第20話 斎藤利政(道三)、マジでリアルな義理兄でした。
長良川を渡って井口から稲葉山城を登って正式な謁見を行い。
問題もなく、兄上(信長)と(斎藤)
昨日の内に俺に付いてきた側人と斎藤家の御用人がどこでやるか、酒を酌み交わしながらやり合っていた。
熱田まで足を運んで貰う案から稲葉山城に兄上(信長)が拝謁する案まで、義理の父に頭を下げるのもありだろう。だが、稲葉山城まで来るのは体面が悪い、結局、場所は聖徳寺、先に頭を下げるのは兄上(信長)と決まった。
今日は正式な文章に互いの名を書く、公式文書に俺の名がはじめて残る。
翌日、岐阜神社に
神社の名前の由来は
ごめんなさい。
信長の師匠である
太平と学問なんて言ってしまったから、無料で読み書きそろばんを教える神学館も併設する。
残念ながら運営費を
そりゃ、熱田の神学館は独立採算制です。
近くの子供は良いとして、遠くの子供は寝泊まりする場所まで用意しないといけない。
銭がいる。
そこで美濃和紙造りを奨励し、美濃焼を転売、ウナギの
朝は神学館生、昼から身銭稼ぎだ。
いずれは無償で優秀な人材が育ってくると思うと、
「さて、拝んだことだし、狩りに行くか」
「罰当たりな参拝ですね」
「狩った獲物は村と神学館生に振る舞うのであろう。沢山狩ってやろうぞ」
「鉄砲を撃ちたいだけでしょう」
「がははは、そうとも言う」
美濃に鉄砲がない訳ではない。
中世中国式の銃は倉の中に眠っているし、最新の南蛮式の種子島も先進的な領主なら手に入れている。
美濃の国内をかき集めれば、20丁くらいはあるのではないか?
だが、火薬が高い。
これで狩りをする者は裕福か、よほどの酔狂な者だ。
俺が織田から持ってきた土産の中に国友産が九丁、尾張産が一丁の計十丁の鉄砲があった。
貴重な火薬も大量に持ち込んだ。
だから、
ズドォ~~ン!
凄まじい音を上げると、一町 (約100m)先の鹿が倒れた。
「お見事、慶次」
「これくらい、朝飯前よ」
「また、織田の者に手柄を取られたぞ」
「申し訳ございません」
火縄の臭いがあるので風下から近づいて獲物を撃つ。
一町 (約100m)まで獲物に気づかれずに近づく慶次の技が凄く、近づくと間を置かずに撃っていた。
練習も儘ならない美濃勢は狙いを定めている間に逃げられてしまう。
「織田には、これほどの手練れが多くいるのか?」
「多くはいません。しかし、あと2、3人はおります」
「中々の脅威だな」
「
「ふふふ、そうかもしれんな」
凄い打ち手は1分間に9本も打てるし、飛距離も四町 (約400m)を軽々と当てる。
慶次は弓もかなり上手だったハズで、おそらく鉄砲の名手は弓の名手だ。
二頭狩った所でハンディを課し、慶次が後から撃つと決めたが同じだった。
「まったく、お主らの腕の下手さに呆れたわ」
「申し訳ございません」
「貸せ」
最後の鹿一頭は
相手が
「その首、惜しくないようだな」
「この程度で怒る奴が美濃を取れる訳もない。そう思いませんか?」
「がははは、ぬかしよるな」
ズドォ~~ン、
何十発か撃つと癖が判ってきたようだ。
最後の一頭は割と近くまで
国主の面目は守ったが、本人が納得していないので河原で練習を続けている。
慶次も教えていたが、いつの間にかいなくなった。
河原で何をしているかと言えば、鹿四頭、猪二頭の処理だ。
血抜きをした後に内臓を取り出して、川に付けて体温を一気に冷やす。
これをしないと、後で肉が不味くなる。
一晩、川に漬けておく方がいいのだが、今回は日が暮れる前に引き上げて村に持って帰る。
焼き肉の食べ放題だ。
余った肉は燻製小屋に入れるから無駄はない。
武士以外で肉を食べる者がいるのかって?
それも大丈夫だ。
血抜き、内臓捨て、川で清めが、邪気を払う一連の神事と教え、神主がお祓いをすると肉を食べても罰が当たらないという習慣を広めた。
寺の教えを信じるのも、神社の教えを信じるのも、村人の自由だ。
「慶次はどこに消えた?」
「慶次様なら、さきほど厠とか言って向こうに歩かれていかれました」
「迎えに行くか」
「儂も付き合おう」
「国主様が護衛を一人も付けずにいいのですか?」
「構わん」
河原を少し下ると村がある。
厠を借りるほど、慶次の神経が細やかな性格をしているとは思えない。
加藤の弟子である
元々、北中根村の次男坊だが、図体がデカいことを加藤に見込まれて鍛えられた。
俺が山歩きをする必須アイテムだ。
「さきほども山に入るなり、いきなり抱きかかえられたのは驚いたぞ」
「俺の足では皆に付いていけません」
「山に入るまで隠すものではないか?」
「7歳の歩幅を舐めないで頂きたい。歩みが半分以下になりますよ」
あるいは体力が尽きた瞬間に睡魔に襲われて眠ってしまう。
それは避けたい。
河原でも石を避けて歩くので歩みが遅い。
無理をして駆け出すことはしない。
体は鍛えているが達人の域に行ける気がしないし、する気もない。
人間万事塞翁が馬、なるようになるさ。
村に近づいてくると林の中に慶次の姿を見つけた。
何をしている?
