騎士試験
私がかごに入ると騎士試験をする先生となるナイトが現れた
先生は、普通のナイトとは違う黒い鎧のナイトだった。
こんなのだったっけ? と思っているうちに騎士試験がスタートした。
最初に出てきたのはドッグだ。
飛びかかってきたドッグをシルバーシザーズで斬り払い、一歩も動かず倒してしまう。
次はメイドだ。
チョキチョキと大きなハサミで突進してくるメイドをかわし、後ろに回り込むと背中を斬った。
双剣で×印に斬られたメイドはすぐに姿を消した。
続いてはコックだ。
コックは今まで倒せない敵として出てきたが、今回は倒すことができるし、ボスだったシェフよりは断然弱い。
どこから湧くのか分からない包丁を延々と投げてくるので気をつけなければいけないが、裕樹君は素早い動きで全ての包丁をかわしていく。
包丁を投げる手が止まった隙を狙い、斬撃を入れていき、コックの体力を削る。
ドッグやメイドよりは時間が掛かったが、コックも無事倒すことができた。
次はナイトだ。
ナイトはこの階でも出ているし、対処の仕方も分かっている。
最初に斬り込まれたことで打ち合いになったが、裕樹君が双剣で押し離し、距離を取り直すことができた。
ナイトの弱点である足元を足払いで狙い、転ばせたところを畳み込む。
1番時間は掛かったが、ナイトも倒すことができた。
ここまでノーダメージだ。
「裕樹君ってば順調すぎ!」
やっぱり裕樹君にお願いしてよかったと思う。
私ならすでに何発か食らっていただろう。
次で最終試験となる。
今まで出てきたアンダーシーカーが全種一斉に出てくるのだ。
倒すことは難しくないが、ノーダメージでクリアするのは難しいと思う。
ドッグ、メイド、コック、ナイトが現れ、部屋の中に並んだ。
先生役の騎士の号令で試験が始まる。
まず飛び出したのは動きが1番早いドッグだ。
裕樹君はアンダーシーカー達と距離を開けるため、後退しながらドッグを迎撃する態勢を取ったが、コックの包丁が飛んできたため回避した。
回避したことでドッグを倒せなかった裕樹君だが、コックの包丁攻撃が止まるタイミングを狙ってドッグを倒した。
メイドがチョキチョキと大きなハサミを動かしながら裕樹君を追いかけるが、動きがそれほど速くないため、後回しにするようだ。
それよりも、どこにいても飛んでくる包丁がやっかいだと判断したようで、裕樹君はコックに狙いを定めた。
だが、ナイトがコックを守る騎士のように裕樹君の行く手を阻む。
一度、ナイトを転ばせることに成功したが、包丁が飛んできたため避けているうちに起き上がってしまった。
厄介な2体に集中するため、後回しにしていたメイドをターゲットにした裕樹君は、包丁と騎士の攻撃をかわしながらメイドを倒した。
これでコック、ナイト対裕樹君となった。
コックもナイトも単体だと苦労しないが、タッグを組まれると大変だ。
私では倒せなかったかも。
倒せてもダメージをたくさんうけて、裕樹君をボロボロにしていたかもしれない。
裕樹君は動きが早い騎士の方をまず倒すようだ。
コックの近くにいると包丁攻撃を避けにくい。
ナイトをおびき寄せ、コックと離れて戦うように仕向けた。
ナイトは兜を被っているため視界が狭い。
後ろからの攻撃にも弱いので、素早く背後に回り、攻撃を入れていく裕樹君。
これを何度か繰り返している内にナイトを倒すことができた。
残ったのはコックだ。
単体となれば倒すのは簡単。
包丁を避けながら近づき、一撃でコックを撃破した。
「凄いよ! 裕樹君! ノーダメージだ!」
「ああ。結構ギリギリだったけどな……」
裕樹君がホッとしている。
私もホッとした。
実はかなりビクビクしていた。
大丈夫だと思っていたけれど、かごに入れられてからとてもこわくなった。
あー……終わってよかった…………うん?
「あれ? かごが開かない……」
「え?」
それに……。
「どうしてまだいるの?」
騎士試験が終わるといなくなるはずの、ナイトの先生がまだいるのだ。
「まさか!」
裕樹君がシルバーシザーズを握り治し、構えた。
それが合図になったのか、敵意を剥き出しにした先生が裕樹君に剣を向けた。
え、え、!? 嘘、こんなのゲームではなかったのに!
先生が前にシュタッ! と踏み出した。早いっ!
私の目にはちゃんと見えなかったが、裕樹君の目は捉えていたようで、先生の一撃を剣で受け止めた。
「こいつ、今までのと全然違う! 強い! 一撃が、重いっ!」
なんとか先生の一撃を押し戻した裕樹君が後ろに下がり、距離をとった。
だが――。
「あ!」
また瞬時に詰め寄られてしまう。
斬りかかられ、それを防ぐ裕樹君と激しい剣の打ち合いになるが、裕樹君が押されている。
「痛ッ」
頬や腕、胸やお腹のあたりがピリピリする。
ナイトと裕樹君の動きが速くて、なにが起きているかよく分からないけど、裕樹君は怪我をしていようで、そのダメージが私に入っているのだ。
勝手に自分の体に傷が増えていくのはとてもこわいけれど……我慢して戦っている裕樹君の邪魔にならないようにしなきゃ!
ああ、でも痛いっ。
私は自分の両腕を抱きしめて、歯を食いしばった。
「くそっ、速くて回り込めないし、足元を狙う余裕もない! ゆり!? 大丈夫か!?」
「う、うん! 大丈夫だよ!」
顔を上げて笑ったが、裕樹君は思いきり顔をしかめた。
無理をしているのがバレちゃったかな?
