第13話 桃太郎の真実
「………?
こ、ここは…」
桃太郎は目を覚ましました。
「う……ッ。何だこれは…?」
彼の手足は縄で縛られており、身動き一つ出来ません。
「気が付いたようですね。」
見るとそこには一人の『人間』の男が立っていました。
「………?」
桃太郎は訳がわからない。と言ったような表情でポカンとその二人を眺めています。
そこは恐らく地下と思われる暗い牢屋。
桃太郎は縛られた手足をバタバタとさせながら目の前の男に尋ねます。
「あ、あなた達はいったい…。
そ、そうだ!鬼は!?あの鬼の親玉はどこですか!?」
半ば混乱気味になっている桃太郎に、目の前の男は答えました。
「そんなものはいない。」
その答えに、桃太郎は尚も呆けた様子で固まります。
「な、何を言って…
あ、ああ….そうか!
あなた達はあの悪い鬼に捕まっているのですね!?
早く逃げましょう!
あの鬼達が戻ってくる前に……!」
桃太郎は急に一人合点した様に騒ぎ出すと、男はそんな桃太郎を制しました。
「聞きなさい!桃太郎よ!」
すると桃太郎はピタリと声を止め、真ん丸くした目で男を一点に見つめます。
そして何が何だかも分からないまま、続く男の言葉を待ちました。
「桃太郎よ……。
この世に………鬼なんて生物は存在しない。」
「…………………
……………………
……………………
……………………
……………………
……………………
…………………へ。」
桃太郎の腑抜けた顔はあまりにも滑稽で、
その表情からは思考が停止している様子がありありと感じ取られました。
そんな彼を見かねたのか、男はポツリポツリと話出しました。
「俺達がいるこの島の名前は、『鬼ヶ島』。
名前の由来は島の形が鬼に似ているから…
という風に聞いたことがある。
ただそれだけの事さ。
鬼なんて存在はこの島には存在しない。
もちろんこの島以外にもな。」
頭領は桃太郎の反応も省みず、そのまま話を続けました。
「この島の鉱山からは金、銀を大量に採掘することが出来てな…。
この島の島民は昔からそれを生業としてきたんだ。
しかし…
採掘された金銀を狙って、本土の人間がたびたびこの島に攻め寄せてきたこともあった。
十年前もそうだった―――」
男の話によると―――
十年前、この島は本土の人間に攻められ、戦火に包まれたそうな。
何とか金銀財宝は守りきることが出来たものの、頭領は止むを得ず、まだ赤子だった自分の息子をある倉庫の中に隠したのです。
明け方になり―――
攻め寄せてきた人間もやがては諦めて引き上げて行き…
頭領とその仲間である住人達が自分たちの村に戻ると、そこには目も覆いたくなる様な光景が―――
村は非情にも、焼け野原となっていたのです。
しかも、それだけではありません。
頭領は祈る気持ちで、自分の息子を隠した倉庫の所に行きましたが…
なんと倉庫はもぬけの殻となっていたのでした。
彼の息子は、どこにも居ませんでした。
「そうして…俺はてっきり息子は死んだものだと思ったよ。
息子の名前は…太郎と言った。」
男はその名を口にしながら、もう一度桃太郎の方へと目を向けます。
「だが…この島に一人で攻め寄せてきた少年を見たときに…。
俺は何故か一目見て気付いたんだ。
赤子の時に生き別れたはずなのに…何故か今目の前にいる少年がその息子だって分かった。」
彼の口ぶりに、桃太郎はえもしれぬ違和感を感じました。
「それは・・・まさか・・・」
そう。彼の言い方だとその頭領というのは・・・
「そう。俺こそが、この島の頭領だ。
そして太郎…いや、今は桃太郎と名乗っているのか?
お前はあの時本土の人間に奪われた…
俺のたった一人の息子だ。」
実の父との再開。
本来喜ぶべきはずの事実を―――
少年はかくも残酷な形で知ることになったのでした。
外にはこわーい鬼達がたくさんいる。
食べられたくなかったらここで大人しくしてるんだ。良いな―――?
あの日、幼い桃太郎が小屋の中から見た人物こそ…
今目の前にいる頭領だったのでした。
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