慶次、声を出そうとする前に気が付いたのか、ふり返って口を真一文字に切った。
口にチャックのポーズだ。
「何々、気になるな」
フットワークの軽いおっさんだ。
俺は自分のペースで歩いてゆく。
到着すると二人が草むらに顔を突っ込んでいた。
尻だけ出しているので間抜けな格好だ。
「何をしているのですか」
「(あまり大きな声を出すな)」
「(小僧もこっちに来い)」
「(しかし、中々ですな)」
「(悪くない)」
「(ですな)」
何を見ている???
俺も草むらに顔を入れた。
◇×※△■〇
なんだ?
若い村の男が女を口説いていた。
「(ちょっと、何を覗いているのですか)」
「(しぃ~~、いい眺めであろう)」
「(よし、あの腰に手をやったぞ)」
「(そのまま、いけ)」
俺は顔を出して、二人を連れ出すように武蔵に命じる。
「こら、邪魔をするな」
「興が判らんか?」
「構わん、そのまま引き摺り出して河原に落とせ」
襟から掴んで摘み出し、そのまま河原に落とすという国主と思えないほど乱暴な取扱いだ。
国主が覗き見をするとは最低の国だ。
「お主も見ただろう」
「見ていません」
「見てないのに覗きと判るものか?」
「とにかく、国主と隣国の名代が一緒に覗きをしていたなど恥ずかしいでしょう」
「この程度で恥ずかしがるとは、まだまだ子供だのぉ」
「だから、尻も青いのが取れんのだ」
「その内に消えます」
「慶次、このことは他言無用だ」
「あぁぁぁぁ、どうだろうか。俺は安い酒を呑むと口が軽くなる」
「この場で俺を脅す気か」
「脅すなど、俺が
「あぁ、いつもされているさ」
「それは気のせいだ。だが、安い酒では」
「後で、こづかいをやる」
「そうか、それなら大丈夫だ。よい酒は俺の口を貝より堅くするぞ」
はぁ、俺は溜息を吐いた。
恥を掻いた。
しかし、
その場で尾張の遊楽の話を聞かせて、
「小僧も一度行ってみるといいぞ」
「嫌ですよ。遊楽のお姉さんらは俺を獲物のように見つめるから怖いんだよ」
「確かに、あれは狙っているな」
「俺が出資者なのに、何故、逃げ回る羽目になるのか?」
「面白いから、こっちの遊楽も顔を出すか?」
「止めて下さい。これ以上、危険な獣を増やすような真似をするつもりはありません」
「一緒に遊楽で生死を共にしたではないか?」
「慶次が俺を誘拐しただけでしょう。もう一回、千代に殺されたいですか?」
「あれは遠慮する」
「千代とは、側仕えの女中のことか?」
「はい、そうです」
「あれを怒らせると怖いですよ」
「聞こえるぞ。千代は地獄耳だ」
「そうだった。遊楽に連れていきません」
「ひゃぁぁぁぁぁはははぁぁぁ、腹が捻じれる」
「笑い過ぎです。死にますよ」
俺から見ると遊楽のお姉さんらは虎か、ライオンで、俺はおいしい獲物を見るように舌舐めずりをして見ているからマジで怖い。
売上の報告に来たときも、女将は横に座って尻を触ってゆく。
「まぁ、本当に若様が行ったら、その日の遊女が浮かれて遊楽は終わり、遊女を抱きに来た男らから恨まれるのは間違いなし。道を歩いていると、背中から刺しにくるかもしれんしな」
「冗談に聞こえないので言わないで下さい」
「ひゃぁぁぁぁぁはははぁぁぁ、判る、判るぞぉ、城の女中らがキャアキャアと騒いでおった」
昨日、人質の姉上に会いに行くと女中たちが騒いでいた。
姉上は木戸(小島)城を頂いたので『木戸の方』と呼ばれていた。
その木戸城に住む予定はないが、最大の礼儀のつもりなのだろう。
領地があれば、そこから上がってくる年貢で生活が保障される。
そして、びっくりすることに稚児(後の左門)がいた。
あのおっさんの子で、俺の甥っ子かよ。
信じたくないぞ。
帰蝶の母である小見の方が天文20年に亡くなっているから判るけどさ。
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