第8話 桃太郎の鬼退治


桃太郎一行が鬼ヶ島へ入ると、そこには鬼達が待ち受けていました。


身体の大きさ自体は普通の人間と変わりませんが、頭にはツノが生えており、この世のものとは思えない恐ろしい顔をしています。


「出たな鬼ども…。

おじいさんを・・・皆を苦しめたやつらめ…。

容赦はしない!行くぞ!みんな!」


刀を抜き、力強くそう叫ぶと、桃太郎は一人で鬼の群れに駆け出したのです。


「おい!一人で来たぞ!」

「向こうの奴が攻めてきやがった!」

「恐らく財宝目当てだろう!迎え撃て!」


鬼達も激昂して、桃太郎一行を迎え撃たんと身構えました。



今、桃太郎たちと鬼たちの戦いの火ぶたが切られたのでした。


「うおおおお!」


一人の鬼が向かってきました。


その者は棍棒を大きく振りかぶります。


すると、ガラ空きになった胴。


そこをめがけて桃太郎の刀がスラと煌めき―――


二人はすれ違い・・・



すると鬼は走ったその状態のまま勢いよく―――



前のめりに滑り込みました。



鬼の声はおろか、斬った音すらありませんでした。


「―――ッ⁉」


鬼たちは何が起こったのかすら分かりません。


しかし彼らの目に桃太郎の刀が再び見えた時―――



その白刃は赤く染まっていたのでした。




桃太郎は尚も疾走を止めず、鬼の群れを駆け抜けて行きます。



風が吹き抜けていくように―――



武器を構える鬼達の側を、まるで素通りするかのようにすり抜けて・・・



キラッ   キラッ   キラッ



と何かが光に反射すると。


「・・・・?」



鬼の体に浮かび上がったのは赤の線―――



遅れてそこから血飛沫が上がり、鬼達はモノも言わずに斃れていったのでした。


「クソッ!なんてガキだこいつは!」

「バケモノみてえに強えぞ!」


そうしてあっという間に半分もの鬼が討たれてしまったのです。


「鬼ってのも大した事は無いな。こんなに弱いくせに人間達を苦しめてたのか。」


桃太郎は息を切らすどころか、汗一つかいていません。


「小僧!訳のわからん事をほざくな!

鬼はてめえらの方だろう!この侵略者め!」


鍬を構えた鬼が上ずった声を上げますが、その手は小刻みに震えています。


「そっちこそ訳の分からない事を言うな。

正真正銘の鬼に鬼呼ばわりされるとは思わなかったよ。

犬!猿!キジ!そっちはどうだ!?」


桃太郎が仲間達の無事を確かめるために後ろを振り返ってみると・・・


・・・無事でした。


・・・というより


「…おいィッ⁉お前らッ‼

全く戦ってないではないかッ⁉」


彼らは最初の位置から一歩も動いていなかったのでした・・・。


「ワン・・・だって、桃太郎さん強すぎて・・・」

「ウキ・・・私ら別に要らなくないですか・・・?」


出番がないのが寂しいのか、彼らは口を尖らせるようにそう言いました。


「いや、でもさ!僕、『行くぞ!みんな!』って言ったよな⁉

何?あの後僕一人で突っ込んでったの⁉

すごく恥ずかしいのだが・・・‼」



そういえば敵も「おい!一人で来たぞ!」とか言っていたな・・・

恥ずかしいッ―――


その時の鬼の言葉を思い出し、一人赤面していた桃太郎なのでした。


そんな彼にキジは呆れたように言いました。


「ケーン・・・でも桃太郎さん一人で大丈夫でしょ…」


口調こそはそんな感じでしたが、その言葉には桃太郎への信頼が伺えます。


彼はその言葉を受けると、諦めたようにフッと笑い・・・


まだ十人以上もいる鬼達に向き直りました。


「まあ…でも、確かにそうかな。

こいつらがいくら束になって掛かってきても、僕一人で十分だ。」


鬼達はたじろぎながらも桃太郎に向けて怒鳴ります。


「何を一人で訳の分からない事をブツブツ言っている‼」


「訳の分からない事かどうか・・・


今証明してやるよ。」


そう言い放つと、彼は肩に担いでいた刀を構え直しました。


そして、彼が息を一つ吸い込むと―――


その顔から再び表情が消え・・・

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