「待っていろよ。すぐに終わらせるからな! はあっ!」
防御ばかりになっていた裕樹君が攻撃に出た。
ナイトを押すように斬りかかり、追い込もうとしたが――。
「うわっ!」
「きゃああああああっ!!!!」
裕樹君がナイトに大きくなぎ払われ、吹っ飛んだ。
その瞬間、私の体に突き刺すような衝撃が走った。
思わず叫び、倒れてしまう。
「ゆり!!!!」
「ゆりちゃん!!!!」
「だ……大丈夫……」
なんとか笑ってみせるけれど……だめだ、体を起こせない。
かごの中でぐったりと倒れてしまった。
「くそっ! なんとかしなきゃ! おれのせいで! くそー!!」
裕樹君の焦っている声が聞こえる。
裕樹君のせいじゃないのに……。
なにか裕樹君の力になれることはないだろうか。
あの先生を倒す方法は……あ。
どうして忘れていたのだろう。
先生だと思ったから思い至らなかったのか。
黒い鎧の騎士といえば思い当たるものがあった。
レアアンダーシーカーのブラックナイト。
中々現れないアンダーシーカーで、倒すと貴重なアイテムが貰えるのだ。
雷が落ちたかのように全身がビリビリと痛むのを我慢しながら叫んだ。
「裕樹君! 弱点はネックレスだよ! ネックレスの赤い宝石が力の源なの! それを壊して!」
「ゆり!? 大丈夫なのか!?」
「大丈夫だから! ブラックナイトを倒して!」
「分かった! あとは任せろ!」
裕樹君がネックレスに狙いを定める。
ブラックナイトには私達の会話は聞こえないのか、動きを変えることはない。
裕樹君は隙を見て、ネックレスのチェーンに一撃を入れた。
するとチェーンが千切れ、ネックレスが床に転がった。
ブラックナイトが慌ててそれを拾おうとするが……。
「よくも手こずらせてくれたな」
裕樹君が落ちたネックレスにシルバーシザーズを突き刺す方が早かった。
ブラックナイトが消え、カチャリとかごが開く音がした。
あー終わった、本当に終わった。
痛みでボーッと転がっていると、裕樹君の駆け寄っている足音が聞こえた。
「ゆり、大丈夫か! 治療キットを使うからな」
体を起こしてくれた裕樹君が治療キットで治してくれた。
全身を包んでいたビリビリがあっという間に引いていく――。
「あーよかった!」と脳天気に笑おうとした私だったか、泣き出しそうな裕樹君の顔を見てびっくりした。
「……ごめん。いっぱい怪我をさせてしまった。守れなかった」
「ううん! 私だったら倒せなかったよ! 裕樹君を死なせてしまっていたと思うの。だから2人無事で正解だよ!」
「…………。そう、だな……」
「…………っ」
力なく笑う裕樹君を見て、私はなんてことをしてしまったのだろうと思った。
私はもう少しで、本当に自分のせいで人が死ぬという恐怖を裕樹君に与えてしまうところだったんだ。
戦いが終わっても消えない恐怖を裕樹君に残すところだった。
……ううん、もうすでに残してしまったのだろう。
実際に私は怪我をしてしまった。
ぐったりしている私を見て、裕樹君はどんな気持ちになったか……!
「裕樹君、ごめんね! 人に怪我をさせてしまう、こわい思いをさせてしまって! 私、自分の怪我ですむ、心が傷つかないずるい方を選んでた! 裕樹君に嫌な思いを押しつけてごめんなさい!!」
私は我慢できず、泣き出してしまったけれど、泣きたいのは裕樹君の方だ。
こんな時でも私はずるい。
泣きじゃくる私の頭にポンと手を置いて、裕樹君は話してくれた。
「どちらかがやらなければいけないことだったから、やるしかなかった。だからゆりは気にしなくてもいい。でも、選ぶってことは大事なんだよ。選んだことには、責任を持たないといけないから。それを覚えておこう」
「……うん」
裕樹君って……大人だとか、しっかりしてるとか、そういう言葉では足りない気がする。
お父さんとお母さん以外に初めて「尊敬する」と思った。
「私もこれから選ぶことがあったら、ちゃんと選ぶよ」
「ああ」
2人で顔を見合わせ、頷いた。
大変だったけれど、今回は大事なことを学んだ気がする。
「そういえばアイテムは貴重なアイテムを貰えるんじゃなかったか?」
「そうだった。あ、身代わりコートだ! あとはあまりいらないやつ」
「何となく予想がつくけれど、どういうものだ?」
「一回死んでも大丈夫!」
「予想通りだった。ありがとう。ゆりが着ておけ」
「え、やだ。可愛くない……分かりました」
ガイコツ模様のコートだから着たくなかったけれど、裕樹君の無言の圧を受けて大人しく従った。
うん。これはきっと正しい選択……。
裕樹君に着て欲しいけれど着てくれないだろうし、私のほうがぽっくり倒されて迷惑をかけそうだからありがたく着ておこう。
「……じゃあ、また気合を入れ直して。まだ先があるからな。休憩しないでいけるか?」
「うん! あ、葵君! 静かだけど大丈夫?」
「……なに? ぐす」
「……え? 葵君泣いてるの!?」
裕樹君と思わず顔を見合わせる。
「だって……なんか……僕も色々思って……なんか2人でいいこと言ってるし……なんか……」
「『なんか』が多いな」
「うっさい!」
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