第4話 少年の記憶
「どうしたんじゃ桃太郎や。そんな怖い顔をして・・・」
ある日の事、いつものように鎌を携え、薬草を取りに山へ出かけようとするおじいさんの前に、桃太郎が現れました。
今日の桃太郎はいつもと違い、その顔は真剣な表情そのものです。
おじいさんはいつもと様子が違う桃太郎に、怪訝な表情を見せていると・・・
彼は一言、おじいさんにこう言いました。
「おじいさん。僕、思い出したのです。」
「も、桃太郎・・・?」
その言葉におじいさんはハッと息を呑みます。
「以前おじいさんが話していた、鬼達に村を襲われた日の事を。」
おじいさんの鎌を持つ手に力が入ります。
「桃太郎…。まさか、それは、お前が前に言っていた怖い夢のことか…?」
おじいさんの鎌を持つ手が震えています。
「はい。当時僕はまだ幼かったので覚えてなかったのですが…
全部、思い出しました。」
それを聞いたおじいさんは、どこか残念そうな雰囲気を醸し出しました。
「・・・。」
しばしの沈黙の後―――
おじいさんは諦めたような表情を浮かべた後に―――
「そうか…残念じゃ。であれば…」
それがどこか吹っ切れたような表情に変わった時―――
「ええ。であればこそ、私は鬼ヶ島へ行って鬼退治に行きたいのです。」
おじいさんが紡ぎかけた言葉を桃太郎が引き継ぎました。
おじいさんの手の震えは止まっていました。
おじいさんはただ黙って桃太郎を見つめています。
おじいさんがどのような気持ちを抱いているかは、その表情からは分かりません。
でも、桃太郎にはおじいさんの気持ちが分かっているみたいに・・・
「ずっと…僕を危険な目に合わせたくなかったのですよね?
僕がこのことを思い出してしまうと、僕が鬼ヶ島に行ってしまうだろうと思って…
だからあなたは『怖いことは思い出さなくていい』と言ったのですね?」
おじいさんはただ黙って、桃太郎の口から放たれていく言葉を待ち続けています。
決して、聞き逃さないようにと。
「あの日、村が襲われた日、僕は『誰か』に助けてもらいました。その人は、僕を物置小屋に隠して…僕の事を守ってくれました。
僕は隠れたまま、その人の帰りを信じて待っていて・・・
そしたら、その人はやっぱり僕の元に帰ってきてくれたのです。
あの時僕を守ってくれた人っていうのは・・・
おじいさん。
…あなたですよね?」
するとおじいさんは暫く押し黙った後、意を決した様に答えました。
「………。
……ああ。確かにワシじゃ。
あの時、お前は幼子にも関わらず、泣かずに待っていてくれたな。」
彼は分かったのです。
自分を守るため、小屋の中に隠してくれた人物―――
その人こそがおじいさんだったのだと。
「おじいさんは、自分の事を頼りないって言ってましたが…
本当にそんな事はありませんでした。」
そして桃太郎は一つ息を吸い込むと…
「おじいさん。今度は僕がおじいさんを助ける番です。
だから、僕は、鬼退治をしに鬼ヶ島へ行きます。」
こうして、桃太郎は鬼ヶ島へ行くことに決めたのでした。
新規登録で充実の読書を
- マイページ
- 読書の状況から作品を自動で分類して簡単に管理できる
- 小説の未読話数がひと目でわかり前回の続きから読める
- フォローしたユーザーの活動を追える
- 通知
- 小説の更新や作者の新作の情報を受け取れる
- 閲覧履歴
- 以前読んだ小説が一覧で見つけやすい
アカウントをお持ちの方はログイン
ビューワー設定
文字サイズ
背景色
フォント
組み方向
機能をオンにすると、画面の下部をタップする度に自動的にスクロールして読み進められます。
応援すると応援コメントも書けます