第11話 桃太郎の仲間達
頭領のその表情は、だんだんとまるで気味の悪いものでも見るかのようなものとなり・・・
その時でした―――
「うわッ―――⁉」
鬼達に背を向けていた桃太郎は突如そんな声を上げます。
不意に何かに突き飛ばされた桃太郎はすぐに起き上がろうとしますが、彼の身体は無理矢理地面に押し付けられてしまいました。
そう、鬼の一人が体当たりをしたのです。
「皆!こいつを取り押さえるんだ‼」
桃太郎を抑え込みながら、その鬼は周囲に叫びます。
「くそ!やめろ!放せ‼」
桃太郎は自らの油断を悔いながらも必死で抵抗しようとしますが、すぐさま他の鬼達が続いて彼の身体に覆いかぶさります。
一転して窮地に陥った桃太郎。
彼はすぐさま仲間に対して呼びかけました。
「皆!こいつらを引き剥がしてくれ!」
しかしそんな最中にも、取り押さえられた彼のもとへ、頭領が歩み寄ろうとしてきます。
「犬!猿!お前たちはこの親玉をやっつけろ!
キジ!お前は俺に被さっているこいつらを攻撃するんだ!」
桃太郎は顔を地面に押さえつけられながらもこの窮地を乗り切るため、素早く仲間たちに指示を出しました。
しかし、仲間たちが助けに入るよりも、それよりも早く頭領が桃太郎の目前に躍り出たのでした。
「汚いぞ!正々堂々と勝負しろ!」
桃太郎は目の前で自らを見下ろしている頭領に向け、まるで噛みつくような口調で吐き捨てます。
「太郎よ。もうやめるんだ・・・。」
頭領はまるで、子供をなだめるような口調で言いました。
「うるさい!鬼の分際で何を言うか!」
しかし桃太郎はまるで鬼の形相で、頭領を睨み付けます。
「・・・・。」
喚き散らす桃太郎を前に、頭領は何も言葉を発せられずにいました。
「おい!犬、猿、キジ!何をしている!
早くこいつらを殺せ!」
「・・・・。」
それにしても―――
なぜかさっきから、仲間たちが助けに入る気配が一向にありません。
「おい!いったい何をしてるんだ⁉早く僕を助けろ‼」
「太郎・・・?」
頭領が一言、桃太郎に声を掛けます。
「うるさい!お前など俺の仲間たちに掛かればひとたまりもないんだ!」
「さっきからどうしたんだ・・・?
お前はいったい、何を言っているのだ?」
そう言いながら、頭領は桃太郎の顔を覗き込みます。
しかし彼の目は、何か痛々しいものでも見るかのようなもので・・・
桃太郎は激高し、まるで冷静さを欠いた状態の中でしたが・・・
何となく―――自分を見る、彼のその目に既視感を感じたのでした。
そんな違和感もさておいて―――桃太郎は相も変わらず仲間たちのいるその場所へと言葉を発します。
「さっきから黙って見てないで何とかしろ!仲間だろ⁉」
そんな仲間たちに対し、かなりイライラしているのか、桃太郎の口調はどんどんと汚いものとなっていきました。
しかし・・・それでも彼の言う、その仲間たちとやらはいつまで経っても彼を助けようとしません。
「・・・仲間?」
頭領は彼の言葉に首を傾げます。
桃太郎はさらに声を荒げ、まるで罵倒するかのごとく叫びました。
「そこで何を突っ立ってるんだ!
お前ら!キビダンゴをくれてやったのを忘れたのか⁉」
そこにいる仲間たちに向かって叫ぶ桃太郎。
頭領は彼のその視線を頼りに、
先程から彼が呼びかけているその場所に目を辿っていくと―――
そこには―――
・・・何もありませんでした。
「この裏切り者どもがァ‼」
桃太郎は何も存在しない空間に向かって、怒鳴りつけました。
そんな彼に対し、頭領は思わず問いかけていたのでした。
「お前さっきから・・・
・・・誰と話しているんだ?」
頭領のその言葉に―――
桃太郎はふと、彼の顔を見上げました。
この目の前の鬼が向けてくる、怪訝な目。
桃太郎には、この目には見覚えがあったのです。
それは旅の道中に鬼退治を叫ぶ『彼ら』に向けられていた、人々の視線。
『彼ら』?
いいえ。人々が向けていた視線は―――
桃太郎に対してのみでした。
まるでその場に―――
桃太郎しか存在しないみたいに。
かつて桃太郎とその仲間達が初めて出会ったあの場所には。
三つのきびだんごが―――
誰に食べられることもなく、
虚しい姿を晒していました。
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