第7話 桃太郎の決意

もうしばらく歩いて行くと、潮の匂いが辺りに漂い、それは桃太郎一行に目的地が近い事を知らせていました。


目の前に広がるキラキラとした青い地平線に向かって歩いていると、ようやく船の着き場に辿り着き、海岸には小さな船が何隻かありました。


「船だ!」


桃太郎は三匹に声を掛けると、その船着き場まで一気に駆けていきます。



「ごめんください。」


そこには船の持ち主と思われる一人の男が、何をするでもなく佇んでいました。


桃太郎が声を掛けると、彼はぶっきらぼうに顔だけをこちらに向けます。


「すみませんが船を貸して頂けないでしょうか。」


すると男は桃太郎を怪訝な目でジロリと見て、まるで相手にもしないような口調でこう言いました。


「・・・ボウズ一人で漕げるのかい?」


桃太郎は犬、猿、キジの三匹を眺めながら呟きます。


「確かに・・・船を漕ぐことは僕にしかできなさそうだな。」


「だいたいお前みたいな子供がたった一人でどこ行こうってんだい。」


立て続けに尋ねてきた男に対し、猿は少しムッとしてしまいます。


「ウキ!失礼な!桃太郎さんは一人じゃない!ちゃんと私たちもいるのだ!」


「まあ、別に何でもいいが・・・。

ちゃんと船賃は持ってるんだろうな?」


しかし猿の言葉はあっけなく無視され、猿は「無視するなムキー!」とカンカンに怒っています。


「船賃は無いのですが・・・。

このキビダンゴを代わりにするのはどうでしょうか?」



男は桃太郎の差し出したキビダンゴをその手に持ちますが、ますます男のその顔には呆れた様子が浮かび上がってきました。


「ボウズ・・・こんなもので船なんて貸せるわけねえだろ。」


男のその言葉に桃太郎は得意げにこう言います。


「そのキビダンゴは普通のキビダンゴではありません。

何と言っても僕のおじいさんが作ったキビダンゴなのです。」


「いや・・・おじいさんが作ったって言ってもな。

ん?待て・・・。」


相変わらず呆れた態度を見せていた男でしたが、突如、彼は何かに気が付いたようでした。


彼はしきりとそのキビダンゴの匂いを嗅ぎだしたのです。



「ワンワン!私たちも桃太郎さんからこのキビダンゴを頂いたのだ。」

と犬が言いました。


「ウキウキ!私らはキビダンゴを頂いたお礼に桃太郎さんにお供することにしたのだ!」

と猿が言いました。


「ケーンケーン!何を隠そう!そのキビダンゴにはおじいさん特製の薬・・・。」


と、キジは自慢げに胸を張ろうとしますが・・・


「まさかこれは・・・例の薬草が入っているのか?」


男は驚いた様子で桃太郎に問いかけます。


「ケーンケーン!それは私が今言おうとしたのだ!」


先に台詞を言われてしまった事に、キジが顔を真っ赤にして喚きます。


「お前・・・まさかそのおじいさんというのは、この道をずっとまっすぐ歩いた所にある村の薬師の事か?」


「その通りですとも!おじいさん作る薬は村の中でも評判ですから!」


すると男は突然表情を明るくし、桃太郎に頼み込むように言いました。


「ぜひこれを譲ってくれ!

船なら貸してやる。なんなら譲ってやってもいい!」


男の豹変ぶりに桃太郎は少し驚きましたが、すぐさま彼は男の頼みに頷いたのでした。


「やっぱり・・・おじいさんの作るキビダンゴはこんなにすごかったんだ。」


桃太郎は改めて、あのおじいさんの事をとても誇らしく思ったのでした。


「ワンワン!私もおじいさんのキビダンゴはとてもおいしかったと思います。」


「そうだな。僕も食べてみたけどあれはただのキビダンゴじゃなかった。」


犬の言葉に桃太郎がそう言ってニコリと笑います。


「ウキウキ!なにせあの村一番の薬師であるおじいさんが作ったのだから当然です。」


「おじいさんはやっぱり僕にとっての誇りだ!」


猿の言葉に桃太郎がそう言って胸を張りました。


そんなやり取りに、男は桃太郎とその仲間たちを交互に見ていましたが、

彼はもう一度桃太郎からもらったキビダンゴを見てこう呟いたのでした。


「やはり・・・これは本物か。」




船旅の道中―――


「この旅の途中に出会った人々はみんな元気がなかったな・・・。」


桃太郎は船を漕ぎながらそう溢しました。


三匹はそれぞれの場所で長旅の疲れを取っています。

これから始まる鬼達との戦いに向けて・・・



「ワンワン。確かにそうですね。きっと鬼ヶ島の悪い鬼たちに苦しめられてたんだ。」


「ウキウキ。私たちは正義の味方。悪い鬼たちを懲らしめてやりましょう!」


「ケーンケーン。みんなで力を合わせればきっとあの憎き鬼たちにも負けることはありません。」


彼らの言葉を聞いていると、なんだか桃太郎は不思議と恐れる気持ちが消えていくように感じました。

仲間達それぞれの言葉を受けて、桃太郎は舟を漕ぐ手をさらに強めます。



「みんな。僕は決めたぞ。」


桃太郎は皆の思いを胸に秘めて、彼らに告げます。



「僕は何があっても、仲間を信じる。

たとえどんな事があっても、恐れずに戦うんだ。」



今はこの仲間たちが居る―――

今はこの仲間たちを信じる―――

いざ、鬼ヶ島へ―――!

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