもしれない。
命じた本人が忘れているので信長が知る訳もない。
怒る信長に違和感を覚えながら、弥次右衛門は献上品を横領されたことに怒っていると勝手に考え、信長の忠誠心に心を打たれた。
「信長様、このまま信友を放置できません」
「その通りだ」
「と言いますと、何か策がございますか?」
「それを話したい」
「何なりとお聞き下さい」
「まずは、武衛様を連れ出すことは可能か?」
「残念ながら難しいと思われます」
守護
清州では信長が攻めないのは守護
昼夜交代で見張りが立ち、蟻も這い出る隙もないらしい。
やはり、力ずくで助けるしかないか。
「
「
「うむ、
「十六七 (才の)若年が三百ばかりです」
思ったより多い、これなら行けるかもしれない。
決行の日は
信長・信勝の大軍で清州を攻めるとそう思わせて、周辺の兵を清州に入れさせる。
当然、那古野家の300人も清州内に入る。
正門に清州勢を集め、不意を突いて裏門を襲い、その裏門を那古野勢が背後から襲って貰い、門を突破して武衛屋敷を包囲し、守護
守護
出て来なければ、包囲戦で兵糧攻めだ。
いずれも、守護
「どうだ、できるか?」
「問題ございません。裏門を破り城内へ、清州城の一の丸に入れるのでなければ何とかなると思います」
「そうか、頼むぞ」
「お任せ下さい」
ふふふ、完璧な策だ。
要は門を開く者を見つければいいのだ。
「ところで、そのお側用人は信長様の、その、もしかして」
「ふふふ、その通りだ。藤八は儂の物だ。悪いが褒美にやる訳はいかん」
「やはり、そうでございました」
信長は嫡男であれば、変な女に掛かって病気を貰う訳にいかない。
かと言って、
そこで小柄で華奢であった藤八がお相手として選ばれ、信長のはじめての相手となった。
藤八は信長の家臣であり、信長の特別であった。
抱き寄せて、仲の良い所を見せ付けた。
ちょっと
「見た目は可愛い奴だが、槍も天下一品の腕前だ。のぉ、藤八」
「信長様の為に尽くさせて頂きます」
「藤八はやれんが、家臣同士が仲良くなるのは咎めはせぬぞ」
「まことですか?」
「この信長に二言はない」
「この
「期待しておるぞ」
ははは、信長は上機嫌に笑った。
藤八を側に置いて正解だな!
見たか、
こうやって人心を掴むのだ。
何も守護代信友をぎりぎりまで追い詰め、信光を頼る日まで待つ必要もない。
策略とはこうやるのよ。
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