エピローグ

「ふああああ。……ねむ」


 気づけばゴロゴロしていたリビングのソファに戻っていた。

 動画を見ながら寝てしまっていたようだ。

 お母さんが帰ってきて、ダラダラしすぎ! と叱られ、お父さんも帰ってきて夕ご飯を食べた。

 それからいつもの日常を送っている。


 ケーズキャッスルの世界に行ったことは夢だったのかな、と思う時がある。

 裕樹君は相変わらず人気者で、テレビで見ない日はないし、葵君もCMに出ていた。

 主役ではなくて端っこにいるだけだったけれど、私には1番輝いて見えたよ。

 そしてクラウンさんのクラウンチャンネルは……なくなるらしい。

 といっても、悪いニュースではなく、新しくソウマチャンネルに生まれ変わるのだ。

 それを伝えるクラウンチャンネルの最終回に裕樹君と葵君が登場して、とても話題になった。


 『王冠をなくしちゃったのでクラウンじゃなくなります! これからはソウマとしてやっていきたいと思います!』


 仮面やマントを取ったクラウンさん、蒼真君は晴れやかな顔をしていた。

 っていうか、葵君は蒼真君のこと地味って言っていたけどイケメンじゃん!


『オレには夢があります。やめてしまったお芝居を続けたいんです。でも、両親の許可を得ることができません。いますぐじゃなくてもいい。いつかでもいいから、認めて貰えるように皆さんにも応援して欲しいんです!』

『僕達も応援してるよ!』

『おれ達と一緒に、蒼真の応援もよろしくお願いします』


 その動画には応援のコメントが溢れ、結果、今までは話を出しただけで拒否をしていたご両親が蒼真君と話し合いをしてくれたらしい。

 そしてテストの成績を維持するという条件で、裕樹君と同じ事務所に入ったそうだ。

 蒼真君が夢をあきらめないですんでよかった。


 そしてソウマチャンネル第一回。

 その内容はソウマ君と裕樹君と葵君でケージキャッスルを実況するというものだった。

 やったー!


 裕樹君が意外なことに、あまりゲームが上手じゃなくて驚いた。

 ケーズキャッスルの世界の中ではノーダメージでクリアした1階も、人形姫に追いつかれてばかりでゲームオーバーになった。


『ああ、くそっ! 実際に中でやった時の方が上手くいったな』

『あはは! 裕樹、また死んでる! ゲームは僕の方が断然上手いね! まあ、あっちの方でも僕は大活躍だったけど? ああっ』

『あーあ、葵君も死んじゃったね。オレだけしか残ってないじゃん!』

『蒼真、早く復活させてくれ!』


 三人が仲良く楽しそうにゲームをしている。

 いいなあ。

 私も参加したいなあ。

 また会おうと約束したけれど、ハンカチはまだ返せていない。

 どこに連絡したらいいか分からないし、まだ夢だったのかもしれないと思ってしまう。

 なぜなら、クラウンさんはケージキャッスルの世界にいる様子の動画を公開している、と言ってたけれど、そんなものは見当たらなかった。

 それに三人揃って動画に出た時は、この三人に繋がりがあったのかと驚くコメントで溢れていた。

 三人の繋がりが知られていないということはやっぱり、夢だったのかも……。


『あー……やっぱり専属の実況がいないと調子出ないな』

『だね』


 裕樹君と葵君の言葉にどきりとする。

 専属の実況って私のことかな!?


『代わりにこれを持ってきたよ』


 そう言って蒼真君が取り出したのは、たいやき型のクッションだった。

 たいやきは私のニックネームだ。

 もしかして……私の代わりがそれ!?


『たいやきだー! あ、でも、ゆりちゃんってたこやきじゃなかった?』


「葵君! たこやきじゃないよ! たいやきであってるよ!」


 全力で否定しながらも、私は嬉しくて泣きそうになっていた。

 やっぱり私のことだった。

 私の名前を出してくれた!

 三人は私のことを覚えてくれている。


『返しにこないから、そろそろ窃盗で被害届をだそうかな』

「え、ええ!?」


 返しにこないって、ハンカチのことだよね?

 それで窃盗!?

 わあ、私犯罪者になりたくないよー!


『そんな脅し言わない! 犯罪者になりたくなーいって泣いてるかもよ』


 葵君、するどい!


『そうだな。泣き虫だったな』


 泣き虫ではありません! ……多分。


『あー……蒼真も泣き虫だったな』

『なっ! 違う!』

『裕樹は友達少ない、でしょ』

『それ、しつこいぞ!』

『あはははは』


 相変わらずの三人を見ていると楽しい。

 やっぱり、私ももう一度三人に会いたい!

 いいのかな?

 許されるかな?


 ソウマチャンネルのコメント欄ではなく、誰にも見られないメッセージの方から言葉を送る。


『ハンカチ、お返しします。三人に会いたいです。たこやきじゃないよ、たいやきより』


「……会えるといいな」


 ドキドキしながら送ったメールを何度も読み返し、何度も返事が来ているかメールボックスをチェックした。

 その日は返信がなく、しょんぼりしながら眠った。


 翌日――。

 学校から帰ってきた私は、すぐにメールボックスを確認した。

 そこにあったのは、clownという文字が入ったアドレスだった。

 クラウンさん……蒼真君だ!

 慌ててメールを開く。


『日曜日。10時。霞台図書館に集合』


 一瞬で読めてしまう短い文章に、どきりとした。

 また三人に会える!?

 今日はまだ火曜日だ。

 日曜日が遠い。

 あと5日、あと4日……毎日数えるけれど、中々進まない。

 一週間ってこんなに長かった!?

 そして、待ちに待った日曜日がやってきた。


「あら、今日は早いのね」


 日曜日の朝は10時近くまで寝ていることが多いのに、今日は6時に起きて身支度を調えた。


「お母さん、この帽子変かな?」

「似合っているわよ。そんなにおしゃれして、今日はどこに行くの?」

「図書館!」

「図書館なら帽子はいらないんじゃない?」

「あ、そっか! でも、外を歩いている間は暑いし……」


 キラキラしている裕樹君達と会うには、ダサい格好をするわけにはいかない。

 気合を入れてお洒落をするけれど、なんだか気に入らない。

 悩んでいる内に、約束の時間が迫ってきてしまった。


「ああっもう、これでいいや! いってきます!」

「いってらっしゃい。あ、今日は誰と遊ぶの?」

「お母さんの『推し』とよ!」


 お母さんは裕樹君の大ファンで、裕樹君を推している。

 これから裕樹君と会うと言っても信じないだろうけど、本当だと知ったら騒ぐだろうな!


 うふふ、と笑い出してしまいながら家を出た。

 今日は日差しが強くて暑い。

 でも、早く三人に会いたくて、足はどんどん早くなっていった。

 早足から、気づけば駆け出している。

 図書館が見えて来て、更に私の足は早くなった。


「あれ?」


 息を切らせながら走り、辿りついた図書館はまだ閉まっていた。

 よく見れば開館時間は10時で、今は9時50分だ。

 急ぎすぎて早く着いてしまったようだ。

 がっくりと肩を落とし、玄関近くにあったベンチに腰を下ろした。


「……汗でも拭いておくか」


 そう言って取り出したのは、裕樹君にかりたハンカチだった。

 おっと、間違えた。

 今日返すものを汚すわけにはいかない。

 自分のハンカチを探して鞄を広げていると、男の子達の話し声が聞こえてきた。


 ――あ、ゆり!


 思わず立ち上がり、声のする方を振り返った。

 するとそこにいたのは――。


「みんな! 会いたかった!」





おわり

  • Xで共有
  • Facebookで共有
  • はてなブックマークでブックマーク

作者を応援しよう!

ハートをクリックで、簡単に応援の気持ちを伝えられます。(ログインが必要です)

応援したユーザー

応援すると応援コメントも書けます

ホラーゲームワールド 実況少女と王子様 花果唯 @ohana

★で称える

この小説が面白かったら★をつけてください。おすすめレビューも書けます。

カクヨムを、もっと楽しもう

この小説のおすすめレビューを見る

この小説のタグ